ワールド・ラビリンス
モナリザの後頭部
第1話
ある日、地球は未知の大災害に襲われた。
地震や津波、雷といったみんなが知ってるような災害ではなく、『未確認生物』による都市の破壊と蹂躙だった。
「きゃあああぁ!!?」
「逃げろォォ!」
「そっちは建物が崩れるぞぉぉ!こっちだ!こっちにこい!!!」
『グォォォォォォォッ!』
それは現実では聞いたことのない化け物の声。
全身の毛が逆立つほどその声には何かの力が宿り、人々に恐怖を与えて正常な脳を鈍らせる。
緑色の小人、筋骨隆々の巨人、宙に浮いた骸骨など現実ではあり得ない存在が目前にはいた。
他にも獣を獰猛にして巨大化させたような化け物が家屋やビルを壊して移動をしていた。
「…終わりだ……この世の…終わり……」
この現象は日本だけなのか?それなら日本人が何か…神の怒りにでも触れたのだろうか。
もし世界的に同じことが起きていたら?地球は…滅びゆくのかもしれない。
誰も彼も逃げるのに必死で携帯でニュースなどを見れる余裕などない。
ただ目の前の脅威から遠ざかること。
それのみに全神経を、他を蹴落としてでも生き残ろうとしていた。
ぷぎゃっ
巨人の圧倒的な力は人の頭を軽々と握りつぶす。
そして、骸骨は火の雨を降らす。
ただ、幸か不幸か、化け物の進行方向にいなければ殺される心配はそこまでないことに誰かが気づいた。
障害物にならなければ、わざわざこちらまで来ることはない。化け物たちは皆、ある一点を目指して歩いているから。
「すげぇ……」
障害物をまるで紙切れかのように薙ぎ払っていく化け物たちは、よくみれば数千体はいそうだった。元々綺麗な街並みは瓦礫で埋め尽くされ、舗装された道路は地割れが起きて数mの亀裂になっていた。
「なんだ?」
誰かがぼやいた。
そして周囲の生きている人間たちがざわつき始めた。
集まっている化け物たちが光となって消えていくからだ。
唐突に起きた化け物たちの侵攻が…終わった?
最後の一体までも光となり消えていく現象に人々は救われたと思った。
しかし、すぐ直後、体が吹き飛ばされるほどの地震や風が発生した。
立っていられる者はおらず、瓦礫にぶつかって気絶する者も多くいた。そんな中、意識のある者は再び…地獄に落とされたんだ。
直径500mほどの地面が突如天に昇り始めた。
いや、地面が隆起したというよりも地中からどでかい何かが昇っていったのだ。
「……塔?」
雲を突き抜けるほどの高さ。どこまで続いてるかわからないそれは、どうしてか目を離すことができない。
『世界迷宮へようこそ』
それは全世界の人間の頭に響いた。
正常な人はその声に疑問を抱き、狂人はその声に歓喜した。
その後、化け物が現代に現れることはほとんどなく、出現した塔はゲームで言うダンジョンと同じものだということがわかった。
世界の四ヶ所に出現したこの塔はダンジョンであり、中には秘宝や財宝、罠や魔物がいることが判明し、これの攻略は国の軍だけでは不可能と考え、様々なテストの末に一般開放することが決まった。
これが後の世の『世界迷宮時代』の始まりである。
塔の出現から20年後
世界は、元の日常を取り戻していた。
活気ある街に活気ある人々。
ただ以前と少し違うところを挙げるとすれば、それは武装した人が歩いていることや、魔法が暮らしの中で使われていることだろう。
「わぁ!僕!大きくなったら探索者になる!」
「いい子にしてればきっとなれるね〜」
「うん!」
探索者とは、D塔(ダンジョンの塔)が一般開放されてから、攻略に勤しむ人たちの呼び名だ。
探索者はD塔を進んでいき、お宝や情報を持って帰ってくることが仕事内容になる。
さらに細かく言うと色々と法律で決められたルールがあるが大雑把に言えば潜って、宝をゲットしていやっほーい!する仕事。
10年前の大災害がまた起きれば探索者は一般市民を守る義務が発生するが、この10年、モンスターはたまに出現するがそれほど多くもないし強くもない。
「あっ!探索者だ!魔法!魔法見せてよ!」
子どもの声に1人の男は歩みを止めて周囲に笑顔を振り撒く。
「いいよ!よくみててね!」
そう言った彼は、右手を空に掲げ何かを小さく口ずさんだ。
そして次の瞬間、その手には水が徐々に集まり始め…球体を作ったり形を変えたりと自由にぽよぽよと浮いていた。
20年前はあり得ない現象。
しかし今となってはこれが日常の景色。
D塔が出現し、中に踏み入った勇気ある者にはある恩恵が与えられた。
それはレベルとスキルだ。
最初はもちろんどちらも持っていない普通の人間だが、塔の中にいる魔物を一体でも倒すとレベルが1に上がり、何か一つスキルを得ることができるのだ。
ただし…これには条件があったりもする。
「すげぇな…あんちゃん!やっぱ魔物って強いか!?どうやって1人で倒したんだ?」
「褒めたって水ぐらいしか出ませんよ?俺はたまたま弱い魔物を倒せただけなんですけどね…?」
「弱いって言ったって最弱のやつでも銃火器一切効かねぇんだろ?俺にゃあ無理だぜ!」
「…褒めるのがお上手で…まぁ…少しは鼻が高いですよやっぱり」
今生きている人間は、皆20年前の大災害を知っている。街が滅びゆく光景を間近で見た人も多くいる。それに亡くなった人々の数はそれ以上に多く、魔物の強さというのは最弱といえど人が勝てるようなレベルではないのだ。
現代の武器である銃やミサイルなどの兵器は一切効かず、己の体もしくは刃物で対抗するしかないのだが、そもそも日本人は優しく臆病だから戦いに向いていない。
そんな中、レベルとスキルを取得するには魔物を一体殺す必要がある。
正直簡単だろとか思うかもしれないが、激ムズである。
大前提、魔物は生物としての格が違う。
どこかのアホな研究員が最弱の魔物であるゴブリンの握力を測ったそうだが、なんと60キロだったそう。
それだけの握力があるということは腕の筋肉もそれ相応に発達しており、殴られればかなり痛手になるし、蹴られても骨の一本は折れるだろう。レベルとスキルが欲しければ1人でこのデスマッチをしなくてはならない。さらにあいつらは本気の殺気を飛ばしてくる。
今から『殺す』と目が、存在そのものがそう訴えかけてくるのだ。それはまるで呪われたかのように脳内に酷くこびりつく。
そんな状態で人は瞬時に動けないし固まるのは必然だ。
実際この20年で探索者になろうとした一般人は大勢いる。もちろん軍は無駄死にさせないように探索者を目指す人々には魔物と戦うための講習と簡単な実技をしてくれる。
が…実戦と練習はあまりにも違いすぎて、D塔に入って魔物を殺せる人間は1割ほどしかいない。
たとえそれが最弱の魔物でも運が良くて勝てても賞賛に値するのだ。
日本の探索者試験を受けた一般人は数多くいる中、実際に恩恵を獲得できたのは300万人ほど。しかし昨今、探索者は人気の職業であり未だに探索者になろうとする者は多く…なぜならお金が稼げるしアニメや漫画の世界の超常の力を使えるようになるからである。
「今日はいいもんがみれたよ。あんがとな」
「いえ、俺はプロではないので、こうやって芸でもしないと食っていけないですから」
「命かけないんだからその方がいいこともあるってもんよ!がははは!」
探索者というのはプロとアマに分かれており、プロというのはレベルを上げようとするガチ勢たちのことで、アマは十階層以下の者たちのことである。探索者になったはいいものの、恐怖で二度と塔に入らない人たちは多く存在する。
立ち上がれない者、小遣い稼ぎの人をアマ
奮い立ち塔を登ろうとするイかれた奴らをプロと世間では言っている。
「プロか…」
俺はただのモブで…主人公ではない。
主人公というのは…頭のネジが何本も外れておかしいやつが掻っ攫っていくんだ。
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