凡人ダンジョン黎明期~0と1から始まるダンジョン研究~

木原 無二

第1話




目覚ましのアラームによって目が覚めた。

いや、覚めてしまったと言った方が正しいだろう。

今日はみんな2番目に大好き土曜日。

運悪く、アラームを設定してしまったのだ。


いつもならここで二度寝をかます所だが、何故か今日に限って眠れなかった。


(サボテンサワーでも飲むか…)


ベッドから体を起こして、部屋から出る。


(ご飯は…パンでいいか。)


昨晩に買っておいた3割値引きのフランスパンがあったはずだ。

切るのもめんどくさいし、牛乳で胃に流し込んでやろう。


いつも通り、リビングにおりて習慣通りにテレビを付ける。



『昨晩の震度4規模の揺れ以降に突如出現したこれらの謎の洞窟群は世界各地にあるとのことで…』


(…昨夜、揺れたっけ?)


恐らく、FPSをやっていたせいでわからなかったんだろう。


冷蔵庫から昨夜真っ二つにへし折ったフランスパンを取り出す。


『情報によりますと、東京、大阪、千葉、長崎、広島、京都、北海道、埼玉、群馬、奈良に一つずつあるらしく、世界中でも多数類似した建物があるとの事ですが、地質学専門家の竹中教授はどう考えますか?』

『んーそうですね…今回の件は前例がないのでなんとも…』


ブチッ、ムシャムシャ。

もぐもぐ、ゴクリ…。


(へぇ。コンビニで電線文庫のイベントが)

『アニメインフォ!』によると、どうやらコンビニでくじ引きのイベントガチャがあるらしい。

どうやら、今月の晩御飯はもやしになりそうだな。


『あ、情報が新たに入りました!今から官房長官が記者会見をするとのことで…切り替えます!』


(えっと、とりあえず1万は持っていくか…。せっかくだし、1週間分の朝ご飯として冷蔵庫に保管しておくのもありだな。)


ゴクリ、ゴクリ…


牛乳パックでラッパ飲みをしながら脳内で金銭管理をしていく。


『…えーと、官房長官の藤原です。えーと、その…今から言う事は事実です…皆さんは、落ち着いて聞いてください。』



(ん?あれ、藤原ってこんな感じだっけ?もっとはきはきとしている感じだったと思うんだけど)


冷蔵庫から2本目を取り出しに向かう。

やっぱり、フランスパン一本を流し込むのには牛乳1本では足りなかった。あと、半分くらいで行けるだろうか?

早速、開けた2本目の牛乳を口に付ける。


『昨晩の地震を機に世界各地に発生した洞窟群は、創作上に出てくる”ダンジョン”や”迷宮”の類ではないかというのが、我々の結論であります。』

「ぶぐゅヴw!?」


思わず、気管に入ってしまった牛乳を咳で吐き出す。

今、なにかそういう冗談でも言ったのだろうか?

もしかして、ドッキリか?

今の家に両親が居ないことを良いことに、なにかそういうドッキリでもかけられているのか?


『これらの見解は、他国の情報も照らし合わせて考え出した結論です。まだ、政府も詳しくはわかっていないので、詳しい情報はこれから調べていくとの事なので、今日は質問なしです。国民の皆さんは、怪しい洞窟を見つけたら、警察に通報してください。くれぐれも、入らずに、お知らせください。では、以上です。』


「…」


(夢か。)


テレビでは色々と荒れているようだが、知らん。

そう言う夢なんだろう。


最近読んだ現代ファンタジーもののダンジョン系統でも読んだせいだろうか?


ま、この夢も時間が経てば勝手に覚めるだろうし。

ぼーっとしとくか。

どうせ、夢だし。



(そう、思っていた時期が僕にもありました。)




あれから半年。


僕は大阪の天王寺にあるダンジョンに来ていた。


『朝、目が覚めるとダンジョンが出来ていた。』なんて在り来りな言葉だが、本当に出来ていたので、折角だから来てみたのだ。


あれから世界中の様々な分野の専門家、科学者が協力してダンジョンの実態を明かしていった。


まぁ、国が自衛隊を動かしたりして色々とうるさい奴らが騒ぎ立てたりしたこともあったが。

だが、野党の人間やデモ隊の人たちが「ダンジョンを一般開放しろ!」という声が沢山あった。

海外では、国の世論の影響でたった3か月で一般開放している所もあったせいか、なんと日本でも民間への一般開放がされた。


法律も追加されており、”ダンジョン内で獲得したモノは申告する事”と”武器の類を持ち歩くための免許制”が挙げられている。

勿論、人に危害を加えてはいけないし、人の物を取ってもいけない。

まだまだ、ルールは追加していかないといけないだろうが、これから出来上がっていくだろう。


ちなみに、慎重であるべき日本がこんなにも早くにダンジョンを解放したのにもしっかりとした理由がある。


そう、選挙だ。

与党は「ダンジョンはもっと調べるべきだし、民間開放は絶対にありえない」という方針だったのに対して、野党たちは「ダンジョンは民間に開放します」という姿勢をとった。

そして、運悪く時期的に選挙の影響だったこともあって、別の党が与党になったのだ。

普段、一つの党にしか票をいれないか、そもそも投票しないという姿勢をとっている日本国民は、今回ばかりは違ったのだ。

現に、選挙率が去年の1.5倍を示しており、ダンジョンの影響がいかに大きいかがうかがえる。



そして、今日から2週間ほど前に民間に一般開放されたのだ。


最初の2週間をおいた理由は、人が絶対に混むと思ったためだ。

現に、今乗っている電車も人が多く、全体的にジャージの格好をしている人が多い。

ちなみに、ダンジョンに入るための免許は1週間前に取った。

まだ、20歳以下ではあったが、18からは大人だとされているためか、高校3年生で18歳だったので取る事が出来たのだ。


このワクワク感を1週間も体験したんだし、そろそろ味わってみてもいいだろうと思い行ってみる事にしたのだ。


ちなみに、免許の試験の内容は講習会で習った内容の筆記と身体測定と面接である。

すべて事前知識なしだが、なんとか手に入れる事が出来た。

一番鬼門だと感じたのは面談だ。

なんと、心拍数を図りながら色々と話したのだ。

深呼吸を数えられないほどしたのは覚えている。


ちなみに、武器申請もしており、自分の武器はバールとスコップと果物ナイフだ。

あと、十徳ナイフもある。

バール以外は全て昨日の夜に研いでおいた。もし、使いずらかったら変えようと思う。


ダンジョンが内部にある建物に着くと、受付へと並ぶ。

10分程待つと、自分の番がやってきた。


「冒険者カードをどうぞ。」

カードを手渡すして、色々と作業をして貰う。今日は日帰りで様子見で帰る予定なので、そう伝えた。


「では、安全にお気をつけてください。」

「はい。」


受付のお姉さんからカードを返してもらい、ダンジョンの入り口へと行く。


さて、それじゃあ…ダンジョンへ潜るとしようじゃないか!

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