幸せの食卓

とろり。

第1話 当たり前な感覚だった


 私たち家族は決して裕福ではないけれど、それほど不自由無く暮らしていた。


 お父さんは工場勤務で毎朝忙しそうに出掛けていく。朝が早いからほとんどおはようの挨拶もできないまま、私は学校に行くことになる。寂しいが仕方が無い。学校から帰ると少し遅れてお父さんも帰宅する。そして一緒に夕飯を食べる。

 お母さんの手作り料理はみんなに好評で肉じゃがが不動の第一位。

 今日の夕飯は肉じゃがだ。お父さんも私も三つ下の弟も、みんな楽しみにしていた。「いただきま~す!」とみんなで手を合わせる。食べ物に感謝をし、一口ひとくちを味わいながら口に運んでいく。

 きんぴらごぼうや朝ご飯の余りの玉子焼き、サラダに具だくさんのみそ汁。ちょっとメニューのバランスが取れてないかなと思うけれど、それがお母さんらしさ。時々、もったいなさから統一感がなくなるけれど味は星三つの満点星。美味しいからメニューバランスなんか問題ない。

 食べ終わるとみんなで「ご馳走様でした!」と合掌。弟の声が大きくて耳に響くけれど、なぜか耳障りな感じはしなかった。お母さんはにっこり笑顔で「いっぱい食べてくれてありがとね」なんて感謝していたし。

 食器をまとめて流しに持っていくお母さん。その背中が偉大に見えた。


 お母さんは専業主婦で毎朝お父さんにお弁当を作る。色とりどりで栄養満点のお弁当はお父さんのお気に入りだ。お昼休みにお弁当を開けると、会社の同僚に羨ましがられると言う。一つ残さず食べてお弁当箱を持ち帰るお父さん。お母さん曰く、残したことは一度もないと言う。お父さん曰く、あんなに美味しいお弁当を残せるはずがないと。


 私は何も不自由無く暮らしていた。これが当たり前だと、そんなふうに毎日を過ごしていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る