第18話黒薔薇の屋敷
仲睦まじい2人に別れを告げて、フェンさんの案内で、隣の屋敷に向かう黒薔薇のアーチをくぐる。光の反射で七色に見える不思議な黒薔薇に魅入っていると、カイリ殿下が
「後宮内の薔薇は全て今から会うライラが管理している」
と教えてくれた
辺りを見渡すと、それぞれの御屋敷の周りに各色の薔薇が綺麗に咲いている。
この後宮は建物や庭も建物が、ほぼひと続きになっている不思議な作りだ
元は1つの御屋敷だったからなのだろう
入口をノックすると、赤茶の髪を左右で三つ編みにゆるく結わえた女性が現れた
「ようこそ、お待ちしておりました」
日のよく当たるティールームに案内される
お屋敷の内装が先程と全然違う
ハーブティーのいい匂いが立ち込める空間でテーブルを囲んで席に着いた
そして、カイリ殿下にご紹介を賜る
「こちらがライラ」
と、手で指し示されたライラさんは椅子から立ち上がり
「はじめまして。ライラと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
スカートの両端を持ち、形よく広げると、ちょこんと挨拶をして椅子に戻った
「は。はじめまして。みさきと申します」
私はご挨拶の所作も分からず、とりあえず立ち上がってお辞儀をした
帰ったらユミさんのマナー講座の補習を願い出よう……
「薔薇、綺麗でした」
私は素直な感想を伝えた
「私の自信作ですのよ。今、光を通すと色が変わる七色ローズを開発中ですの」
「さっき、光の加減で色んな色に見えたんです!不思議な薔薇ですね。素敵です」
「あら、色がお見えになるの?!もしかして、光の魔力をお持ち?」
「えーっと……私、魔力が使えないので、自分の魔力がどんなものか、分からないんです……」
「そう……。」
ライラさんは残念そうだった
「もし、よろしければ今度、私の研究にお力添えして下さらない?」
私魔力使えませんよぉ……
「ライラ。無理を言うな」
カイリ殿下が助け舟をくれた
「ライラは薔薇の研究者としてとても優秀で、様々な薔薇の品種改良に熱心だ。身分の高い研究者に不当な扱いをされていたので、私が後宮に住まわせて、相応の身分を与え、今は自由に研究をしてもらっている」
さっきメリナさんと、アルバさんにチクチク言われたことが原因なのか、殿下は珍しく言葉多く説明してくれる
「ところで、カイリ様?フェン様がお見えにならないようですが……先程までご一緒だったのに何処へ?」
「ん?確かに居ないな」
部屋に向かうまでは一緒に来ていたのに、フェンさんの姿が見えない
ライラさんは入ってきた扉の方へ歩み寄ると、扉を開け、外で待っていたフェンさんを引っ張って中へ入ってきた
「フェン様お久しぶりです。どうぞこちらへ」
そう言ってカイリ殿下の真横に椅子を並べると、座るように促した
「いいえ。私は……」
「いつも言ってるではございませんか。わたくしに、お話のネタをご提供くださいと……」
どういう要求なんだろう……
「ライラは趣味で小説も書いている」
「なんでも、ストーリーのリアルさと、表現のバリエーションが欲しいと、日常にあった話をせがむのでな。」
カイリ殿下がお話を沢山するとは思えない。だからフェンさんか!言葉数少ない殿下の補足をフェンさんがすると考えると、居ないとお話にならないのかもしれない
ライラさんは2人の様子をニコニコと見つめている
「ライラさん。どんなお話を書いているんですか?」
「恋愛小説ですの」
へぇ~
「みさき様はいかがして日々お過ごしになられてますの?」
いざ聞かれると答えに困る
「ゴロゴロ……してます」
「それはどのように?」
どのようにと聞かれても困るかもしれない…
「何もしないでぼーっと、ソファーの上で……」
「そうだわ!こちらにいらしてくださる?」
ライラさんはみんなを連れてソファーのある方へ歩みを進めた
「フェン様。試しにこちらでゴロゴロなさってください」
「みさき様。いつもどのようにゴロゴロしているかご指示くださいますか?」
え?実演するんですか?
フェンさんは、あぁ…始まってしまった……という顔をして、やらなければ終わらないと言うことを知っているのか、大人しくソファーに座った
ライラさんはキラキラした顔で私を見つめてくる
「で、どのようにお過ごしになられるんですの?」
「えーと…ソファーに寄りかかって、そのままコテンと横になって、肘掛を枕に仰向けになったり……」
「フェン様!その様になさってください!!」
フェンさんは大人しくソファーでゴロゴロした。
表情が死んでいる
「カイリ様!!」
今度は殿下の方を向き、ライラさんは質問を投げかける
「もし、日常でこのようなフェン様のお姿を見られましたら、どのようにお声かけなさいますか???」
「疲れているんだろう。寝かせといてやれ」
ライラさんはそれを聞くと、はっ!!としてパタパタと、棚からブランケットを取り出すと
「お掛けになって差し上げてください」
と、ニッコリ微笑みながらブランケットを殿下に押し付けた
言われるがま、殿下はフェンさんにブランケットをかける
「!!!!これですわ!!!!」
ライラさんが閃いた!!と言わんばかりの声を上げ、
「わたくし、良いストーリーが書けそうですわ!!みさき様!ありがとうございます」
そう言って、私の両手を胸元にまとめてギュッと握ると、満面の笑みで私を見つめてくる
幸せオーラを感じる
なんだかこちらも幸せになれる気がする
私もなんだか嬉しくなって顔が緩む
「行くか……」
カイリ殿下がフェンさんに声をかけると、
「はい」
と返事をして起き上がる
「では、ライラ。また来る」
「はい。カイリ様。みさき様もまたぜひいらしてください」
そう言って、お見送りのお辞儀をした
屋敷を出ると、フェンさんがどっと疲れた様子で歩いている
(今度、ライラさんの書いた小説読ませてもらおうかな……)
私達は黒薔薇の屋敷を後にした
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