800文字以内の短編集
猫屋敷
灰と涙よ未来に咲け
最初の印象は、まるで灰を被っているみたいだった。
「くるみーお待たせー!」
駅のホームから少し離れた場所から、友人の桜が手を振りながら駆け寄って来た。日の光を集め、金色に輝いているように見える彼女の茶髪は、こんな薄汚れた場所には似合わない。
「おはよう。今日は間に合ったね」
「うん、なんか目が覚めちゃってさー!でもこれでバスにおいて行かれないで済んだよー!これ以上遅刻したら推薦取り消しだーって言われてて、本当にまいっちゃうよねー」
あははーっと、桜はなぜか嬉しそうに笑っているが、流石にに笑いごとではない。今日は”偶然”目が覚めた……なら明日は?という不安が頭から離れない。
「もう……しっかりしなよ。入試ももうすぐなんでしょ?」
「うん。合格したら東京か……。くるみは地元に残るんでしょ?いっしょに大学生活楽しみたかったな」
「そ……だね」
「ねえ、今からでも東京、受けてみない?」
「ごめん……私は、ここでやりたいことがあるの」
「だよね……」
私の言葉に、桜は目を伏せて黙ってしまう。輝いていた彼女の髪も、心なしかくすんで見える。
「さびしくなるね…………遠いよ、東京は」
弱弱しい桜の言葉に、私は答えない。
私も東京に……一瞬、そんな考えが浮かんだが、すぐに頭を振って否定する。私にはやりたい事がある。私はこの灰にまみれた世界を変えてやりたい。いつか、美しくなったこの場所で、この町の入り口で、笑ってあなたを迎えたいから。
私は、静かに空を見上げた。
青く澄んだ空に、降りしきる小雪……頬を流れる熱い雫をぬぐって、前を向く。今度は私が、あなたの手を引いていく。
「ほら、行こう、桜!」
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