第2章 「異世界へ飛び込んで」
放課後、真琴はフウタの提案に心を躍らせながらも、少し不安な気持ちも抱いていた。彼女は友人の水野美咲に、さっそくこのことを話すことにした。図書館の奥まったテーブルでこっそりとフウタを見せると、美咲は目を輝かせて喜んだ。
「すごいじゃない!ファンタジーの世界みたい!」美咲は興奮気味にフウタを眺めた。「で、フウタさんって一体どうしてここに?」
「実は、拙者が出てきたのには重大な使命があるでござる!」とフウタは、急に真剣な顔になり、声を小さくした。「真琴殿と美咲殿には、伝説のクエストに参加してほしいのじゃ!」
「伝説のクエスト?」美咲の目がさらに輝いた。「それって、何をするの?」
「そうでござる!我々が住む本の世界が今、非常に困難な状況にあるでござる。各物語の住人たちが、自分の物語から抜け出し、現実世界に迷い出てしまっている。いやはや、皆が勝手にエジプトに飛び出したり、サムライの時代に紛れ込んだりで、カオスじゃ!」
フウタはため息をつき、悲しげに頭を垂れた。真琴は彼の言葉を聞いて不安になったが、美咲の目は好奇心でキラキラしていた。
「え、でも、私たちに何ができるの?」と真琴。
「拙者たちは、偉大なる『無の読者』を待ち望んでいた。これは、何もしていないと見せかけて、心の中で誰よりも壮大な冒険をしている者のことでござるな!」
「『無の読者』?…それってつまり、真琴のこと?」と美咲は真琴に目を向ける。
「いや、そんな大それたものじゃ……」と真琴はうつむいたが、フウタは大きく頷いた。
「そう、真琴殿こそ我々の望みでござる!だがクエストには仲間も必要!ぜひとも美咲殿、黒崎殿、そして他の者にも協力をお願いしたい!」
フウタが言うと、美咲もすっかり乗り気になった。真琴は気が進まなかったが、いつも静かにしている自分にこんなに大きな役割があると言われると、少し誇らしい気持ちにもなった。
*次の日
翌日、真琴と美咲は、学校でクラスメイトたちに秘密の集まりを開くことにした。健太、雅人、美月、翔太、智也などの友人たちが集まると、彼らはフウタの話を聞くと「面白そう!」とすぐにやる気になった。
「みんな、我々は世界の危機を救う英雄になるでござる!」と、フウタは大げさにみんなに向かって胸を張った。
「でも、どうやって冒険するの?学校の外で魔法使いとかモンスターとかに出会うわけじゃないでしょ?」と雅人が少し疑いの目を向けると、フウタは得意げにニヤリと笑った。
「冒険は、心の中にこそあるものでござる。例えば、図書室の一冊の本が、そのまま物語の中への扉になることもある。皆の集中力が本の世界に入り込む鍵となるのじゃ!」
一同はしばし沈黙したが、健太が「なるほど!わけわからないけど面白そう!」と叫んで拍手をしたのを皮切りに、全員で大賛成。こうして、彼らの冒険は始まった。
本の世界への初突入
集まった彼らは、学校の図書館に陣取り、フウタの指示で古びた魔法書に手をかざした。フウタが何やら怪しげな言葉を唱えると、空気がビリビリと震え、目の前に扉のような光が現れた。
「行くでござる!皆、怯まずに!」とフウタが掛け声をかける。
最初に扉をくぐったのは、元気いっぱいの健太だった。その後に続くようにして、全員が光の中に飛び込んだ。そして次の瞬間、彼らは全く違う世界にいた。広大な砂漠に燃え上がる太陽、そして目の前にそびえる巨大なピラミッドが彼らを出迎えたのだ。
「ま、まさか本当にエジプトの世界に来たの!?」と美咲が興奮して叫ぶ。
「そうでござる。ここは『砂漠の王国』という物語の中。だが、拙者が言いたかったのは、他にも異世界の住人が入り混じっていて、ここを冒険するのが容易ではないということじゃ」
フウタが言うなり、砂漠の奥から何やら奇妙な声が響いた。そこには、魔法の杖を持った怪しげな魔法使いが立っており、彼らをじっと睨んでいたのだ。
「そこの若者たち!ここは我が城の敷地内である。何用で来たのか、申せ!」魔法使いが杖を振ると、砂の中からミイラ男たちがぞろぞろと現れた。
「ひぃ!ミイラだ!」と翔太が叫び、一同は一気にパニックに陥った。
「いや、こういう時は心の力で対処するのだ!」とフウタが叫ぶが、すっかりおびえた健太たちはその意味が全くわからない様子。
*知恵と笑いで危機を脱出
そこで意外な人物が動いた。それは普段口数の少ない智也だった。
「えーと、これは心理トリックだと考えたらどうかな?ミイラが怖いって思うから怖いわけで、実際はただの幻かもしれない」
智也が冷静に分析を始めたことに、皆はびっくり。しかし、智也が「心を強く持つことが大事」と言い出すと、不思議なことにミイラたちは少しずつ後退し始めたのだ。
「ほ、本当に効果がある!?」と美月も驚きながらも試しに声をかけてみた。「私たちはただの読者です!冒険に出るだけです!」
こうして彼らは次第に落ち着きを取り戻し、再び進み始めた。そしてピラミッドの中で彼らは数々の謎を解き、ようやく最深部の宝物庫にたどり着いた。
*魔法の宝石と運命の再会
宝物庫の中には、光り輝く魔法の宝石が鎮座していた。フウタによれば、この宝石こそが本の世界の住人たちが迷わないように導くアイテムであり、彼らが現実と本の世界をつなぐための鍵だという。
「これを持って帰れば、迷える物語たちが戻るべき場所に戻れるでござる!」とフウタは胸を張って言ったが、その瞬間、突然、黒い霧が巻き起こり、また別の物語のキャラクターが現れた。
それは、剣を振りかざした騎士のような姿をしており、「愚か者どもよ、この宝石は我が主に献上するのだ!」と叫んで、襲いかかってきた。
一同は再びパニックに陥ったが、雅人が咄嗟に自分のカバンから取り出した物が目に入った。…それは、なぜか持っていたお菓子の詰め合わせだった。
「お菓子でつっついてやれ!」雅人の叫び声に皆が驚いた。
「え、えっ!?」と美咲が戸惑ったが、フウタが「それも一つの心の力でござる!」と言う。
雅人がすぐにお菓子を剣の騎士に向かって投げつけると、思いもよらず騎士はそのお菓子に目を奪われ、ついに目の前に立ち尽くした。
「これは何だ!甘い匂いが……まさか、甘いお菓子か!?」
騎士の表情が困惑に変わり、皆はその隙に宝石を手に入れた。
*新たな仲間とともに
こうして彼らは、見事に騎士をまどわし、宝石を手に入れることに成功した。フウタは彼らに向かってにっこりと笑い、仲間たちも笑顔で喜びを分かち合った。
「これが我が本の世界に戻る第一歩でござる。皆、素晴らしい勇気を見せてくれた!」
「でも、これからどうするの?」と真琴は不安を抱えたまま尋ねた。
「次なる冒険に出る準備が整った時、次の物語の世界へ行くのじゃ!」とフウタ。
彼らは新たな仲間として、さまざまな異世界での冒険を重ねながら、迷子の物語たちを救うことを決意した。
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