眠れる国のありす
@rita2299
一話📖~あるところに~
「開けて」「無理だ」
「開けて」「オマエ、その小ささじゃ鍵取れないだろ」
「開けてって、言ってる」「無理だって言ってるんだ」
緑のドアに向かって、少女は語気を強めました。
「あのビンの中身が、ちびっこになる薬って、
先に説明しないのが悪い。」
「そうですかい、でも大きくなるカップケーキもテーブルの上だな。
手詰まり…いだだだだ!!!」
「いだっ!鼻を!掴むんじゃない!」
「だってあなたドアノブだもの」
少女は強く握ったようで、ドアは激しく痛がります。
ノブを回そうと傾けると、少女の頭の、
リボンも一緒に傾きました。
「わ、私は意地悪で開けんと言ってる訳じゃない!不可能だと言ってるんだ!」
「もうちょっ…と!」
その拍子に、ドアが枠から外れました。
ノブを引っ張ると、ドアごと外れたのです。
「開いた…じゃあ達者で。」「か、勝手な…!」
くぐり抜けて行く少女に呆れるドア。
そう。お分かりの通りこの少女、枠にはまらない勝手ぶりなのです。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「ねーねー」「聞いてるー?」
「…なに急に」
ドアを抜けて、森をぶらぶらしていた少女。
そこへ立ちふさがってきたのは――
「僕ちゃんディー。」「俺ちゃんダム。」
「双子の姉妹さー。」
そう言って、シンメトリーにポーズを決めて見せた二人。
「そう。さよなら」
息ぴったりな彼女たちに見向きもせず、どこへ向かうのやら…
「1分待ってー」「1分ちょうだいー」
双子は『せぇの!』も言わずに、
「「お話聞かせてあげるからー」」
と揃って喋ります。
「いらない。」
しかし少女はきっぱりと断りました。
「面白い話がー」「あってねー」
それでも双子は続けます。
道を塞ぐな、と言わんばかりに首を傾ける少女。双子の間を通ろうとします。
「わたし、急いでるの。」
「……そうなのー?」「どうしてー?」
少女は無だった表情を少し変えて、不思議そうにします。
「―――わすれちゃった」
そう。首と共にリボンも傾げるこの少女、なんとも不思議なのです。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「そこを退け、このままじゃ今日中に終わらん!」
またも森をぶらぶらしていた少女の隣を、白髪の女性が駆けます。
少女が後ろ姿を見ると、うさぎの耳が生えていました。
「…せっかちだな」
白髪の女性は、可愛らしい屋根の家に飛び込んで行きました。
「ああ忙しい忙しい、
こんな時に忘れものとは、苛々する…!!」
彼女は傘と繋がる時計を、何度も何度も確認しています。
すると扉から顔を出して、少女を指差しました。
「そこのリボン!私の部屋から手袋を探して来てくれ!
いいか、効率重視だからな!」
「突然、なに…」「いいから!」
少女は相変わらず無表情でしたが、彼女に質問がしたかったため家に入りました。
慌ただしくタンスを漁る彼女を横目に、
「手袋ってなきゃダメなの。」
「駄目に決まっているだろう!私は
手紙も見てくれも完璧でないと、いけないのだ!ああ、苛々する…!!」
「あった…」「感謝する、行ってくる!」
少女がそう言うが早いが、白髪の彼女は手袋を取り、家をダッシュで出ました。
「慌ただしいうさぎ。」
彼女の家に取り残された少女。そこに、
「ヴィンセント!オレがやって来たぜ!」
「今、居るか?おい、ヴィンセント?」
二人の来客です。
「やっぱヴィンセント居ない感じ?」
「あれ、嬢ちゃん誰だ!」
「まず自分が名乗って。」
少女がビシッとそう言います。
「オレはビル!煙突掃除が仕事さ!」
「セドリーだよ?今日は、窓の修理に来たんだけど…?」
ヴィンセントの所在を訊かれて、首を横に振る少女。
二人は顔を見合わせて、勝手に納得した様子です。
「どっか出かけてんだな!慌ただしい兎だ!」
「慌てすぎて窓壊すくらいだしね…?」
「ヴィンセントって、あのうさぎ。」「そうさ!」
少女はそこでようやく、ぼんやりと2人の顔を見ました。
ビルはのっぽで細いけど、梯子を担いだ緑髪の女性。
セドリーは肩にキツツキを乗せた、細目で桃髪の女性。
それでもこの少女は、ぼんやり、見つめています。
よほど仕事熱心な彼女たちは、家主が居なくても作業を始めました。
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
つまらなくなり、また少女はぶらぶら…
「そこのあなたっ」「リボンの貴女っ」「何度も呼んでおりますのよ~」
口々に聞こえる高い声たち。
実はこの道に入った時からずっと、聞こえていました。
しかし少女は―――
心ここにあらず、でした。
どこからか声を掛けてくる花々たちも、
地面から首だけ出すイモムシの彼女も、
少女の目には映っていないのでしょうか。
少女はどこから来たのか、なんという名なのか…
ここは、どんな世界なのか。
分かるのは少女自身だけ…
「わ!」
ぼんやり歩いていた目の前に、…三日月?
いえ、にやっと笑った顔です。
木の上から突然、顔がさかさまに現れたのです。
「びっくりしたかい?ひひ…」
「………」
おや。これには少女も、目を見開いて固まってしまいました。
と思いきや。
「…せいせいどうどう……」「?!」
なんと、木にぶら下がる猫耳の彼女の、
赤紫の尻尾を引っ張っているのです!
そう、綱引きの要領で!
少女は焦る無言で彼女を見つめながらも、尻尾を引き続けます。
「まっ待て待て待て!!!これだと落ち、る――」
ドターン!
…少女は真下から引っ張っていた為か、下敷きになってしまいました。
猫耳の彼女は、瞑っていた目をゆっくり、開きました。すると、
―――少女の目は青く、ぐるぐると渦を巻いていたのです。
眠れる国のありす @rita2299
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