昔の私は死んでしまった

保志零二

昔の私は死んでしまった


昔の私は死んでしまった

孤高な才能を持った私は

「天才」と呼ばれた私は

消えてしまった


一人孤独の中で生き

生命の神秘と生きる理由を考え

死ぬことさえ怖くなかった私は

死んでしまった


ある日の朝起きたら葬式は終わっていた

窓の外の陽光を見たらもう私はいなかった

残されたのは根拠のない明るさと

何万回も唱えられた自己暗示


人々は言う、変わったね、いいことだね、と

昔の私もそれを望んでいた

だけど確かに昔の私は死んだのだ

何万回もの作為の中で

殺されたのだ


自分を殺した昔の私は

もう思い出されることはない

決して戻らない深さに沈んだまま

誰にも弔われずに、死んでしまった

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昔の私は死んでしまった 保志零二 @hosi_1001

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