二十六話

 なんやかんやで繭奈と付き合い始めて一ヶひとつきと経ったが、相変わらず学校では素っ気ない態度の彼女である。

 しかしひとたび学校から出てしまえば、そんな素っ気なさも鳴りを潜め元気で明るい女の子となる。

 陰と陽が魅力的な繭奈と、茂や春波はるば山襞やまひだとの時間は随分と楽しいものだった。


 来週から期末テストだ、勉強に特別自信がある訳じゃないけれど頑張ろうと思う。


「突然だけど、良かったらテスト勉強しない?」


 そう言ったのは春波だ。確かにテスト勉強はやるべきだが、彼女の言い方的に一緒にって事だろう。


「良いね、どこでやろうか?」


「せっかくなら私の家でやろうよ」


 山襞の家か……そりゃ構わないけど、それって大丈夫なのだろうか?そもそも俺には繭奈という素敵な恋人がいるし、うーんどうしよ。

 もちろんこの二人と間違いが起こるとも思えないけど、そもそも自分の恋人が異性と……しかも二人相手に密室というのも、胸中穏やかじゃいられないだろう。さて、どうしたものか。


「楽しそうな話をしてるわね」


 人知れず悩む俺に、そんな声が聞こえてきた。



 今は放課後、山襞の家の近くである。これから春波たちとテスト勉強をするわけだが、茂と貝崎の二人は来ていない。そりゃそーだ。

 だが人数は四人。俺と春波に山襞、これで三人。じゃあ最後は誰なのかと言うと……


「それで、本当に私たちと一緒にテスト勉強するの?白雪さん」


「えぇもちろん。私も少し不安で勉強したいのだけれど、せっかくなら誰かとした方が楽しいじゃない?ね、蔵真くん?」


 少し硬い声色で問いかけたのは春波だ。

 今日は繭奈も交ぜての勉強会となる、とても珍しい組み合わせだ。気まずさとかないんか?


「まぁ、俺は別に構わないよ。困ったら色々聞かせてもらうね」


「任せて♪」


 こうなりゃヤケだ。この際ちゃんと勉強するぞ!意識したら変な感情になっちゃうからな。

 俺たちのやりとりを見た二人は、なにやらジト目でこちらを見ている。


「なーんかいい感じになってる……」


「いつの間に仲良くなったわけ?白雪さん、あんまり蔵真くんを困らせないでね」


 いつもより剣呑な雰囲気で繭奈にそう言った二人、しかし断らないところを見るになんだかんだ "いい人 " たちなんだろうな。

 ちなみに繭奈はどこ吹く風だった。



 そうして山襞の家に上がらせてもらい、今は教科書とノートを机に広げてカリカリとペンを走らせている。

 普段から授業は真面目に受けているし、勉強も欠かしていないがそれでも解釈違いや覚え間違いというのも多く、三人には助けられている。


 ちなみに今の配置であるが、リビングにあるテーブルを挟んで二人、その向かいに二人という感じだ。

 最初は俺の隣に誰が座るという話になったのだが、何故か繭奈だけでなく春波と山襞までそこがいいと言い始めたのだ。

 ジャンケンによりその位置を決める戦いが始まったのだが、なんと一発で勝負が決まった。


 その隣の人から俺はちょっとしたスキンシップを受けている。あまりにもディープな気がしないでも無いが。


「えっと白雪さん、これなんだけど……」


「ん?あぁこれはね……」


 その隣の人はもちろん繭奈だ。いやぁ安心できるね、ただ人目を憚らないのはなんとかしてくれないかな?せめて二人きりの時にして欲しいんだけど。

 少し不安な点があり、そこについて彼女に聞いたところ、彼女は教えるついでとばかりに身体をグイグイと押し付けたり、テーブルの下に手を滑り込ませたりとしてきて困る。

 しかも触り方も上手なので結構危ないのだ。


「あっありがとう……」


「どういたしまして♪ついでに蔵真くんに聞きたいんだけど、ココはこれで合ってるかしら?ほら、よく見て?」


 どう見ても合ってるだろうに、繭奈はわざわざ俺の腕を引っ張ってくる。

 されるがままに彼女の方に身を寄せると、すかさず俺の腰に手を当て、そこを少し撫でたあとスルスルと下に手を下げて優しく揉みしだいてきた。ちょっと気持ちいい……


「大丈夫だよ。白雪さんならどうって事ないでしょ」


「ありがと、でも確認はしとかないと慢心はダメよ?」


 彼女の言い分は最もだが、それにしたって触りすぎだ。俺だって繭奈を触りたいってーの。

 しかしそうもいかない、確認も終わったのだしすぐに椅子に腰掛ける。

 だがまたもや彼女の手が俺の太ももを撫でてくる。


 俺の右側に繭奈は座っており、彼女は右利きだ。つまり右手でペンを持ちながら、左手で俺に触れる。

 春波たちがノートに視線を向けている間にその手がやってくるという訳だ。


 友人に隠れてそういう事をするというのは、なかなかにスリリングでら罪悪感や背徳感がある。

 もう頭がおかしくなってしまいそうであった。

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