タイムラグ人間

雛形 絢尊

第1話

私は人よりも鈍い。

中々な鈍感だ。

街中で声をかけられても23秒後に気づく。

大体そうだ。

いつも私は23秒前を生き、

23秒前に暮らしている。

そのタイムラグが

発症するようになったのは22歳の時。

23歳の時ではない。

エレベーターの落下事故により、

私は大きな怪我を負った。

外傷は奇跡的に少なかった、脳の方が

やられてしまった。

徐々に23秒を重ねて、

私は自分の持つ能力に気がついた。

23秒間落ち続けた。

その衝撃で私は感覚が

鈍くなってしまったのだ。

その23秒の間に体内時計が

狂ってしまったのだ。

たかが、23秒。だと

あなたはお思いになるだろう。

しかしされど、23秒なのだ。

私は通りを歩く。休日の昼下がりだ。

人通りが忙しく、私は何も考えずに進む。

青いボールが突然横から飛んできた。

弾力感のある、ふわふわのボールだ。

私の頭に軽くヒットした。

そしてまた歩く。

歩いて歩いていく。

しばらくするとボールに当たったと騒ぎだす。

ボールは、ボールはどこへ。

そんな風にあたふたすると、私は気がついた。

私の両手には青いボールがあった。

この通りと街道を挟んだ公園で

6人ほどの子供が遊んでいる。

「お兄さん返して」

とひとりの男の子が目の前にいる。

私はようやくそのことに気づき、

再びあたふたする。

続々と子供たちが不思議な形相で

こちらへ向かってくる。その数は五人ほど。

私のことを12の目が伺っている。

ボールを取り上げようとする。

ぽんぽんと一人の男の子は

私の腕から取ろうとする。

するとどうだ、しばらくして子供達の目は、

彼らがいたはずの公園に向かっていた。

私はやっと、ようやく気がついたのだ。

大きなトラックがフェンスを越え、

公園で横転している。

いくつもの煙がその場を支配している。

私はようやくそのことに気がついた。

私は23秒後に気がついた。

飲酒運転をしたトラック運転手が

その拍子に操作を怠ったのだという。

運転手も無事助かり、

歩行者や近くにいた人も被害がなかった。

まさに奇跡が重なる

タイミングの出来事だった。

私は23秒前を生きているが、

23秒先を見ることもできるのか?

なんて思ってしまった。

しばらくして私は考えすぎだと頭で思った。

たったの23秒のうち、

勘違いだとしても救える命はある。

わりかし23秒もあれば何でもできる。

そんな日常に触れながら私は生きている。

私は良い能力を備わったタイムラグ人間。

だと少しした後に誇らしい顔をした。

23秒後を生きる君たちへ。

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