モブ転生したのでせめて推しカプの結婚式に行けるように頑張ります。
飴水
転生
なんとも呆気ない人生だった。
風邪は小学一年生以来ひいたことはなかったし
インフルエンザに至っては一回もかかったことはない。
学級閉鎖になり、学年全員がインフルエンザで苦しんでる中でも私だけはすこぶる元気だった。
通り名は某魔法使い映画から取って『生き残った女の子』。
ただ免疫力が高いのに随分な通り名である。
そんな私が流行病にかかり、あろうことかそれを拗らせ
高校三年生の十七歳という若さであっという間に他界してしまった。
死に間際、来週好きな漫画の最終話が出るのに…とか
退院したらケーキバイキング行くはずだったのにとか
せめて一人くらいは彼氏が欲しかったなとか
呑気なこと考えてゆっくり死んだのは鮮明に覚えている。
そして再び目を覚ました時は動揺した。
もしかして生死を跨いで私生き返った?
やっぱり私の体丈夫すぎない?
と一瞬思ったが部屋は最期に質素な病室とは異なり、
見知らぬ可愛らしい家具が置かれた部屋だった。
もちろん生前使っていた自室とも大きく異なる。
どこなんだろうと思い、ベッドから降りると
コンコン、とノックの音が聞こえた。
「おはよう…あれ?早起きね!
そうよね、今日は高校の入学式だし!」
ドアが開いて入ってきたのはなんとも優しそうな女の人。
どこかワクワクしてるような表情だ。
誰?しかも高校の入学式?
高校3年生なのに?
「あ、の……高校の入学式?」
「もう寝ぼけてるの?今日から高校生なんだからしっかりしないと」
「今日から?」
「とりあえず顔洗って目を覚ましてきたらどう?
朝ご飯は作ってあるから冷める前に食べちゃいなさい。
ママもパパも準備あるからバタバタしてるけど
時間に遅れないようにね」
ママ!?この人が!?
私の母親はもっとサバサバしていて
一言で言うなら肝っ玉母ちゃんを体現したような人だから
真反対のような人でひどく動揺した。
母親らしき人は扉を閉めて、その直後階段を下りる足音が聞こえた。
一体どうなっているんだ。
とにかく恐る恐る部屋から出ると
やはり見慣れた景色とは大きく異なり、
私の中に転生という説が一つ浮かび上がった。
転生は架空のものと思っていたし、転生というジャンルは生前流行ってたけれど
まさか自分が!?とにわかに信じ難い気持ちで頭がいっぱいになる。
とにかく探りを入れてみよう、と恐る恐る階段を下りると
ふわりと紅茶の香りがふわりと漂い、
本当に自分の生きてきた家とは全然違うと思った。
母は紅茶なんて洒落たものより水!という人だったため、ほぼ真反対のような家だ。
洗面所を見つけ、鏡に映る自分を見ると
黒髪に濃い灰色の瞳、
生前よりほんの気持ち程度整った顔立ち。
なーーーんだモブ転生か!ガハハなんて楽観的な気持ちになった。
ヒロイン転生なんてしたらどうしよう!恋とウイルスとは無縁の人生だったのに!
と一瞬でも考えた自分が恥ずかしい。
冷たい水で顔を洗うと目が本格的に覚めて
少しだけ頭もすっきりして冷静に考えられそうだった。
生前とは違う家、年齢、母親、顔…
十中八九、転生だと思っていいだろう。
しかもモブとなると普通に生きていれば並大抵の幸せは手に入る。
なんの作品なのか、はたまたなんの創作物にも当てはまらないただの転生なのか分からないが
前者だった場合、こういうのは大体美女のヒロインとイケメンに近づきさえしなければストーリーを変えることもないのだ。
なんの作品だろうが私は別にストーリーを変えたいわけじゃない、
ただ流行病で無駄にしてしまった青春を過ごしたいだけなのだ。
それに恋愛事より私には不安要素が一つあった。
先程の母親の言葉に少し聞きなれない存在がいた。
洗面所を後にするとその不安要素と鉢合わせ
自然と体が強ばった。
「おはよう。今日からいよいよ高校生だね。
良い高校生活を送れるといいね」
父親、だと思う男の人。
生前の私には父親がいなかった。
母親が元々心身共に強いのと、性格的に弱音や弱い部分を隠すのがとても上手かったからか
私が生まれてすぐに
浮気相手の女性と共に別れてくれと頭を下げに来たらしい。
「君は強いし一人で生きていける。娘一人くらい僕がいなくても守っていける。
でも彼女は俺が守らなくちゃいけない。
俺がいないと駄目なんだ。」
なんて浮気を正当化するように酷い言葉を母親にぶつけ、浮気相手の女と共に消えた。
だから私は父親というものを全くと言っていいほど知らないため、
コミュニケーションを取ろうにもどこか気まずい感覚に襲われた。
「う、うん…」
とぎこちなく相槌をうったものの
どうやって会話を続けようかと悩んでると
パパ〜?そろそろ着替えないと!と母親の声が遠くから聞こえて
それに対して父親も
「それじゃあ、遅刻しないように準備しなさい」
と父親は優しく声をかけ、その場を後にした。
居なくなるまで見届けた後
変に強ばった体から力を抜くと崩れるように座り込みひどくホッとした。
学校以前に私はこの家族、
特に父親と上手くやっていけるのだろうか。
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