ヘブンリーブルー~願いを叶える旅~
@udon_MEGA
000:願いを叶える旅(side:???)
――雪が降っている。
「……」
しんしんと降り続ける雪を窓から眺めた。
国民たちは既に家路に着いて、今頃は温かい食事を取っている頃だろう。
朝から晩まで働き続けて……私も同じだ。
国王になったあの日からずっと私は働き続けている。
一重に国民の幸せを願うからこそで。
私が休んでいる暇などありはしないのだ。
他国からの侵攻を警戒し、外交関係を維持して。
国民たちが飢えで苦しまないようにしながら貧富の差を少しでも無くす為に知恵を絞る。
路頭に迷うようであれば大問題だ。
一人でも多くの国民を幸せにする事こそが国王の務めで。
全ての国民を幸せにする事が……今の私の“夢”だった。
「……夢か……ふふ」
もう私は若くは無い。
だが、夢という言葉が思い浮かべば自然と若かった頃を思い出す。
まだ成人もしていない若さで故郷を飛び出し。
多くの人間に自分という存在を認めさせる事だけを考えていた。
無鉄砲で世間知らずで、甘ったれた小僧であり……本当に楽しい思い出だ。
「……そういえば」
仲間たちとの旅を思い出そうとした時に思い出す。
家臣の一人から相談をされたのだ。
最近、息子のハロルドが無茶な事ばかりをして世話が焼けるという。
話には聞いていたが、今日も兵士を引き連れて森へと向かい。
そこに住む魔物に一人で挑んで危うく殺されそうになったとか。
家臣たちは息子がこのままでは不慮の事故で命を落とすのではないかと心配していた。
次の国王となるのは間違いなくハロルドで。
家臣たちも息子の未来が心配なんだろう。
かくいう私はそこまで心配はしていない。
何故ならば、今の息子の気持ちは“痛いほど分かる”からだ。
私は窓から視線を逸らし歩いていく。
コツコツと足音が静かに響き、私は息子がいる部屋に着いた。
見張りの兵士たちは私を見ればすぐに敬礼をしようとした。
が、私はそれを止めて少し席を外すように指示をする。
「ですが」
「……構わない。近衛隊長には私が命じたと伝えてくれ」
「「……ハッ!」」
二人の兵士は命令を聞き足早に去っていく。
私は扉をノックして入室の許可を求めた。
息子はすぐに誰が来たのかを理解し、自ら扉を開けて私を招き入れた。
部屋の中に入りながら、息子を見れば不安そうな顔をしている。
今朝の一件で私が怒りに来たと思ったのだろう。
私は息子の頭を撫でながら「冒険は楽しかったか?」と聞く。
すると、息子は笑みを浮かべながら元気よく返事をした。
ガバリとベッドの布団が浮き上がる。
ひたりと床に足をついて現れたのは娘のローラだった。
娘はぱぁっと笑みを浮かべながらぱたぱたと私の元へと駆け寄って来た。
「お父様だ!」
「ローラも来ていたか……となると?」
「お母様も来ます! 私が呼びました!」
「そうかそうか……では、ハロルドの冒険譚を私も聞かせてもらおうか」
「う! 父上それは……っ」
ハロルドはバツの悪そうな顔をする。
恐らく、私や家臣たちも知らないような“冒険”もしたのだろう。
母が知れば怒るかもしれないと思っている顔だ……いや、アイツは怒るだろうな。
息子と娘の事を世界で一番愛しているのだ。
私も同じように愛しているが、彼女の愛は少々重い。
自由を奪う事はしないものの、危険だと思われる事は絶対にさせたくないという意思がある。
だからこそ、ハロルドとローラの教育に関しては率先して行っていたと記憶にあった。
剣術訓練も細心の注意を払い。
木剣ではなく柔らかい材質のもので打ち合い防具も体中につけさせて。
外へ出る時も兵士を連れさせる事を義務とさせたのも彼女だ。
ハロルドは何度か私に助けを求めてきて、私もそれ以上は逆によろしくないのではないかと言ったが……。
妻は愛情が深過ぎる。
アレでは私の言葉も聞こえていないだろう。
ハロルドには悪いが、もう少し我慢してもらうしかない。
せめてもの償いとしてこの子の冒険に関しては多少は目を瞑る……許せ、息子よ。
私は二人の子供を連れてベッドの縁に腰を下ろす。
ローラは私の膝の上に乗り、ハロルドは私の隣に座った。
それでとハロルドに目を向ければ、息子は困ったように目を泳がせた。
「えっと、あの……母上には内緒にしてくれますか?」
「ん? そんな心配をしているのか……はは、言わないさ。私もお前ほどの年の頃には無茶をしたものだ。冒険にも行ったしな」
「え!? ち、父上が冒険に!? それは初耳です!」
「私も! お父様は何処に行ったの?」
息子と娘は目を丸くしながら聞いて来る。
今度は私が困る番であり、どうしたものかと思った。
此処に妻が来れば、彼女も加わってもっと話をする事になる。
そうなれば、私の恥ずかしい思い出も語る事になるだろう。
私は少し迷った。
しかし、子供たちの目はきらきらと輝いていた。
私はその輝きに弱いのだ。
だからこそ、少し息を吐いてから笑みを浮かべて頷く。
「……私と母様はな。“
「「……天空庭園?」」
二人は互いに顔を見合わせながら首を傾げる。
無理も無いか。この歳ならば、まだこういった話も知らないだろう。
私は二人の頭を撫でながら、我らが夢に見た場所について教え聞かせた。
「天空庭園とは、空の上にあるとされる伝説の場所。そこへ至れば、全ての者の望みが叶うとされる夢の場所だ」
「へぇ! それは凄いですね! な!」
「うん! 私も行ってみたい!」
「はは、行ってみたいか。そうだろうそうだろう……私と母様。そして、大切な仲間たちとの長い冒険の果てに辿り着いたんだ……今も瞼を閉じれば、当時の思い出が蘇る」
私は静かに目を閉じながら、仲間たちの顔を思い浮かべた。
決して楽しい事ばかりでは無かったが。
その全てが今となっては良い思い出であり、私という人間を形作ってくれたのだ。
天空庭園は存在する。
そして、私の夢も確かに叶ったんだ。
そう二人に言い聞かせれば、どんな願いを叶えたのかと聞かれた。
私は目を細めながら「それは今は秘密だ」と伝える。
「えぇ、そんなぁ……でも、お父様がその場所に行くまでの冒険。僕、聞きたいです!」
「私も聞きたい! お父様、教えて!」
「ふふ、そうか……そうだな。ここまで言ったのならば聞かせるしかあるまい……だが、話せば長い。夜が明けてしまうかもしれないが、それまで起きていられるかな?」
「大丈夫です! 僕、起きていられます!」
「私も大丈夫! ずっと聞くもん!」
二人の言葉を受けて私は笑みを深める。
そうして、優しく二人の頭を撫でてから静かに口を開いた。
これより語られるは私と妻の記憶。
大切な仲間たちと歩んだ冒険の記録だ。
一人の“エルフの女性”と“ヒューマンの男”との出会い。
彼女と彼と出会い全ては始まった。我々の旅は決して幸福な事ばかりでは無かった。
二人の子供に聞かせるには重い話もある。
しかし、私は始まりから最後まで、全てを子供たちに聞かせてあげたい。
長い長い旅の全てを纏めた思い出の書が無くとも、私は彼女たちと歩んだ全てを覚えている。
これは一人の男が始めた物語。
我々はその意思を受け継ぎ、冒険の果てに彼の場所へと至ったのだ。
長い長い旅の果てに辿り着いた夢の場所は、想像を絶するものだった。
さぁ語ろう。私たちの冒険を。大切な存在が歩んだ足跡を――――
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