第4話 2日目で手料理とか最高すぎない?(前編)
「ねぇ、晩ごはんのメニューは何が良いかな?」
エルフィナさんと3人での観光デートもどきを終え、京都駅でエルフィナさんを見送った後で、僕たちはバスに乗って最寄りのバス停で降車し、歩いて帰宅していた。そして、この中西さんの発言である。確かに『今日の晩ごはんはちゃんとご馳走するから、楽しみにしててね』と言われた。言われたけど、本気なの?
「えっ、それって冗談じゃなかったの?」
「本気だよ。だって哲郎くんに、私の料理の腕を披露したいもん」
中西さんのにこにことした無邪気な笑顔が、夕陽に溶け込むように輝いて見える。他意はないんだろうなぁ。男としては嬉しくもあり、ちょっぴり悲しくもある。
「そ、そうなんだ。じゃあ、よろしくお願いします」
「うんっ! 料理には自信があるから、楽しみにしててね。それで、食べたいものはないかな?」
中西さんは下から覗き込むように僕を見上げてくる。そういう仕種、可愛すぎて本当に心臓に悪いんですけど。これが実家だったら「何でも良いよ」で終わらせるけど、そう言う訳にもいかないよな……頭の中でメニューがぐるぐると回る。
「えーっと、じゃあハンバーグ……じゃなくて、本当に簡単なもので良いよ。中西さんだって疲れてるのに、悪いし」
「ハンバーグも簡単だけど? よし、じゃあ私の手際の良さを見せ付けるメニューにしてあげるね。そうと決まれば、次は買い出しだね」
僕たちはアパートの近くのスーパーに入った。都会のスーパーって、こんな感じで小ぢんまりしてるんだな……。
「あっ、カゴくらい僕が持つよ」
「ありがとう。哲郎くんって、こういうところが優しい男の子だよね。じゃあ、今日は簡単なものを作るオーダーだから……それと、ここは学生らしく低予算でレシピを組むね」
中西さんは迷いなく、野菜や肉を手際よくカゴに入れていく。その動きには迷いがなく、料理に慣れているのがすぐに分かる。
「私ね、小さい時から料理が好きなんだ。ちょっとくらい失敗しても、魔法でカバーできるし……あっ、今のは聞かなかったことにしてね。失敗はほとんどしないんだよ?」
「うん、大丈夫。忘れたことにするよ」
「あははっ、思い出した頃にいじってきそうで信用できないなぁ」
しかし、こうして一緒に買い物をしているのは、まるでカップルとか新婚さんみたいじゃないか? しかもお相手は超絶可愛いハーフエルフの中西さんだ。僕が見かける側だったら嫉妬の炎で送り火を完成させて、貴船神社に藁人形を持参して五寸釘を撃ち込みに行く。それくらい中西さんは可愛いのに、意外と男の視線はこっちに来ない。不思議なものだ。
そして食材を選び終え、レジで支払いを済ませた後、僕たちはアパートへと戻っていく。うきうきした様子の中西さんの隣で、僕はそわそわとした気持ちを抑えながら歩いていく。まだ出会って2日目だというのに、手料理までご馳走になれるなんて……。
「じゃあ、すぐに作るからテレビでも見て待っててね。あっ、一度自分の部屋に戻る?
「いや、ここで待たせてもらうよ。作るところ、見ていたいし」
当たり前のように、アパートに到着した僕は中西さんの部屋に迎え入れられた。中西さんは「ふぅ、歩き疲れたね」と言いながら、早速エプロンを身に着ける。フリルのついた、女の子らしい可愛いエプロンだ。また違った魅力が引き出されている。
「お昼ごはんの湯豆腐の量が少なかったし、たくさん歩いたからお腹空いたでしょ? ご飯は2人分を炊いてあるから、すぐにおかずを作るね。すぐにできるから、少しだけ待っててね」
中西さんは玄関と居室の間の廊下に存在するキッチンに向かい、材料を取り出して調理をし始めた。僕は彼女の言葉に従ってテレビをつけたものの、画面に集中できない。1メートルちょっとくらいしか離れていないキッチンから聞こえる包丁のリズミカルな音と、油がはじける音が心地よくて、ついそちらに意識が向いてしまう。
「何か手伝うことある?」
「大丈夫! すぐ終わるから、座って待っててね。楽しみだなー、男の子に食べてもらうのって初めてだから。これからどんなのを作るか、レシピを考えるのが楽しみだよ」
えっ、僕が中西さんの手料理を食べる男子第一号なの? 彼氏がいないとは聞いていたけど、とてもフレンドリーな中西さんは他の男子にも振舞っていたのかなと思ってたから、この情報は嬉しい。しかも、今日だけじゃなくて、次のレシピも考えてくれてるなんて。嬉しすぎて飛び上がりそうになってしまう。
僕は気持ちを落ち着かせるために、今度はスマホをいじる。けれど、気になって視線はキッチンに戻ってしまう。中西さんがフライパンを揺らしながら料理を手際よく進める姿は、見ていてほれぼれする。本当に、まるで新婚生活をしているみたいだ。
「このまま、ずるずると同棲とかあったりして」
心の中でふとそんな考えが浮かんでしまう。でも、中西さんがキッチンで料理をしている姿やハードルが低い言動を見ていると、期待してしまうのは自然なことだよね? こうして、僕は脳内でいちゃラブな同棲生活をシミュレーションしながら、楽しみな時間を過ごすのだった。
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