二十七話

「……? 蔵真くんどうしたの?」


「えっ……あっ、いやなんでもないけど、どうして?」


 俺の様子に違和感を感じたであろう春波はるばが声をかけてきた。チクショウばれたらどうしよ。

 さすがに視線を向けられている間は繭奈の手がこちらに来ることは無いものの、あまりに触り方が上手すぎて反応してしまったのだ。


「うーん?なんとなく様子が変だから……ごめんね?」


「いや別に謝らなくてもいいけど……」


 だから変に気を遣われるとこっちがいたたまれなくなるから……ひぃ〜!

 春波が視線を机に戻すと共に、繭奈の手が俺の方へと戻ってきた。いややめてよ。


 しかし彼女に抗議の視線を向けてみるが、あまり ジッと見ていられないことを理解しているのか気付かぬフリだ。しかもこちらには一瞥もくれない割に、その手の動きはあまりに的確だ。

 なんかだんだんエロく見えてきたな……


 いやいや いかんいかん!ここは山襞やまひだの家だ、変なことをしちゃあいけないぞ!

 なんとか俺もノートに視線を移し、集中しながら分からないところは皆に聞いてみる。

 元々平均はとれていたのだ、更に頑張れば点数は上がるだろう。


「そろそろ休憩にしよっか」


 山襞の一声に俺を含めた三人が手を止める。

 タイミングを見計らっていたのだろう、みんな丁度一区切りついたところだ。

 ちなみにだが、山襞はここにいる四人の中で一番成績が良いらしい。いつも九十点後半だって春波が言ってた。

 ただ休憩なのは良いのだが、何とは言わないが大きくなってしまって困る。どうしたもんか……


「ふえぇ……疲れちゃった」


「あははっ、告美つぐみってば勉強あんま好きじゃないもんね」


 春波は勉強が苦手であるのはわりと知られている事だ。実際 自分のテストの点数とか成績にまつわる話はよく避けていたように感じるが、それは気のせいではない。


「ちょっとお手洗い行ってくるね」


「あっ、じゃあ私その後ね」


 山襞が席を立ちトイレに向かった。二人一緒に行ってもいいんですよ?

 なんとか鎮める時間が欲しいのだが、如何せんどちらか片方が残ったままなのでどうしようもない。ちなみに犯人である繭奈は知らぬフリをしている。


「どうしたの蔵真くん。なんだかソワソワしているようだけど?」


「えっ、気のせいじゃないかな?」


「そうかなぁ、私にもそう見えるけど……」


 クッソ繭奈め!誰のせいだと思っているのか、白々しくそうのたまった。ぐぬぬ……

 しかし血流が頭ではない方に向かってしまってる以上、思考能力が落ちてしまっている。その為にはコレを鎮なければいけないのだ。

 あっ、そうだ!春波、山襞とエッチな事をするイメージをしよう。


 ……おぉ落ち着いてきたよしよし。この二人とそういう関係は普通にゴメンなので体が落ち着いてくる。

 しかしまだ半分、これをもっと確実に落ち着けるならどうすればと思った時、俺は閃いた。

 向かいに座る春波の手を俺はぎゅっと握った。


「ぴゃあ!蔵真くんどうしたの……」


 突然の奇行に春波は驚いたのだが、彼女は何故か顔を真っ赤にしている。俺は彼女の温もりを感じたおかげでだんだんの萎えることができた、助かった……


「いやごめんね、実は春波さんの手があまりに綺麗でずっと気になっていたんだ」


「ひゃわわ……っ、いいよいいよ!ずっと握っててもいいからね!……うぇへへぇ♪」


 いやぁ助かる。もし変なタイミングでこうなってしまったら春波に助けてもらおう。

 あの時彼女に向けられた表情けいべつのおかげで落ち着くことができるのだ。


「お待たせ告美……ってなにやってんの?」


「えっ、ぁあはは!いやちょっと蔵真くんが気になるって言ってて……じゃあ私もトイレ行ってくるね!」


 お手洗いから戻ってきた山襞にこの現場を見つかり、春波は シュバッ!と音を立てて離れていった。

 山襞は自分の椅子に座ったわけだご、なにやらモジモジとしながら、俺の手にそっと手を添えてきた。


「告美にしたんだし、私もいいよね」


「あっはい」


 いいねいいね、血流がちゃんと頭に回ってくれるよ。山襞も春波と同じように落ち着かせてくれるので、とっても助かりますありがとう!

 あの時俺の言葉ではなく、あんな男の言い分を信じたわけだしきっと変な気は起こさないハズだ。あくまでスキンシップということ、リラックスも出来るし一石二鳥だね。

 ちなみに繭奈はなにやら変な表情をしている、やっぱりあまり異性と軽々しく触れ合うのは迂闊だったか……



 そんなこんなで時刻は夕方七時頃、そろそろ帰らないといけない時間なので、勉強会はお開きということになった。


「じゃあね蔵真くん、また来てね!」


「ありがとう山襞さん、また明日」


 三人で山襞に手を振り彼女の家を後にする。

 俺を挟んで繭奈と春波と歩いているわけだが、邪魔にならないかな?と少し心配である。

 まぁ住宅街のこの辺のこの時間じゃそこまで人も車も通らないから、そこまで気にしすぎる必要は無い……と、思っていた矢先にまぁまぁスピードを出している車が走ってきた。


「春波さん、危ない」


「ふひゃっ!あっありがと……」


 車道側にいた春波の肩に手を添えてこちらに引き寄せただけなのだが、なぜか彼女は顔を真っ赤にしている。どーした?

 ちなみに繭奈はなぜか可哀想なものを見る目で春波を見ていた。そういや山襞にも同じような顔をしていたような……

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