思いの外

夐假

1

 職場の最寄り駅から電車に乗って帰る。そんないつもの行動が、今日は違った。

 電車を待つ列に並んでいると、隣に自分と同じ身長の人物がいると気付く。お互いなんとなく相手の顔を視界に入れて、徐々に視線を合わせる。すぐに一人が沈黙を破る。

「あ」

 男、神樹恒が相手に指を差す。

「……もしかして恒?」

 女、神童悠は相手の顔を凝視して尋ねる。

「そう。めっちゃ久しぶりじゃん。小学校の卒業以来?」

「そうね。かなり経つのに案外顔は分かるもんだな」

「お互い童顔だしな。今は何してんの?」

「広告の仕事。恒は?」

「俺は営業」

「え、意外。ひたすら事務作業してそうなのに」

「結構動き回って人と会ってるよ。あんたこそ広告は意外だな」

「デザインするのが好きなんでね」

 近況を話しているうちに電車が来た。車内での会話で二人とも自宅の最寄り駅も同じであることが分かった。

「自宅と職場の最寄り駅が一緒なのに一回も会ったことがなかったね」

「朝乗る電車の時間は違うし、俺は残業が多くて今日みたいな定時上がりは珍しいからな」

「そうか。私はたまに残業があるかな」

「いいな。なあ、今日の晩飯はもう決まってるの?」

「うーん、いつも冷蔵庫にある食材を見て考えているから、決まってないと言えば決まってない」

「一人暮らし?」

「そう。恒も?」

「うん。良かったらこれから飲みにでも行く?」

「いいね。そうしよう」

 二人は自宅の最寄り駅で降りて、近くの居酒屋に寄った。

「普段酒は飲む?」

「たまに飲みたくなって、家でちびちびと」

「へえ。俺は毎日一杯はやってる」

「自炊は?」

「一応。少食だし全然凝ってないけど」

「残業多いのに偉い……」

「いや本当に大したものじゃない」

 飲み物と料理を決めて注文していく。

「いきなり誘っておいてなんだけど、付き合ってる相手はいないの?」

「いないよ」

「いつから?」

「んー、付き合ったことないねー」

 悠は視線を外して遠い目をしている。

「マジ?俺も相手いたことない」

「うそ⁉︎一人くらい元カノいそう」

「いないいない。ずっと男連中と連んでたから」

「私も女友達と一緒にいたから……」

「そういうもんなんかねえ。好きな人は?」

「いや……?」

 悠は首を傾げる。

「そうか。なあ、俺達の同級生で結婚した人いる?」

「あー、そういえば」

 悠は同級生の名前を挙げていく。結婚した者、子どもがいる者。食事をしつつ話を続ける。

「なんか思ったより少ない?」

「うちの学年って進学した人が多いから、仕事がしたくてまだ結婚を考えていないのもあるかもよ。大学院に行ってる人もいるし」

「なるほどな。そっちは結婚願望あんの?」

「どうだろ。一人で生きていくのは難しいから、結婚した方がいいんだろうなとは思うんだけど」

「積極的には考えていないと」

「そう。恒は?」

「うーん、好きなやつとだったら結婚したくなるのかねえ」

「何だそれ」

 その後も仕事の話などをして、お開きとなった。

「小学校の同級生とお酒を飲むって不思議な感じ」

「確かに、酒飲めない時に出会ってるからな。変な感覚ではある。また仕事終わりにでも飲みに行こうぜ」

「うん。連絡先交換しよ」

 お互いの連絡先を交換し、それぞれ帰路についた。

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