第8話 召喚系配信者、ルミナの強さを魅せる
今日も配信をする。
コメントで要望の多かったルミナを召喚して、改めて自己紹介をする事となった。
「私は世十が一人、世龍のルミナだ。将来は玖音と番になる予定だ」
頬を赤らめながら、おかしな事を言う。
そんな予定は俺に無い。
《お、百合展開か?》
《ルミナに迫られたらさすがに断らないよなぁ?》
《セジュウって何?》
《セリュウとは?》
「良くぞ聞いた!」
ルミナは水を得た魚のようにハイテンションでコメント返信をしようとする。
⋯⋯止めるべきか?
「世十とは玖音が召喚して、長らく共に戦った初期メンバーの十人の事だな。世界を統べる十人と言う意味が込められているんだ!」
掘り返される黒歴史。
仲間の精神攻撃が想像以上に俺のハートを抉る。
無遠慮に深堀して話そうとするので、俺はそれを食い止めた。
それはもう死ぬ気で食い止めた。
《もしかして久遠ちゃんは厨二病患者だった?》
《何故そんな言い難い名前に》
《自分は良いと思うぞ! うん。一括で変換してくれないけど》
《世十の変換設定して来ます》
《理由を先に考えたのかな?》
《世界レベルの強さって事ですね分かります》
《初期メンバー十人って事は、同時召喚10体可能?!》
《色々と疑問が出て来るな》
俺はコメントの質問に答える。
話を変えるためのナイスクエスチョンだ。
「いえ、私も同時召喚は五体が限界です。それは他の召喚士と変わりません。ただ、最初の方に契約して、その他にはしばらく契約しなかった⋯⋯その初期メンバーがたまたま十人だっただけです」
ルミナのスキル紹介に入ろうと思ったが、どこまで伝えて良いか悩む。
ルミナのスキルには『高次元干渉』と言う別格の性能を誇るスキルがある。
このスキルは世十でもルミナを含めて3人しか持っていない。
このスキルに関してはユニークでは無いが特別なので、さすがに言う事は出来ない。
臨界龍と言う種族名は明かしているので、それに付属した専用スキルについては明かして構わないだろう。
「ルミナには『臨界』と言う攻撃スキルが備わっています。攻撃スキルだけで見れば、これしかありません」
「うむ。だが私はそれで十二分な強さを発揮する」
自信満々のルミナを訝しむようなコメントが連投される。
《見た目は確かに強そうだけど、前の巨人程ではなさそう》
《インパクトはガリンを超えてない》
《ガリンの方が強いんじゃない?》
《と言うかガリンって名前結構変では?》
ガリンよりも弱い⋯⋯そんなニュアンスを持ったコメントを発見してしまったルミナの眉がぴくりと動く。
俺ははっきり言ったはずだ。彼女は俺達の中でナンバーツーだと。
そしてガリンはナンバーワンじゃない。
ルミナは自分の力に自信があり、俺への印象のために常に上である事を示す性格だ。
故に、自分の方が下と思われるのは許容出来ない。
軽めの怒り、と言うにはあまりにも酷い被害が目の前で起こる。
ルミナが力を込めて怒りのままに魔力を解き放つと、その影響で地面にクレーターが出来たのだ。
「ほう。面白い事を言うじゃないか。私がガリンよりも弱そうだと? あんな能力的に合法化された玖音の応援を受けられる奴よりも、弱そう⋯⋯だと?」
明らかに私怨が含まれている発言が聞こえたが、無視して構わないだろう。
俺は内心面倒くさいと思いながらも、彼女の気持ちを収めるためにも証明する事にした。
なので、視聴者も知っている335階層⋯⋯今の俺達の最高到達階層にやって来た。
ガリンが初登場してボスを拳で粉砕した所だ。
ボスは確か、ダイヤモンドの巨人だ。
めちゃくちゃ硬い巨人だと思うが、ガリンのパワーで倒す事は出来た。
さて、ルミナはどう強さを証明するか。
ボスは⋯⋯勝ち目は無いだろうな。
まず、相手に無効系スキルを突破出来る力が無ければ意味が無い。
無効と言ってはいるがスキルなので完壁では無い。
それか、ルミナが無効に出来ない精神攻撃か神聖攻撃を使う必要がある。
あの鉱物巨人に使えるとは思えないが、果たして⋯⋯。
《どんな戦いを見せてくれるんだろ》
《前回の被害者戦は一方的過ぎたし全然ルミナさんの力見れなかったからな》
《ガリンの破壊力は越えられないとしても、相当な火力は出して来そう》
《攻撃スキルが一つだけって言ってたけど、魔法とか使えないのかな? 龍なのに》
ボス部屋の扉を開けると、正面にダイヤモンドの巨人が立っていた。
あの体全てが売れたらどれくらいの値段になるのか、とても気になるところだ。
実際は全部はドロップしないのだが。
「さてルミナ。情報はいる?」
「必要無い」
「だよね」
《そもそも持っている情報が少ない件について》
《ガリンが強過ぎて情報不足だな》
《久遠ちゃん、しれっと見栄を張る》
《もしも知りたいと言われたらどう言うつもりだったんだよ》
《頑張れルミナちゃん。死ぬな!》
《ガリンのせいかな。ハラハラもドキドキもせず、ただ見守る事が出来る》
《さすがに瞬殺は出来ないよな?》
《ガリンも『応援』があって本気出したんだし⋯⋯本気が見れるか?》
ルミナが本気を出す事は無いだろう。
彼女が本気を出す程、敵は強くない。
ルミナは恐れる事を知らずにゆっくりとボスに歩み寄る。
当然、そんな事をすれば大振りの攻撃が飛んで来る。
「ガリンが素手で倒したのなら、私も素手で戦おうじゃないか」
相手の拳に対して手の平を向けて、攻撃を受け止める。
空気が激しく振動して小さなクレーターが出来たが、それで怯む奴は視聴者だけだった。
物理攻撃無効のスキルを持つのでルミナに一切のダメージは無い。
無効を突破出来る能力は持ち合わせていなかったようだ。
一方的な攻防が確定事項となった。
しかし、ルミナは攻撃を防ぐだけで攻撃はしない。
「どうしたんだ?」
《なんでずっと攻撃を受けてるんだ?》
《無効に出来るのに防御はするんだな。吹き飛ぶのかな?》
《ボス部屋が可哀想に思えて来た》
《つーか、あんなに攻撃をくらっておきながら1歩も動いてないのなんで?》
《防御力くっそ高い。あ、そもそも無効なんだっけ?》
《嘘だと思ってたのにまじで物理攻撃無効なんだ》
《そろそろ地面に埋まって良いレベルの攻撃を受けてると思んだけどな》
《まだ攻撃しないのかな?》
ルミナは次に振り下ろされた拳を瞬時に回避して、ボスの横側に移動した。
「ガリンが一撃で倒したのなら、私も一撃でお前を屠る」
手刀の構えを取る。
そこで俺は悟る⋯⋯あ、これわりと本気出す奴だ、と。
「マメ、何かあったら守ってね」
「わん!」
俺の体及び命はマメに託された。
視聴者は驚愕する事になるだろう。
ガリンのせいで感覚が麻痺しているだろうが、硬いイメージは確実にある。
誰も簡単に倒せるとイメージ出来ない。
もしも、そんな相手があっさりと倒されたらどう思うだろうか。
「臨界」
手刀を逆袈裟で振るう。
迫り来る巨人の拳がルミナの前髪をかする辺りで停止する。
《動きが止まったぞ?》
《臨界スキル使った!》
《一体どんな効果なんだ?》
《ワクワク》
ズルり、巨人の胴体が滑る。
巨人の上半身がズドーンっと大きな音を出して倒れる。
《え?》
《一撃?》
《手刀で倒せちゃうのか》
《切断面すげー綺麗だな》
《うん。強い》
《だけどガリン巨大化したりでインパクトはやっぱり小さい》
《こんだけ?》
《いまいち分からんな》
スキル『臨界』このスキルは
どんな状態だろうと対象を『斬る』事が出来る。それが当たり前とする。
簡単に言えば、このスキルは無効系スキルを貫通出来る。
映像越しではそれは伝わらないし、試す相手がいない。
「そろそろかな」
ルミナの単純に高い身体能力と世界の
⋯⋯巨人は思考能力が高く、想定よりも早く斬られた事実に気づいた。
では、脳の無い壁はどうだろうか。
じっくりとだが、斬られた⋯⋯破壊された情報が世界により再生される。
何が言いたいかと言うと、今になって壁に大きな斬撃の痕が出現したのだ。
その痕は時間の経過と共に広がり大きくなり、同時に新幹線のような速度で瓦礫があちこちに飛散する。
「わん!」
マメが影で破片マシンガンから俺を守ってくれる。
「やったよ玖音。これで皆、見直す事間違い無し」
「やりすぎだな。反省しなさい」
「えっ?」
最終的に巨人のサイズを超える大きな斬撃の痕が完成した。
ダンジョンの特徴で時間が経てば、これも修復されるのだろう。
《⋯⋯何が起こったか説明求む》
《久遠達は納得してるし理解してるらしいけど、俺達は頭真っ白よ!》
《えっと。ボスが倒れてから数秒してから壁が切れた?》
《ちょっと何が起こってるか分からない》
《こんな事してルミナはどうしてそんなに笑顔なん。怖い》
《これが魔王の正妻の強さか》
《ガリンの破壊力よりも上か?》
《これが素手で、まだ武器を持っている事実よ》
《こんな奴が他にもいるの?》
《少なくとも一体はルミナを超える存在いるんだよな?》
《世界を一人で滅ぼせそう》
《まじでコレ世界が黙ってないぞ》
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