第19話黄薔薇の屋敷
外に出ると、次の屋敷のアーチをくぐる
こちらは黄色い薔薇が咲いている
「では、わたくしはこちらで失礼致します」
そう言って、フェンさんはアーチをくぐることなく、手前でお見送りの姿勢を見せた
「あぁ。」
カイリ殿下は右手をヒラっと上げて答え、そのまま入口へと向かった
何か訳があるのかな?
扉に触れる前に、ガチャっと、扉が勢いよく開き、そこには、きれいな銀髪をポニーテールに結わえた凛々しい女性が立っていた
彼女は腰に携えた剣に手をかけ、辺りを警戒する風だったが、私の姿を見据えて、力を緩めた
「こちらがラディア。騎士団長の一人娘だ」
カイリ殿下の紹介を受けると、ラディアさんは、こちらに向かって歩いてきて、跪いて片手を胸に当て、私を見上げた
「宮廷騎士団第一部隊の隊長を務めております。ラディアと申します」
かっこいい……。女の人なのに、なんか、かっこいい!!
「初めまして。みさきと言います。よろしくお願いします」
私も自己紹介をした
すると、ラディアさんは立ち上がり、流れるような動作で私の手をとると
「みさき様。どうぞこちらへ」
と、奥のお部屋へエスコートしてくれた
あの、カイリ殿下にご挨拶とかないんですか?私をエスコートしている場合では無いのでは??
ソファーに誘導され、隣にラディアさんが座った
カイリ殿下はテーブルを挟んだ向かいのソファーに1人で座っている
「フェンがいると、みさきの体に良くないだろうから、あいつは帰ったぞ」
カイリ殿下がラディアさんに説明をした
「お気遣い頂いてしまい申し訳ございません……」
ラディアさんは殿下と目を合わせずに答えた
「みさき。一応言っておくが、私がラディアに嫌われてる訳では無い。」
カイリ殿下は嫌われてない宣言をした
「ラディアが極度な男嫌いなだけだ」
「嫌い……というか……苦手……なだけです」
こんなに凛としたたたずまいで、かっこよくエスコートしてくれるラディアさんは、男の人が苦手?!意外だ………
「フェンとは相性が悪すぎる。お互い威嚇しあって、2人で1年分くらいの魔力の穢れを生成しそうだからな」
「なぜそんなに?!」
「私は父に剣術を習い、幼少期から将来は父のように騎士団の一員になりたいと思っておりました。しかし、女が騎士になどなれないと、周りの男達にバカにされてきたのが……我慢できなくて…………」
「世の中の男性は皆、敵です……」
なんか、後宮というものがなんなのか分からなくなってきた
「ラディアさんはなぜ後宮にいらっしゃるんですか?」
「それは、一人娘を結婚させようと次から次へと縁談を持ってこられまして…。私は騎士として一生この国に尽くす気持ちでおりますので、断り続けたのですが……。父には騎士団を辞めるように言われ、私が従わないので、勅命を賜れば従わざるを得ないだろうと、父がカイリ殿下に相談に行ったところ…」
「私が、後宮に入るように。と命じた」
「後宮の警護も兼ねて、ラディアになら任せられると思ってな。フェンより剣の腕は立つ。それに、男であろうと女であろうと、腕が確かなものを辞めさせる道理はない」
この特殊な後宮の在り方がわかった気がする
「後宮って、私利私欲のために女性をはべらせて、華を愛で、情を交わす。みたいなイメージだったけど、ここは違うんですね」
私が感想を述べると、
「ん?その通りだが?私の好きなように人を選び、好きなように屋敷を与え、庭にはこの国の国花である薔薇を年中鑑賞できるようにしてある。あとは、時折今しているように皆の様子を確認している。」
あ……そうですか……。なんかズレてんだよな~~
「そうだラディア。1つ陣を頼みたい」
「どこにでございますか?」
「マリアの聖堂の裏門の付近だ」
「裏門ですか?正門に1つ施してありますが、裏門とはどこにあるのでしょう?」
「え?うちの真ん前に何するんですか?」
「正門からだといちいち周りこむのが面倒だからな。本当は部屋の中に敷きたいところだが、あの結界では無理があるからやむなしだ」
「ええっと、みさき様は聖堂にお住まいで?」
そういえば、カイリ殿下は私のことをどこまでみんなに伝えてるんだろう……
「ラディアには言っておくが、これは秘匿事項だ。聖堂に住むマリアはみさきのことだ」
ラディアさんは一瞬驚く表情を見せたけど、直ぐに表情を戻し全てを察したかのようだった
「かしこまりました。私が護衛することもございましょう。お造り致します」
「あの~一体何を……」
「ここに来る時も使ったと思うが、この国に敷かれた空間転移の魔法陣は、全てラディアが施したものだ。」
「はい。私の魔力特性は『移動』。私自身であればどこでも移動することは可能ですが、魔法陣を施せば他の方も転移可能になります。まぁ、使えるのは限られた方のみですが」
マジか。ラディアさんが作ってたのか……。凄い。
「そういえば……」
ラディアさんがカイリ殿下に話しかける
「第6都市の件は無事解決したようですので、帰りに1、2個サポートを置いて参りました。ですので、ルゥ殿下方は1日、2日ほど帰還が早まるかと」
「……………………。」
カイリ殿下からの返事は無い
無言で立ち上がり、壁にかけられている国の地図のような掛け軸に向かって歩いていく
「みさき」
呼ばれた私は殿下の元へ向かい、差し出された手に自分の手を重ねて、2人で地図の中に飲み込まれていった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます