第26話 英雄たちの出逢いの物語


 あの後の二人がどんな話をしたのか、その会話の内容は……内緒と言われてしまったのでわからない。


 部屋を出てきたニュイちゃんから、なんとも言えない目で見られたあと「ま、ツバメさんなら……ツバメねぇでもいいよ」って言われたのは、何だったんだろう……? まあ嬉しいけどね。いや、凄い嬉しいけどね!? 前後のつながりが分からなくて若干怖いです。


 まあ、それでも。


「フェアねぇ!」


「はいはい……あんまりくっつかないの。ああもう、食べかすが付いてるわよ」


「取って!」


「もう……はい、綺麗になったわよ」


「ありがとうフェアねぇ! 大好き!」


「はいはい……私も大好きよ」


 この二人がちゃんと想いを伝えあって、仲直りしたことは目の前の景色からもよく分かる。ああ、姉妹愛……見てて癒されるね。混ざってもいい? それはガイアッッッ! コース?


 ちなみに、私のことをツバメねぇと呼ぶのと同時に、ニュイちゃんはレーちゃんをフェアねぇと呼ぶようになった。なんか、変わりたい意思表示なんだそうな? 目の前の景色を見てると、お姉ちゃん大好きっ子丸出しですけど……。


 ニュイちゃんは天真爛漫な笑顔を見せながら、レーちゃんに抱きついて、甘えている。まあ、この景色は尊いので変わらなくていいです。


「ツバメ姉も、フェア姉もこんな美味しいものを毎日食べてたなんて、ずるいよね」


 ニュイちゃんは、目の前にあるご飯を見ながらボヤいた。その目は次のターゲットを選別しているに違いない。バイキングは胃の容量と、食欲の緻密な計算によって出来ている……! 別にバイキングではないけど。


「別に毎日じゃないわよ。そんな余裕なんて新人の私にはないもの。ツバメは……もしかしたら食べてるのかもしれないけど」


 レーちゃんは、抱きつくニュイちゃんのほっぺを突っつきながら、こちらに視線を寄越した。私をなんだとお思いで?


「む? ツバメ姉の贅沢者!」


「まーた誤解が生まれてる! 落ち着いてよニュイニュイ!」


 さてさて。今私たちがいるのは冒険者ギルドにある酒場の丸型テーブル席だ。


 最初は三人で等距離に座っていたんだけど、点Nが点Rに近づくまで多分一分かかってない。前世の点Pも、目的地に好きな人がいたのかもしれない。でも動くな点P。


 テーブルには彩り豊かな食事が揃っている。仲直り記念の食事会です。高級店みたいな食事では無いけれど、それなりに美味しいし、村から出たばかりのニュイニュイにはなかなか刺激的な食事だったみたい。楽しんでくれて何よりだねぇ。


 でも、そんなご馳走を用意した私に、ニュイニュイはなんともびみょーな目線を送ってくるのであった。あれぇ?


「……その、ニュイニュイって呼び方、やっぱりちょっと変じゃないかなー?」


「ツバメはあだ名のセンスがないから……」


「え、可愛いと思うんだけど」


「「うーん……」」


 うーん……て。言葉になってないダメだしって効くんだよ?


 ニュイちゃんが私のことをツバメ姉と呼んでくれるようになったので、私もニュイちゃん改め、ニュイニュイと呼ぶようにしたんだけれど、何時ぞやのレーちゃんそっくりな微妙な顔をされてしまった。


 私のあだ名、いつでも不評です。なぜだ。


「まあでも、慣れてくれば悪くはない……? から」


 それは慣れてないうちは悪いと思っていたんですか、レーちゃん。


「え〜……まあ、響きは可愛い……ような? 気もする?」


 疑問符が多くないですかニュイニュイ。


「そうね。なら私もニュイニュイって呼ぶ?」


「やだ!」


 やだ! の返事が大変元気がよろしかったので、結局私のあだ名のセンスはダメらしい。そう言えば前世の偏屈な友人も、独特な呼び名だねって言ってたし……もしやミィちゃんも純粋にあだ名が嫌な可能性が……!? そんな事ないよね!? 誰がミィちゃんですか、はコミュケーションの一種だよね!?


「まあ、その話はいいとして……」


 よくないよ!?


「やっぱり村に行くのは――」


 おっと、その話を蒸し返しますか。


「なーし! フェア姉! それは、みんなで話してもう結論は出したでしょー!」


 切り替わった話の内容が私としても適当に返せない内容だったので、ちょっと真面目になる。やっぱり諦めてなかったのね。


「そうだね〜、少なくとも冬の間は里帰りはしない方が良いと思う。冬は森も眠るから、狩人が多少減っていても大丈夫なんでしょ?」


「それは、そう……だけど」


 レーちゃんは若干不服そうにして、そんなレーちゃんにニュイニュイが腕を掴んでむくれて言った。


「フェア姉は気にしすぎ! あんな人達のことなんて、ほっといていいんだよ!」


「でも……」


 少し罪悪感を滲ませるレーちゃんを見ながら思い出す。


 それは仲直りをした後に今後はどうするか? という会議を三人で行った際のこと。


 まず、ニュイニュイは街に残って冒険者になり、さらにレーちゃんとパーティを組むことも決まった。ニュイニュイ念願の“一緒にいる”が叶う形だ。


 これでレーちゃんの懸念であったパーティ問題も解決。新人しかいないので色々課題はあるけれど、少なくともソロよりマシだし、長年一緒にいた二人はコンビネーションも抜群。二人とも実力はあるので、まあ何とかなるだろう。


 ニュイニュイはレーちゃんと離れてしまう、もしくは離れる意志を持ってしまうと途端に不穏なフラグが立ってしまうから、そういった側面を防ぐ目的でも良いと思う。魔王フラグへし折ってもこれとか……ニュイニュイの運命の厳しさが垣間見えてつらい。


 次に、ニュイニュイもレーちゃんと一緒に私の指導を受けることになった。しかも一ヶ月ではなく、この冬丸ごとである。つられてレーちゃんの指導期間も春まで延長となりましたとさ。


 ツバメ姉がフェア姉より教えるのが上手か見極めてあげる〜! なんてニコニコしながら言ってきたので、スパルタしちゃおうと思います。わからせ文化を生き抜いたオタクを舐めてはいけない……!


 ……と、まあ、ここまではいいんだけどね?


 レーちゃんが言った“一度村に帰りたい”が問題だった。


 これは別にニュイニュイを村に戻すためとか、諦めて村長の息子と結婚するとかじゃなく、レーちゃんが『そもそも色んなことを投げ出して家出なんてしたからこうなった』と考えたためで、つまりは心の清算をしたいってことだ。


 まあ確かに、正式な手順を踏んで村から出てきたのなら、諸々問題が起きなかったのはわかる。でもそれは無理な話だ。環境的に逃げ一択だし、逃げてきて偉いとすら思う。


 だからこれにまずニュイニュイが大反対した。村に戻ったところで嫌な思いをするだけだ、そんな事したってアイツらがまともに話を聞くはずがない、とレーちゃんを説得しにかかった。最初は村に帰ってきて欲しいって言ってたのに、すっかり変わったね。まあ、二人でパーティを組んで一緒にいられるとわかったのに、わざわざ帰る必要はないってことだ。


 私としても反対の意を示す立場を取った。レーちゃんの心のモヤを取ることは大切だけれど、ニュイニュイの話を聞いて村への印象がかなり悪くなっているし、絡め取られて村に残るなんてことになれば目も当てられない。およそ良いことが起きるとは思えなかった。


 それと、例の復讐者の動きが掴めていない状態で、レーちゃん達を送り出すのは怖い、というのもある。


 それでもレーちゃんは『逃げ出してきたって気持ちを抱えて冒険者を続けたくない』と言って折れる姿勢を見せなかったため、折衷案として春になったら行こう、という事になったのだ。


「どうしても直ぐに行きたいって言うなら止めることは出来ないかもしれないけれど……この冬の間はビシバシ鍛えるから、村に帰る余力なんて残らないと思うよ? 指導期間が残ってること、忘れてないよね? 村に行く道中だろうと加減する気は一切ないよ? 真冬の平原で疲労困憊で野営準備してみる?」


 実際は止めますけどね。あの手この手で行く気力を削いでやりますけどね。


「うっ……そうね。先ずはそっちを頑張るわ」


「はーい、私も頑張るよー」


 私の本気が伝わったのだろう。レーちゃんはちょっと怖がりながら、ニュイニュイは余裕そうに答える。ニュイニュイの余裕はいつまで持つか楽しみですね。


 一応確認すると、折衷案を提示した私の目論見は三つ。


 一つ目は、二人を強くすること。


 村人がどうこうしてこようが、全部跳ね返せる実力があれば、ある程度安心は出来る。数ヶ月の間にどれだけ出来るかは未知数だけれど、レーちゃんの成長率は目を見張るものがあるからね。


 格上になれば、村人を睨みつけるだけで黙らせることも可能になるだろう。村長だろうと黙らせられる力を身につけてしまえばいいって作戦だ。


 二つ目は、情報収集が出来るまでの時間稼ぎ。


 とにかく、復讐者の居場所を突き止められなければ、動くことは出来ない。正直なところ、これさえ無ければ村に向かっても良かった。


 なにせ、たとえレーちゃんたちが村から出られない状態になろうとも、色々と問題を無視すれば村からレーちゃん達を攫ってくることは可能だから。


 でも、復讐者に関しては奪われるのは命だから取り返しがつかない。今、最も情報が早く届く冒険者ギルドから離れる訳にはいかないってわけだ。


 三つ目は、最悪、復讐者の居場所が分からなかったとしても、雪解けの季節に村に向かえば、復讐者から村を守れると考えたから。


 個人的に村への印象が悪かろうが、レーちゃんとニュイニュイの故郷だ。失わせる訳にはいかないからね。


 と、こんな感じのことを考えていたわけです。


「まあ、焦らずいこうよ。行かないってわけじゃないんだから」


「……そうね」


「行かなくてもいいと思うんだけどなー。まあフェア姉がどうしてもって言うなら、付き合ってあげる!」


「……ありがと、ニュイ」


 そんな感じに二人でレーちゃんを落ち着かせたところで、追加で頼んでいた飲み物が届く。それを二人に回して、手に取った。


 一難去ってまた一難。レーちゃんのことに、ニュイニュイのこと、指導内容に、村のこと。復讐者、魔王、未来に待つ不穏の影。考える必要があるものは沢山ある。


 でも、今日は一旦、面倒な考え事はここまでとしよう。


「それじゃあ真面目なお話はここまでにして、全力でご馳走を楽しんじゃおっか!」


 コップを掲げると、二人も察して掲げてくれる。


 それじゃあ改めて――。


「「「カンパーイ!」」」


 ま、色々あったけど、酒場で乾杯するのは異世界ファンタジーって感じで悪くないよね!





 第一章 英雄たちの出逢いの物語 おしまい。



※あとがき

 これにて第一章は終了です。ここまで読んでいただきありがとうございます。もちろんまだまだ続きます。

 第二章の前に断章と閑話を挟みます。また、書き溜める時間を少々頂きますので、更新再開をお待ちください。


 改めて、いつも読んでくださってありがとうございます。

 ハートでの応援、星での評価、コメント、とても励みになっております。貴方の応援のおかげで、今日も私は執筆することが出来ております。


 そして! おすすめ百合作品もいつでも募集しております! 百合好き同志のみんな! 私にあなたの推しを与えておくれ! そして『どうしたら幼馴染の彼女になれますか!?』を読んでおくれ――――!!!

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