第21話 怪文書来る!?

 ピックポックとやらでバズった、黒胡椒スパイス。

 まあバズと言っても、ある程度の規模のものはいつも起きている。

 俺は新しいコンテンツを生み出したわけでも無いから、ほどほどのバズであった。


 だが、ピックポックとツイッピーのフォロワーはもりもりと増えた。

 せっかくなので、フォークリフトの被り物をした配信を切り抜いてアップしておいた。


 受けた受けた。

 このノリか……。


『主様がどんどんSNSの使い方上手くなっていきますねー。ツブヤキックスのメインのユーザーは四十代から五十代が多いそうですからね。若者にリーチするならPickPockですね!』


「フロータはなんでそんなに詳しいんだよ」


 ちょっと前まで、書庫に封印されていた魔導書とは思えぬほどの情報通。

 ずっとスマホを使ってネットの研究をやってるもんな。

 俺にとってのブレインなのは間違いない。


 で、俺はと言うと……。


「可愛いポーズ!! うーん、これはカワイイ。かなりポイント高いなー」


 姿見の前で、くるっとターンしたり、見返りでビシッとポーズを決めたり、自分をカワイく見せる研究に余念が無いのだった。

 そろそろツイッピーは収益化がいけそうだ。

 サブスクの内容も考えておかねば……。


 ファン箱では、スパイスのカワイイピンナップを配信している。

 評判がいい。


「なにっ、ASMR希望だと!? あのマイク、凄い高いんだよなあ……。稼がないと提供できない……。よし、お金を貯めてASMRマイク買いますって返信しておこう……」


 配信者というのはとにかくお金がかかる。

 いや、ダンジョン配信だけするなら武器と衣装代くらいなんだが、アバターを被ってアイドルっぽい活動までやろうとすると、日々お金が飛んでいくのだ!


 俺はまだ、メタモルフォーゼでガワを被っているからましだけど。


「金のことを考えたら気分が鬱々としてきたな……。今日は夜の雑談配信だけだし、昼から酒を飲んで昼寝しちゃうか! うひょー! 自由業最高ー!!」


『主様が順調に堕落していきますねー! フロッピーちゃん! お仕事とかはないんですか?』


『そういった連絡をいただいておりません。怪文書は頂戴いたしました』


『怪文書!』


「怪文書!?」


 すっかりフロータに教育され、使い魔二号みたいになったうちのAフォンフロッピー。

 謎のメールを受け取っていたらしい。


「俺宛のメールは直接は届かないようにしてたはずだけど……。なんだろう?」


 メールボックスに届いたという怪文書を開いてみる。

 ウイルスやバックドアの類は、フロッピーがチェックしてある。

 問題なしということだ。


『フロッピーちゃんが分からないなら、あとは魔法の領域ですねえ』


「メールに魔法を載せてくることってあるの!?」


『ありますよー! だって、今、主様が配信できてるのって科学の力だけだと思います!? 同接を使ったパワーアップはあれ、信仰を集めて配信者を擬似的な亜神に変えることで人類の能力限界を超越する、魔法的技術ですよ。どこかでこれ、魔女が関わってますから』


「な、なんだってー!! 今、凄いことをサラッと言ったな。そうか、魔法は科学に上乗せできるのか。そう言えば現代魔法っていうのもあったもんな。科学的に魔法を再現したみたいに言われてたけど……」


『実際は、科学と魔法の合わせ技で、魔力が足りない人でも電力で補助して魔法を行使させる技術じゃないですかね? ほらほら主様! メール読んでくださいよー』


「へいへい。えーと? 黒胡椒スパイス様。師走の候 ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。この度、貴女の配信を拝見いたしました。これまで秘されていた魔女の力を、公の場で振るう姿と、貴女を支持する人々。時代の変化を感じました。貴女は新時代の魔女なのでしょう。古き魔女の生き残りとして、貴女とお会いしたく思っています。ご興味がありましたら、添付した場所までお越しくださいませ。招待状をお届けします。桃園の方より……だって。なんだなんだ!?」


『怪しいですねー! でも、明らかにこの文体から魔法を感じます! 主様、一度行ってみてはどうです?』


「そうだなあ……。住所はええと……。梅雨頃にダンジョンハザードが起きたとこじゃないか。で、この地名は……学校!?」


 そこは、名門女子校として有名な私立高校だった。

 超難関で、家柄が優れていようと、人品が及んでいなければ当たり前のように落とされるとか。

 そんなところから俺に招待状?


「一応、行ってみるか……」


 俺がそう呟いた瞬間だ。

 ドアポストにガタン、と音がした。


「うおーっ」


『うわーっ』


 俺とフロータが驚き飛び上がる。

 俺は音に、フロータは突如発生した魔力に驚いたらしい。


『これ、主様が承諾したら招待状が届くように仕掛けてありましたね……』


「こわ……。本当の魔法じゃん……」


『主様が毎日使っていらっしゃるものも魔法ですが?』


「そうでした」


 ドアポストを開けると、太めの封筒が一つだけ。

 ずっしり重い。


 宛名は『黒胡椒スパイス殿』とだけあった。

 封筒は蝋で封印されており、そこに押された印はあの学園の校章だった。


 開いてみると……。

 中に入っていたのは生徒証。


「これを使って入ってこいってことなのか……!? 俺が、女子校に……!? 事案では?」


『黒胡椒スパイスちゃんならカワイイ女の子なので安心ですね! 主様行っちゃいましょう! あのアバズレどもなら、こんなまだるっこしいことはしてきませんから! それに魔法の形式が古いです。多分、先代様よりも前の時代の魔法ですねえ。会ってみる価値ありますよ!』


「そうかあ……。フロータがそこまで言うなら」


 昼間から酒を飲んで昼寝はお預けになったのだった。


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