第一章 酒匂紅

第1話

第一章 酒匂しゅこうべに





「ねぇねぇねぇねぇ!ねぇってば!」


「あーあー、うぜぇ」



僕、百鬼きなりすいは、今非常に困っている。


戦場で出会った、あの漆黒の正体を知りたくて。


僕がいるのは、戦闘特化型集団LUNA──ルナという、裏社会を牛耳ぎゅうじる組織。


その、第一部隊の指揮官が僕だ。

女だけどね。


強ければいいこの世界で、最高の居場所を与えられた。

誰よりも早く、戦場にひたれるのだから。




目の前にいるのは木田きだまこと

ルナの最高司令官である。


どうしてこんな巨大組織の頭目に僕が簡単に会えるかといえば、そんなのは簡単。

第一部隊の指揮官だから。

僕はいつでも木田に──僕にとって都合がいい時とも言う──会える。



「知ってるなら教えてくれてもいいじゃん!」


「知らねぇよ。知ってたらうざいお前にさっさと言う」


「嘘でしょ。だってあの人僕らの援護してたじゃん。

いつもの僕だったら、あんな瀬戸際に立たされて大興奮なのに。

しかもそれを邪魔されたんだよ?それなのに僕はちっとも腹が立ってない」



あの漆黒を思い出す。

美しい流れを描くナイフ捌きと、

だるそうに銃を放つ姿。



その表情は、無だった。



瀬戸際に立たされた僕たちなど関係なく、

彼はその場を制圧し。



消えた。



そう。




気づいたらもういなくなっていたのである。

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