-Generation of V- 後編

企業に属する者なら規律が最も重要な事だ


規律のない組織はただのテロ組織に過ぎない


それは理解している


だが私は規律に縛られて我慢出来る程大人ではない


身も心も


私はあの時のままだ


機械化


それには当然デメリットも存在する


それは成長が止まる事


いくら長い時を生きようと老いる事が無い


それは人間という枠組みから外れている事を意味する


寿命に縛られない存在


それは人間ではない


私はあの戦いで生き抜く為に,そして何よりも人類を守る為に人間を捨てた


それでも尚,人間である事を捨てても人間であり続けたい


少なくとも人間らしくありたい


それが今はどうだろうか


皆が便利だからと喜んで人間である事を辞めていく始末だ


真に人間と呼べる存在はこの世界では数少ない


だからこそ戦う


再び人類が自らの足で進めるまで


「ふむ…君の言う事は理解した,今回の件は不問という事にしておこう」


「…ありがとうございます」


「なぁに,君がしてきた事も考えての事だ,しかしいつまでも私が擁護できるとも限らない,なるべく衝突は避けてくれ」


「…はい」


「君が最後に出撃して随分と経つ,もしかしたらこの先も出撃が無いかもしれないしそれが良いのかも知れない,いつまでもここにいては君自身の人生が…」


「分かった上で残ってます,これは私の我儘です,それに出来る事がこれしかありませんから」


「…そうか,ではまた会おう,V」


企業を辞めて新しい人生を歩んだらどうだ


それは色々な人から言われる事だ


私の様な旧世代はとっくに隠居している存在だ


企業の中でも旧世代である私の様な存在はごく一部だ


ましてや私の所属している企業では他の旧世代は存在しない


「あ…お疲れ様ですVさん,本日はどの様なご用事で?」


「ソルジャーズの隊長に喧嘩売られたから買っただけだ」


「あはは…Vさんらしいです,IVさんはどうしてます?」


「…あいつは先月機能停止した,私だっていつ機能停止するか分かったもんじゃないな」


「…そうですか」


寿命に縛られない存在が私達だ


しかしそれは裏を返せば生き地獄とも呼べる


人間には寿命があり,いつかは終わりを迎える


それがどれだけの幸福だったのかと理解したのは100年程前だ


人は終わりがあるから必死に生きようとする


しかし私達にはそれがない


技術は進歩していくが私達自身は衰退していくばかりだ


そんな時代だからこそ自ら機能を停止する者も現れる


とは言っても厳密には死んでいる訳ではない


私達の心臓は奴らのコアによって機械化されている


膨大なエネルギー源であり私達に必要不可欠なもの


それが活動停止すれば文字通り動けなくなる


動く事も思考する事もなく,ただ眠る様に時を過ごす事が出来る


「そういえば新しい電脳のアップデートが来てましたよ?」


「分かってるだろ?そんなもん私にはいらねぇ」


「それは経験則ですか?」


「いや,信念だ」


「昔の人は凄いですね…その左眼みたいにそれだけのサポートで戦っていたなんて…」


「逆に私は電脳に脳を制御されて動いてる方が不気味で仕方ないけどな」


私達旧世代の時代には電脳と呼ばれる技術はなかった


その為戦闘においてそれをサポートする様に開発されたのがスフィア・アイ,義眼と呼ばれるものだ


私の左眼に埋め込まれているこれは戦闘をサポートしてくれる


敵の行動パターン,行動予測


そしてそれらの情報で行動を行う


電脳はこれらのシステムに加えてリアルタイムでの演算処理を行い体を自動で行動サポートしてくれるというものだ


最早機械の動きと変わりない


「最近何か変わった事はあったか?オペ子」


「そのオペ子って呼び方やめてくださいよ〜…えーと最近は……そうですね,幾つかの企業の隊員の被害率が上昇傾向にあります,幾つもの部隊が挑んでは敗北しています」


「それでさっきの出撃命令か?」


「普段自分達の手柄にしたがる企業もそうは言っていられなくなってきたんでしょう,元々うちの企業の管轄エリア外ですけど要請がありました,敵勢力は不明ですが出撃したのはソルジャーズですので問題はないでしょう」


「だといいがな」


「これが敵の新型のデータです,とは言えクラッシュ前のデータから得られたものですけど」


「………ツッ!こいつは!?」


「……?どうしました?」


「私のドッグを開けろ,今すぐにだ」


「え……ですが出撃命令は…」


「そんなもん待ってる暇はねぇ!開けろ!」


「わ……分かりました!」


データに見覚えがある


私の推測が正しければこいつは10年前と同じだ


「おいおっさん,悪ぃけど私のドッグに来てくれ,今すぐにだ」


『…穏やかじゃねぇな,待ってろ』


ソルジャーズの出撃が一時間程前,該当エリアへはそう時間はかからない


「パーツ装着急げ!」


「えーっと…これどうやって付けるんですかぁ!?」


「ばっかお前こいつは腕部装着型だ,そのまま付けりゃいい」


私の様な旧世代は人類に扱えない兵器を使用する事を筆頭に置かれて製造された個体


その為新世代の様な手持ちの武器ではなく全て装着する手間がかかる


「左腕部のアームはまだチューニングが終わってねぇ,クローとガトリングパックだけじゃやれねぇだろ?」


「だからあんたを呼んだんだよ,おっさん」


「ったく世話が焼けるぜ,輸送機の準備は出来てるな?ギリギリまでチューニングしてやる,使いこなせるかはあんた次第だ」


「十分,最悪盾代わりに使う」


大型輸送機での輸送


私の武装はドッグで装着する必要がある為こうして大型の輸送機でないと出撃が出来ない


武装の装着,輸送機での輸送,そして弾薬費用


私が10年前に出撃して以来出撃の命令がなかったのはこれ程までの手間と費用がかかるのも要因の一つだ


「はぁ!?出撃命令が出てないだと!?先に言えよ!」


「仕方ねぇだろ,待ってる暇がねぇ」


「ったくお前今度こそ罰則くらうぞ」


「それで命が守れりゃ十分だ」


「例えそれがあいつらでもあってもか?」


「あぁ,私は守る為に戦う事を選んだ,私が動ける内に,私が戦える内は誰の命だって失ってたまるか」


「そうかい,そろそろ目的地だ,可能な限りチューニングは行ったがこいつは謂わば新世代と旧世代のハイブリッドだ,そいつをあんたに,旧世代に近づけてあんたの動力でのみ稼働する様に無理矢理チューニングした,あんたの動力同様不安定だ,それだけは覚えておいてくれ」


「…私一人でやる,ソルジャーズの連中は下がらせる,負傷した連中は任せたぞ,おっさん」


「あぁ,行ってこい」


「必ず守り抜く,この手で...!」


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「ちょっとどういう事!?こいつら…!」


「隊長!私達の武器が通用しません!!」


「そんな…こいつら一体一体は大した事ないのに…」


「まずいです,明らかに質量で負けてます」


「雑魚共が合体するなんて……」


「隊長…一旦退きましょう…このままでは勝てません……」


「…退く事は出来ない……私達はソルジャーズ…私達で勝てない奴をどうやって…」


「このままじゃ全滅しますよ!?」


「そうですよ!一旦退いて増援を…」


「狼狽えるな!私達は最強の兵士,ソルジャーズよ!?こんなところで負ける訳には…」


「ならどうすればいいんですか!?隊長!指示を!」


「隊長!!」


(他の連中は皆こいつらにやられた…合体して巨大になる事で質量で全てを押し潰す…私達の武装でも効果を発揮しない程に…)


「隊長!私達に命令を!」


「どうしますか!隊長!」


「…私達がここで撤退して増援を呼んでも時間がかかる…その間にこいつは街へやってくる……今ここで何とかしないと…何が何でも私達が勝たないと…!」


「きゃぁぁぁぁぁあ!!!!」


「くっ……どうして…私達は最強の兵士…なのに……なんで倒せないの……これじゃぁ……これじゃぁ……!!何も守れない……私達は奴らと戦って街の人を守る為に造られたのに……」


「部隊損耗率70%!これ以上は無理です!!」


「無理でもやるしかないの!私が…私達が守らなきゃ何も無くなってしまう…だから……ッ!!!」


「よく吠えた」


輸送機から飛び降りて前線へと到着


やはり私の推測通りだった


データで見たこいつらは見た事があった


私が10年前に潰した巨大Metal,フォートレス


当時は巨大なMetalとして姿を現したが奴らもどうやら知能というものがあるらしい


分離して敵を誘き寄せてから合体し,質量で押し潰す


他の企業の連中が敵わなかった訳だ,そして現にこいつの相手はソルジャーズでは無理だ


「旧世代…一体何しに…」


「下がれソルジャーズ,こいつの相手は私がやる」


「あんたみたいな奴に何が出来ると…」


「ソルジャーズのお嬢さん達,一旦退け,この場はこいつに任せろ」


「くっ……」


さて,これで一人だ


この方が都合が良い


一対一なら力でこいつを捩じ伏せられる


「リミッター解除,エネルギー供給開始,もう誰も私に近づくな」


「なに……あれ……」


「よく見とけ若いの,あいつが何故10年間出撃命令がなかったのか,そしてお嬢さん達を下がらせたのかをな」


いつ以来だろうか


私が動力炉を完全に起動させたのは


懐かしい


重い機械音が心地良い


私自身が生きているのだと感じる


私は戦場でしか生きれない


あの頃からそうだ


戦う選択をした時から


私は戦う為に,守る為にここにいる


「はぁぁぁぁ…ッ!!!」


やはり関節部分は脆い


巨大なクローが奴を掴み,挟み潰す


「まだだッ!!」


損傷を与えた部分に強引にクローを捩じ込む


いくら装甲が厚かろうが内部は別だ


「燃えろ!!!」


私のクローに取り付けられた機能は挟み潰し圧殺する力


そして高威力のバーナーだ


巨大な火柱が内部を焼き尽くし破壊する


まずは片足,貰ったぞ


「凄い……私達の武器じゃ全く歯が立たなかったのに…」


「何であいつが10年間も出撃命令されていなかったか知ってるか?」


「いえ……旧世代は役目を終えて私達新世代が…」


「違う,あいつは確かに旧世代だ,そして旧世代にはそれぞれ特徴がある,それは個人ごとに特化した力を与えられている,そしてあいつは対巨大Metal専用にチューニングされた規格外のバケモンだ」


片足を潰せばバランスが崩れる


あとは順番に破壊していけばいい


やっている事は解体作業と何も変わらない


「ちっ…!」


当然それだけじゃない


敵も敵だ


当然反撃してくる


「ぐっ……ウォォォォォォッ!!!!」


左腕部のアーム


今回の出撃で初めて使用する


旧世代と新世代の技術の結晶


使いこなしてみせる


「はぁっ…大した力だな,新世代の技術ってのは…ッ!!」


重い一撃も受け止められる


この重さならやれる


「はぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


「一撃で吹き飛ばした…!?」


「はっはっは,どうやらチューニングはバッチリな様だな」


「はぁっ……はぁっ……そろそろか」


体が熱い


燃えるようだ


私の動力炉に使われているのは未だに解明されていないオーバーテクノロジーだ


その為非常に不安定でありこのエネルギー源を使用しているのはプロトタイプである私だけだ


「エネルギー放出,動力炉リミッター解放,最終リミッター解除」


「あの黒いエネルギー…」


「あれがあいつの動力炉のエネルギーだ,旧世代の中でもプロトタイプであるVは試作された動力炉を使用している,不安定で安全性の面から以降使われる事はなかった,あいつが新世代の武装を使えない理由だ」


「そんなものを使ってまで…」


「それだけじゃねぇ,あいつの動力炉のエネルギー出力は異常だ,だからあぁしてエネルギーを外部へ放出しなければ自壊する,だが当然放出したエネルギーに触れようもんなら無事では済まない,お嬢さん方の使っているビーム兵器は精密な武器だ,そんなもんに耐えられねぇ,だからあいつは頑丈な旧世代の武装しか使えねぇのさ」


「……………」


こいつは10年前と完全に同一という訳じゃないらしい


以前は見られた脆弱な部分に新たなる装甲が追加されている


学習しているのか?


だとすれば非常に厄介だ


「くそっ…なんだ?」


左腕部アームの接続が鈍い


やはり新世代の武装は私と相性が悪い


半ば無理矢理チューニングを行って規格外である私のエネルギーで強制的に動かしている状態だ


このままではいつ動けなくなるかも分からない


「ちっ…!」


高速ブースターを使用したとしても私の機動力は高が知れている


武装が極端に重い


飛行ユニットすらも意味を成さない


ブースターにエネルギーを回し続ける事も出来ない


それを見抜いてか奴は近距離での戦闘ではなく機銃による遠距離攻撃へと切り替えてきた


私は特化した性能である為弱点が非常に多く限られた戦場でのみしか力を発揮出来ない


機銃による弾幕は避けるか左腕部アームで守ればいい


だが時間はかけられない


「ただ撃つだけがこいつの使い方だけじゃねぇ…ッ!!」


背中に背負った大型のガトリングパック


実弾兵器はMetal相手に効力が低い


だが攻撃だけが使用用途ではない


「地面をめちゃくちゃに撃って…砂埃を…?」


「はっ,贅沢な使い方だな…やっぱり天才だなお前は…!」


地面へと撃ち込まれた弾丸は激しい砂埃を巻き上げる


それも私の姿が視認出来なくなる程に


案の定敵はこちらを見失っている


私も十分大きな武装を背負っているが敵はそれ以上だ


敵に比べれば私は小型に見えている


視界を潰せばいいだけの話だ


「ブースターもオーバーヒートか…それなら一か八かだ…エネルギー放出停止,左腕部アーム砲解放,エネルギー充填」


新たなる力


新世代の技術を今ここで使う


私が垂れ流して無理矢理循環させているエネルギーを一点に集中して解き放つ


旧世代の私が唯一使用出来るビーム兵器だ


「くたばりやがれぇぇぇぇぇッ!!!!」


普段冷却の為に垂れ流しているエネルギー,それに加えて動力炉からの直接のエネルギー供給


それを今!


「………はぁっ…………はぁっ……………」


巨大なエネルギー砲が敵を貫く


予想以上の威力だ


そしてそのリスクは大きい


体が動かせない


絶大な威力の犠牲は動けなくなる程のエネルギーの使用量だ


「は……大したもんだ……だがこれで……ツッ!?」


馬鹿な


まだ動けるのかこいつは


いや…そうだ


こいつは本来一体ではない


幾つものMetalが合体して巨大な姿を形成している


その内の一体が偶然にも生き残ったか


ボロボロの状態で私へと襲い掛かる


もう体は動かない


ここまでなのか


「やらせない…!!!」


「お前…」


「はぁぁぁぁぁぁッ!!!」


流石に死を覚悟した


その矢先だった


あの女だ


ソルジャーズ隊長


彼女が身を挺して私を守ったのだ


「はぁっ……はぁっ……」


「無茶しやがって…使えない奴は見捨てるんじゃないのか?」


「……………」


ようやく戦場は静寂を取り戻す


守りきったんだ


私は人類を


「あーー…疲れた,武装パージ,回収してくれ」


「お疲れさん,あんたの戦いをまた見れるとは思えなかった」


「私だってまたここに戻ってくるとは思ってなかったからな,久々だったから疲れた」


「へへっ,それにしても使いこなして見せたじゃねぇか,そいつを」


「あぁ,あんたのおかげだおっさん,ありがとよ」


こいつが無ければ私はこの戦いに勝てなかっただろう


それをギリギリまでチューニングしてくれたおっさんには感謝しかない


「…V」


「あ?何か用かソルジャーズ」


ソルジャーズ隊長


あの女が私の元へと訪れる


「ありがとう…そしてごめんなさい…!私…何も理解してなかった…仲間の事も…戦いの事も…」


「…………」


「私…隊長として力不足だった…貴女が来てくれなかったら……貴女こそソルジャーズの隊長に相応しいわ…」


「悪ぃ,私は隊長なんて柄に合わねぇ,お前がやるんだ」


「私が……」


「お前がただのガラクタじゃなくて何よりだ,人間は誰しも間違い,それを正す事が出来る,それが人間だ」


「……ありがとう,私やるわ,人類を守る為に」


「そうだな…あー………悪ぃ,私はお前の名前を知らない,教えてくれないか?」


「ホープ,ソルジャーズ隊長,ホープよ」


「改めてVだ,希望を冠するその名前,良いと思うぞ私は」


「名前に負けない力を身につける…いえ,力だけじゃない,心もね,人間として…!」


歴史は過去の足跡でしかない


夢は未来でしかない


私達が生きているのは現在だけだ


だが希望を持つ権利は誰しもある


そしてその希望があるから私達は生きていける


希望がある限り私達は戦える


いつか人類が自らの足で進んでいける様になるまで


希望


それは人類がいくら変わり続けようとも変わらないものだ


-fin-

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