第12話カイリ殿下と…キ……
今日もカイリ殿下は現れた
陽が落ち、街では街灯が灯っている頃だ
長椅子のソファーに隣合って座ると
「変わりないか?」
と聞いてくる
「……はい」
もっと可愛げのある答え方もあるだろうけど、上手く言葉にならない
「いつも時間が取れなくてすまない。今日は少し話をしたいと思ってな」
(お話チャンスかもしれない!)
「私も!聞きたいことがあるんですが、よろしいですか?」
「あぁ。なんだ?」
了承を得たところで、私は疑問に思っていたことを聞いていった
「何で毎日来てくれるんですか?お忙しいはずなのに。わざわざここまで…」
「様子が気がかりだからな。君は浄化ができないのだろう?私の魔法は浄化とは異なるものだ。」
「浄化じゃないけど。浄化できてる???」
「そうだな……説明が不十分だったな。」
「私の魔力の特性は『置換』だ。魔力を他のものに置き換えたり、変化させたり、使い方によっては便利なものだ。」
「君に施してるのも、この魔法を応用している」
難しすぎて分からない……
「今は、魔力の穢れを散らしているだけで、気にならなくなっているだけだ。魔力の穢れを取り除いている訳では無い」
「魔力は体を流れる血液のようなものだ。涙や汗などの体液にも魔力は影響する。触れずとも、魔法を使うことはできるが、できることが限られるのでな。」
「本来なら……」
そこまで言うと、殿下は口篭り、続きを口にしてはくれなかった
「いや。それは、今は置いておこう。それより……」
と言って、私に手を差し出した
「もうそそろ慣れたか?」
これは、手を出せという合図だ
毎日同じことをしてるから、その手に自分の手を重ねるものだと刷り込まれてしまった
慣れないうちは緊張でドキドキしていたが、今はこうしていると、むしろ少し安心するし、落ち着く。でもドキドキするのは変わることなく、私の心拍数を上げた
「あの…毎日これやらないと、ダメ…なんですかね?」
「根本の穢れを取り払える訳では無いからな。私の魔力で直接中和するのが1番なんだが、それはまぁ……」
「いや。忘れてくれ」
そう言って、私の手を離すと説明を終え、他の話題を振ってきた
「いつもここでは何をしている?」
「礼拝堂でご挨拶をして、あとは…何もしていません」
「……ん?」
私の仕事は多分形式だけのご挨拶
ここにはマリア様がいますよ~。っていう存在があれば人々は安心するし、不安な気持ちが解消する。それが心の浄化に繋がるし、国の安定にも繋がる
魔力は心と繋がっている。歪んだ心は魔力を曇らせる。
「えっと…何かもっとした方がいいですかね?」
「街に出たりしないのか?」
「いいえ。この敷地から出ない……です」
この教会の敷地は特殊な結界で守られている
だから、街に渦巻く想念や、人々の負の感情にも当てられない
「出たくないのか?」
「………出ない方が良いと、言われています」
カイリ殿下は少し考えた後に、ユミさんを呼んだ
「お呼びでしょうか。カイリ殿下」
「みさきを街に連れていこうと思うのだが、支度を任せたい」
(え?)
「しかし…みさき様は魔力に対する耐性がありません。負の魔力の影響を受けやすいので、街の人混みは難しいかと存じます……」
「『護り』を与える。それなら軽い思念であれば影響は受けまい。少し出歩くだけだ。直ぐに戻ろう」
「………かしこまりました」
ユミさんは外出を許可し、準備のために部屋を出た
あの、私の意思はどこへ……別に街とか興味はなく……家でゴロゴロしていちゃダメなんですかね??
殿下は私に向き合うと、自分の手のひらを見つめるようにボソボソと何かを唱えている
「口を開けろ」
そう言って、私の顎に手を添えた
(え!?)
近い!顔が近すぎる!!赤い瞳が迫ってくるドキドキに耐えられずギュッと目を閉じた
すると、口元にふわっと唇が触れる
チュッ……チュッ……と、優しく唇が重なり、カイリ殿下の魔力が口元から伝わってくる
その魔力を受け入れるように自然と体の力が抜け、緩んだ口元からスルッと舌が入り込んで来た
(ァ……魔力が………流れてくる……)
先程何か唱えていた魔力の塊が口を通して私の中に流れてきて、その甘美な魔力にトロトロになった
すると、チュッと音を立てて唇は離れ
「護りの呪符だ。そのまま飲み込め」
と囁かれた声にしたがって、与えられた魔力を飲み込んだ
少しすると、我に帰った私は一連の出来事に恥ずかしくなり、顔を赤らめうつむいた
「みさき様、お支度を…」
ユミさんが私を呼びに来た
声のする方に向かってフラフラっと歩き始める
(あ……えっと…今……キス……して………。)
歩く速度が自然と早くなる。
(はぁーーー!!ああーーー!!!!うわぁぁーー!)
バタバタと逃げるように部屋を出て行った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます