第22話 突入せよ、女子校!
「大変なことになってしまったな」
『何がなんです?』
俺は今、スパイスになって電車の中にいた。
目的地は中央線の中程にあるとある駅。
特別快速も止まるところだから、確実に降りられる。
そこにある女子校に、俺は呼ばれていたのである。
あの招待状の主は、古き魔女であると名乗った。
その魔女は女子校にいる。
どういうことか?
「成人男子にとって、女子校というものは絶対不可侵の領域なんだ」
『主様は今、未成年女児なんじゃないですか?』
「見た目はそうだけどさあー」
変身していると念話でフロータと話せるから便利ではある。
だがそれはそれとして、この全身にみなぎる緊張感がほぐれるわけではないのだ。
「学校の中でメタモルフォーゼが解けたら人生が終わる……! 人生が……!」
『女子校だぞウッヒッヒじゃないんですね?』
「そっか、フロータは昭和の価値観だもんなあ」
『人を年寄りみたいに扱うのやめてくださーい!!』
何百年も存在してた魔導書なのに、若ぶろうというのか。
『あと、主様は今、その学校の制服姿に変身されてますし。誰も見破れませんって。完璧ですよー』
「うん。まさか断章がああも完璧に制服のデータを取り込んで変身するとは思わなかった。こだわりが強い。フォークリフトの被り物は凄く曖昧なやわらかフォークリフトな形だったのに」
『このコ、機械関係に興味が薄いんで……』
「魔導書にも個性があるんだなあー」
乗り込んだ特別快速列車が、国分寺を通過。
この次に停車するのが該当の駅だ。
ついに電車は到着し、俺は降り立つこととなった。
もう昼時を過ぎた頃合いだから、そこまで混んでいない。
「駅から歩いて行ける距離ではあるが、バスも出てるらしいな」
『せっかくだから歩いて行きましょうよー!』
「へいへい」
魔導書に言われて、町中を歩く。
地元とは違い、古い店並みがあったり、雑居ビルと一体になったような巨大な古いマンションがあったり。
印象的な町並みだ。
しばらく行くと坂道があって、ここをずんずん登っていくと丘の上にその学校があった。
明らかに伝統のある外見。
建校百年を超えてたよな、確か。
事前に読み込んできた学校の経歴を思い出す。
この学校は、今話題になっている美少女配信者、きら星はづきの母校ではないかと噂されている。
俺も黒胡椒スパイスとして活動するにあたり、彼女を参考にさせてもらっている部分が多い。
今の時代の配信で、彼女の影響力を免れることは難しいだろう。
「おじゃましまーす」
スッと学校に入る。
一瞬だけ何も無いはずの空間に抵抗を感じた。
その直後に、足を踏み入れることができる。
なんだ……?
『結界ですね。ですが結界というのは、力弱いものを防ぐもの。強い存在の侵入は防ぎきれないものです。現に、今年の梅雨ごろにここはダンジョンハザードのモンスターに侵入された記録がありますよね』
「ああ、それそれ」
ダンジョンハザードは、放置されていたダンジョンが成長しきり、内部に発生したモンスターが外へ溢れ出す事を言う。
モンスターが津波のように道を走り、家々を襲い、多くの犠牲を出す。
だから、ダンジョンは定期的に攻略されなければならない。
あれそのものが災害の種なのだ。
この学校もまた、外部からのダンジョンハザードに襲われ……。
突然中から現れた、きら星はづきによって救われた。
それ以来、ここは聖地と呼ばれてるな。
学校に入り込んだ俺を、後ろから写真で撮ってる男たちがいる。
「カワイイ!」「超カワイイんだが」「この学校の生徒かな?」
「生徒の撮影はやめてください」
守衛さんが出てきて、男たちの前に立ちはだかった。
もう一人の守衛さんが、俺のところに来る。
「外部の方ですね?」
「あっ、分かりますか」
「もちろん。生徒の顔は全部覚えていますから。招待状をご提示ください」
「あ、はい、これ」
俺は送られて来た生徒証を掲げた。
一瞥(いちべつ)して、守衛さんが頷いた。
「正式なお客人ですね。お通りください。我らの主がお待ちです」
「あっ、どうもー」
会釈してから通り過ぎて、主!?となった。
そもそも、守衛はどこから出てきた?
虚空から突然出現したような。
振り返ると、俺に話しかけた守衛の姿はいなかった。
ありゃあ、人間じゃなかったな……。
ここはただの学校じゃなさそうだ。
『魔女の気配ですねー。かなり古い魔女です。でも、力があるわけじゃないですよ? だって力があったら、あのアバズレどもに好き勝手にさせないですもん。先代様はまだ若い魔女でしたが、お力はありました』
「えっ、おばあちゃん若い魔女だったの!?」
『はい! お亡くなりになった時はああ言う感じにメタモルフォーゼしていたので、らしいご年齢の姿に』
「な、なんだってー!!」
今知る衝撃的な事実。
そういえばたまに祖母の家で、若い女の人を見ることがあったような。
お手伝いさんだと思っていたのだが、あれが祖母の魔女の姿だった可能性がある。
いや、俺がスパイスに変身できるようになった以上、確定ではないか。
「魔女の家柄、怖いなー」
『見事にそれは主様に受け継がれましたからね! フロータも鼻が高いです! 鼻はないですけど』
「なんて業の深い継承なんだ」
その後、また守衛さんが虚空から現れ、昇降口を案内してくれた。
「父兄用の出入り口をお使いください。スリッパをどうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
小柄なスパイスにはちょっと大きいスリッパだな。
「主は楽しみになさっておられます。くれぐれも粗相のございませんよう」
釘を刺されたぞ。
『かたっ苦しい使い魔ですねー。はー、おもんな』
「フロータがおかしいのではないか?」
『おほほ! 私は常に新時代の流行を取り入れ変化し続ける最新の魔導書ですからー!』
「はいはい。おっと、この学校の生徒だ……」
髪の長い女子がぽてぽて歩いてくる。
背筋を伸ばしたらすらっとしてて見栄えするだろうなー、というかなりカワイイ娘だ。
俺が思わず軽く会釈すると、彼女はビクッとなって、それからペコペコ会釈した。
コミュニケーションが苦手なタイプだなあれは……。
だが、この名門に入れているということは何かしら優れたところのある人物なのだろう。
「会釈はまずかったな」
『どうせスリッパ履いてますし、外部の人だって知られてますよー』
「それもそっか!」
それからすれ違う生徒たちに、「見学ー?」「制服似合ってるじゃん」「カワイイ!」など言われた。
「そうですかー? あの、これ卒業したお姉ちゃんから借りてて、入学の下見にー。はいー」
『主様もスパイスちゃんとしての仕草や言葉遣いが、板についてきましたねえ……。日々姿見の前で研究してる成果が今!』
「うるさいよ!」
ということで俺はついに、校長室の前に来た。
ここが古き魔女の居室だな。
扉に手を掛ける前に、向こうから「どうぞ」と声が響いた。
「ようこそ、最も新しき魔女よ」
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