第2話 召喚系配信者、切り忘れを知る

 昨日は帰ってからスマホの充電が切れいている事に気づき、充電してそのまま眠りについた。

 今日はネットとかに触れずに朝からダンジョンにやって来た。

 少し配信以外でもやるべき事があるからだ。


 「今日も配信始めまーす。朝からだけど、皆来てくれるかな〜?」


 ちなみに俺の配信者の名前は『最上久遠』だ。

 理由としては、俺のフルネームが西条さいじょう玖音であり、初期設定で本名を打ち込んだ上に誤字った結果こうなった。

 皆からは、最上もがみ久遠として認知されている。


 さてさて、配信も始めて人が集まって来ている。

 ⋯⋯あれ? なんかいつもより多い?

 コメントも次々に流れて来るので確認する。


 《あ、もうそう言うの言いんで》

 《昨日の巨人とか階層とか休憩所とか色々と説明してよ!》

 《男なんだよな、多分。だよね?》

 《平然と配信を始めたぞこの女か男》


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?


 いや、一旦落ち着こう。

 視聴者の言っている意味が分からない。

 何かの冗談か?


 「も〜う。何言ってるんですか! 私は最上久遠、 女です!」


 プンスカ怒る。

 ぶりっ子は嫌いだが、控えめにしているつもりなので大丈夫。何が大丈夫かは分からない。


 それでも否定されるなら服を少し脱いで体の輪郭を見せることもやぶさかでは無い。


 《そう言う演技やめよ?》

 《ぶっちゃけキモイぞ》

 《何かもう開き直ってる説ある?》

 《久遠ちゃん、どうして⋯⋯》


 んん??

 ど、どうして?

 どうしてこうなっている?


 分からん。

 分からんが⋯⋯分からん事を考えても仕方ないので配信をそのまま進める事にした。


 「今日は22層を目指して進みます。マメ、頑張るぞー!」


 えい、えい、おー!

 と、いつものようにやったがコメントはかなり冷えていた。流石に心にヒビが入る。

 マメもマメでいつもみたいにテンション高めで鳴いてくれない。

 寂しい。


 攻略は順調そのもの。

 ま、この階層なら俺一人でもレベル的に問題ないから当たり前と言えば当たり前だ。


 ダンジョンの中だけ作用するレベルやスキル、フィクションに思える現実が今の世の中の普通。

 ユニークスキルって言う世界で1人しか持っていないスキルもあるらしいが、俺は通常スキルしか持っていない。


 「そろそろ新たな連携プレイを開拓しようかと考えていて〜」


 今のハイテンションからは考えられないかもしれないが、初めてダンジョンに来た時は自暴自棄で後先考えずに行動していた。

 運良く、それが良い方に作用して今になっている。


 俺は恵まれている。

 だけど今、その恵みが無くなって来ている。


 「オーガ発見! マメやるよー!」


 俺がナイフを抜く。すかさずコメント確認。


 《はいはい。マメの影で瞬殺できるんでしょしなよ》

 《茶番劇は良いから昨日の説明して》

 《昨日切り忘れていたんだよ。思い出してよ》

 《つーか、オーガなら久遠1人でも倒せるんじゃね?》


 なん、だと。

 ここまで冷たい反応されるのか。いつもなら⋯⋯


 《頑張れ久遠ちゃん。応援してるよ!》

 《今日も可愛いね! オーガなんて余裕だよ!》

 《マメも可愛いね。2人とも頑張れ!》

 《久遠ちゃんならできるよ!》


 と、暖かいコメントが溢れているはずなのにっ!

 つーか切り忘れってなんだよ。俺はそんなのした覚えが無いぞ!

 でもなんか色々と知られているような⋯⋯。


 おっと。

 色々と考えている間にオーガが接近して来ていた。


 うーむ。

 とりあえず苦戦する演技を過剰に行い様子を見る事にした。

 5発くらい殴られる演技をしておこう。


 《なんでそんなに殴られても普通に立てるんですかねぇ?》

 《と言うか怪我してないしね》

 《前まではヒヤヒヤしてたけど、今は普通に見れる》

 《久遠ちゃんの時代は終わったのか》


 なぜだ!

 配信者歴1年、登録者は6万人を超えた今、どうしてここまで冷たい反応をされるんだ!


 過剰の弱弱演技が仇となったか⋯⋯クソ。


 オーガを倒し終えた俺は精神的にヘトヘトとなったので、配信を終える事に決めた。


 「今日はこの辺で終わりたいと思います。また来てください」


 落ち込んだ声音に心配するコメントも現れたが、半分以上が冷たいコメントばかりだ。

 文字にここまで心を動かされるとは⋯⋯人生初だな。


 「なんか疲れたや。マメ、行こ」


 休憩所へとやって来た。


 《まーた切り忘れてるよこのおかま》

 《いや、久遠ちゃんは女の子だよ!》

 《でもキャラ作りはしてるよな》

 《まずは説明を求む》


 ベッドにゴロンと転がる。


 「なぜ⋯⋯なぜ色々とバレてるんだ? 考えても頭痛い。一旦忘れてルージュ様の動画でも見よう」


 オフラインでも観れる状態なので、ブイチューバーのルージュと言う人の動画を見る事にした。

 この人は女性で戦隊モノのヒーローが大好きでとても詳しい。

 格ゲーで正義を振りかざし相手に即死コンボを決める。その性格と行動のギャップで人気があるブイチューバーだ。


 《俺もその子好き。同士やん》

 《まさかブイチューバーに憧れてTS配信者に?》

 《そう言えばサキュバスの力って言ってたよな? つまり、サキュバスの召喚獣が! そのベッドはまさか!》

 《ダンジョンの中で元の姿に戻らない。⋯⋯まずい。同人誌が増えるぞ》


 ルーリーが飲み物を用意してくれたので、それを飲む。

 手作りポテチもパリパリと食べる。


 「ルージュ様の動画は全部面白いな。⋯⋯ふぅ。それにしても」


 お菓子を食い、ジュースを飲み、高級そうに見える無駄にでかいベッドでゴロゴロする。

 自堕落な生活が出来るこの空間がダンジョンの中だとは誰も思わないだろうな。


 「そうだルーリー。そろそろ資金が欲しいから。適当にモンスターを倒して魔石を集めて欲しいんだ」


 「そろそろこちら側の食料が尽きるとお兄様から承っていました。ですので、こちらに既に魔石をご用意しております」


 ゴロゴロと大きなバッグに入った魔石達。

 300階層以上の魔石でも価値はそこそこで、1つ20万くらいだ。

 魔石は魔力を中に溜めており、それが電気やらなんやらの他エネルギーに変わる。

 魔力に質は無く、変わるのは量。


 よって値段は20万くらいなのだ。質と言う概念があれば数百万は行くのだろうか?


 「ちなみにこれ全部でいくらくらいになる?」


 「600程かと」


 「そっか。多いから200万円分だけ持ってくよ」


 《は? 軽くそんなに稼げるの? いや、その階層なら当たり前なのか?》

 《むしろ魔石だけだから少ないよな。上級の探索者なら数千万は稼ぐぞ》

 《ちまちましてるから久遠ちゃんの実力が今まで顕にならなかったのか?》

 《また新しい召喚獣の気配が! これは新キャラありえる?》


 俺は魔石を必要分受け取り、帰る準備をする。


 「もうお帰りになられるのですか? もう少しごゆっくりしても⋯⋯」


 「召喚世界の食料が少ないんでしょ? 急いで補充しないといけないからね」


 召喚世界。それは召喚のスキルに関係する単語だ。


 まず、召喚獣は各々住まう世界が違う。違う世界から召喚スキルで呼び出し契約する。

 召喚士が持つ召喚世界と元の世界を召喚獣は行き来でき、この世界で倒れた場合元の世界に帰還する。

 元の世界で召喚士の悪評を広められると新たな召喚獣を呼び出せなくなってしまうので、信頼関係は重要となる。


 そのため、召喚世界で住む召喚獣のための食料を送り込む必要性がある。

 その世界でも食料を生産しているが、大食いが多いので間に合っていない。

 この事から、召喚スキルはある程度の強さになるまで燃費の悪いスキルだ。


 ⋯⋯さて、長々と説明したが重要なのは大量の食料確保。

 召喚スキルの所有者はその特徴ゆえにダンジョンを管理する国家機関『ギルド』で割引で食料の購入が可能だ。

 今回の売却した金の過半数が食料で飛ぶ。


 俺は久遠のままダンジョンの外に出る。ダンジョンの出入口とギルドは隣接しているため、すぐに換金が可能だ。

 サクッとやる事を終えた俺はスマホで時間を確認して、帰る事にした。


 家に帰ったら俺はパソコンを開いて編集作業をする。

 良い場面を切り抜いて投稿するのだ。ライブは無駄が多いからね。


 「⋯⋯あー」


 編集中、映像時間がやたら長い事に気づき確認した。

 うん、あれだな。


 一言で言うなら、視聴者は間違っていなかった。


 「まじかー」


 配信の切り忘れってあるんだね。


 「バズってはいるが。まじかー。事が大き過ぎて逆に冷静になれるな」


 ま、今話題になっているのは俺ではなく久遠ちゃんだ。

 目を閉じてゆっくりとパソコンの電源を消し、ベッドにダイブした。

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ふわふわ系美少女配信者の召喚士、配信切り忘れて男バレ&本性晒された挙句真の強さが露呈した〜大バズりして『TS魔王』と呼ばれました〜 ネリムZ @NerimuZ

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