Iron Heart

狼谷 恋

-Generation of V- 前編

世界は常に変革を求められる


それが例え悲劇であろうと"それ"を止める事は誰にも出来ない


世界は刻一刻と変わり続けどこへ向かっているというのだろうか


歴史はその足跡でしかない


歴史は過去


夢は未来


生きるのは現在


生きていられるのは現在だけだ


過去をいくら悲しんだとしても


未来をいくら描いたとしても


それらは私にとってまるで価値のない事だ


そんな考えに至ったのは私がもう何百年と生きているからだろうか?


この時代に私のように何百年と生きている人間は珍しくない


いや…人間と言っていいのかは疑問だ


200年前


歴史において大きな変革期が訪れた


世界各地へ墜落した隕石


いや,侵略と言った方が正しいだろう


隕石に付着した金属


それもただの金属ではない


まるで生物の様に動き出し,そして人を襲い始めた


金属生命体:Metal


人類は初めて外的生物の侵略を受けた


世界各地でMetalの侵略を防ぐ為の防衛戦が始まった


当初人類は自ら手にした武器,兵器を駆使して侵略を食い止める事に成功していた


…しかしそれも時間の問題だった


新たに判明したMetalの能力


それは金属物質との融合


奴らは人類の手にした兵器と融合を繰り返し,更に強く,数を増やしていった


一度戦局が傾けば呆気ないもので人類は次々に奴らに駆逐されていった


国と呼べるものも次第に数が減っていき,生き残った人類は最後の国家として連合国 Iron Heartを結成


しかし戦局は傾く一方で誰しもが希望を失い最期の日が訪れるのを待っているだけしか出来なかった


そんな時だった


とある科学者の実験がこの地獄と化した状況を一変させた


人類に寄生した金属生命体Metalの残骸を調べた結果,活動停止になったMetalに影響を及ぼされる事なく寄生された人間が意志を持って蘇った


それも奴らへと抵抗する力を持ちながら


毒を以て毒を制する


人類は奴らに抵抗する為に奴ら自身を利用する事を考えた


腕,足,そして心臓までも機械化し,奴らと同化する事で力を得て傾いた戦況を打破してきた


人類にとって最後の抵抗がこの機械化となった


私はそんな時代の生き残りだ


200年経った今でも戦いは終わらない


いつしか人間達はこの状況が日常だと思う様になった


当初戦いに勝利する為に行った機械化の改造は今や民間人も手軽に行え,便利な日常に組み込まれている


私にはそれが耐えられない


私は人類の為にこうして戦う選択を行った


それなのに今はどうだろうか


人類は自ら人の体を捨てている


それは滅びと一緒ではないのだろうか


「……………」


「終わったぞ,おい,起きろV」


「…悪ぃ,少しうつらうつらしてた」


「不便なもんだな,あんた程の戦士なら金は余る程あるんだろ?電脳化したらどうだ?」


「脳味噌まで機械に置き換えるってか?ごめんだね」


「堅物だなあんたも,電脳化って言っても自我が消える訳じゃない,寧ろ電脳化してない奴なんてこの国じゃ片手で数えるくらいじゃないか?」


「私は死ぬまで人間だ,いくら体を機械化しようと脳まで機械に置き換えて生きるのはごめんだね」


「まぁでもあんたも相当古い型だ,そろそろ体の方もガタがきてるんじゃねぇか?」


「古いがポンコツじゃねぇ,動けばいい,それに分かってんだろ?」


「冗談だ,あんたに合う部品なんて見つかりっこねぇだろう,あんたは動力が動力だからな」


長い年月の間に様々な物が生まれた


より軽く,より小さく,より使いやすく


あの頃に比べたら武器なんかがいい例だ


今は高出力のエネルギーを放出した剣や銃


ビーム兵器が主流となっている


それも奴らの技術の応用だが効果は高い


世代は次に移り変わっている


私みたいないつまでも古い型の奴なんか一部の物好きな奴だけだ


新型が出たら買い替えて,また新型が出たら買い替えて…昔の携帯の様だ


便利な時代,と言ってしまえばそこまでだが人類の発展は目まぐるしい


「…で,あいつは直せそうか?」


「何度も言ってるだろ,不可能だ,あんな骨董品は直せねぇ,直したところで今のあんたに合うようにチューニングが俺には出来ねぇ,諦めろ」


「ちっ……」


「だがそう落ち込むな,珍しくあんたに合うもんが見つかったんだ」


「私に合うもの?」


「あぁ,あの時代の事覚えてるだろ?新しい技術を用いて試験的に作られた幾つかのプロトタイプ,その内の一つが手に入った,これならあんたの動力でも動かせる様に俺がチューニングが出来る」


「…で?完成は?」


「そう長くはかからねぇが今は立て込んでてな,それに急ぐ理由もねぇだろ?だって今や…」


『Code:666発令,Code:666発令,担当の者は速やかに対応せよ』


「…またか」


「あぁ…いくらあいつらでも無傷じゃ済まねぇ,そいつらを直してやるのが俺の仕事だ」


Code666


それは戦闘で重大な損傷を受けた隊員がいるという事を意味する


すぐさまラボへと負傷した隊員が運ばれ私は席を譲る


酷いものだ


奴らとの違いは私達は痛みの感覚が残っている事だ


いくら機械だろうが損傷し,腕や足が吹き飛べば苦しむ


しかも本来人間なら死んでもおかしくない致命傷を受けようとも楽には死ねない


「ァガっ……ぐぅぅぅぅ……ァァァァア…」


「こいつぁ…ちっ,電脳回路が焼き切れてやがる…これじゃシャットダウンも出来ねぇ…」


「サポート入ります,戦闘にて負傷,回路が焼き切れている事から相当な無茶をした様です,現時点で有効となるのは…」


「黙ってろ俺一人でやる,配線を外す」


「それでは機能に支障が出る可能性も…」


「やめとけ,こいつに何言っても無駄だ,危なかろうがやる,だが腕は確かだ」


彼もまた私と同じで何百年と生きている


昔っから私を修理してくれたのもこの男だ


荒っぽい,だが腕は確かだ


悲痛な叫びが室内に響く


こんな事を言うのも変かもしれないが私はその悲鳴こそが大切なものだと思っている


数少ない,人間だと思える要素の一つだからだ


そして思う


こんな悲鳴をあげなくても済む様にこの戦いを終わらせられたらどれだけ良いか


永きにわたるこの戦いを終わらせるまでは死ねない


私達の様な存在が不要となるまで


「ふぅー……」


「私にもよこせ」


「なんだよ,電子タバコはやらないんじゃなかったのか?」


「紙タバコがもう製造されなくなったから仕方ねぇだろ」


「これも時代ってやつさ,俺らの時代のもんは次々無くなっていくだろ」


「便利な時代が聞いて呆れる」


修理は無事に終わった


腕は良い


企業がわざわざ自分達の技師を使わずにこの男へ託す理由がよく分かる


「それにしてもあんたは長い間企業にいるがどうなんだ?」


「最後に出撃したのは10年前だったか…最近は出撃する事すらねぇ,いい事だろ」


「それだったら何でいつまでも企業に残ってるんだ?いっそのこと企業を辞める事だって出来るわけだ」


「理由くらい分かんだろ?私にはこれしかねぇ」


「そうだったな,だが生き方は考えた方がいいぜ?あんた自身の為にもな」


「…………」


この数年間企業から私に出撃の命令は下っていない


それは平和だからという理由ではない


こうして負傷する隊員がいるくらいだ


寧ろ戦場は苛烈を極めている


それでも尚私に出撃の命令が下らない


その理由は…


「どーも,直った?」


「これはこれは…ソルジャーズの隊長さん,しっかりと修理は終わりましたよ」


「…………」


ソルジャーズ


企業の持つ最大戦力の部隊


最新鋭の技術の結晶とも呼ばれ戦場で戦う部隊で最も力を持っている


私の様な古い時代からいる型を旧世代と呼ぶなら彼女達は新世代


今やソルジャーズの隊員というだけで称賛を得れる,それ程までに彼女達の実績は多大だ


「すみません隊長……私…」


「ほんと…足を引っ張ってくれちゃって……ね!!」


修理を終えたばかりの隊員をベットごと蹴り飛ばし床へ倒れる


「…………」


「貴女分かってる?私達ソルジャーズに敗北は許されない,それは当然のこと,貴女みたいにこれっぽっちの戦いで損傷する弱い奴なんかいらないんだけど?」


「…ごめんなさい…」


「謝って何になるの?ゴミの分際で責任の取り方すら分からないでしょ?あのまま死んでればよかった」


「おいてめぇ,いい加減にしろよ」


「おいV……」


「あら…誰かと思えば旧世代の…何か?」


「死んでれば良かった?本気で言ってんのかてめぇ」


「えぇ,役に立たない奴はソルジャーズに要らない,それに貴女みたいな旧世代もね,何故貴女が未だに企業に残れているのか疑問だわ」


「命を何だと思ってんだ?それに私に言わせてみればてめぇも同じだ,何も理解してねぇ,こいつは負傷しながらも電脳回路が焼き切れる程戦った,それを評価してやろうとは思わねぇのか?」


「それはあくまで過程,大切なのは結果,ゴミはゴミよ」


「ふざけんな!!!」


「………旧世代が私達新世代に楯突いてどうなるか分かってる?」


「はっ,企業からしてみりゃてめぇもただの駒の一つだ,分かってんだろ?てめぇが死んでも必ず代わりが現れる,だからそうやって必死になって今の立場を維持してぇんだろ?」


「こいつ……」


掴んだ腕が鈍い音を立てる


私自身どれだけの力を込めているかは分からない


だがこの怒りをただ黙ってるだけなんか私には到底無理な話だ


「こいつ…なんなのこの力……!」


『Code:X発令,Code:X発令,ソルジャーズ各員は至急現場へ急行せよ』


「………………」


「……ふん,この事は報告するから,覚悟してなさい旧世代」


出撃の命令が下りあの女はラボをあとにする


あのままあの場に残っていたらどうなっていたか


「おいV…やめとけって言ったろ?あいつらに突っかかるのは」


「うるせぇよ,処罰がどうこうだろうがあいつのした事は許せねぇ」


許せる訳もない


仲間をあんな言い方されたら誰だってああするだろう


「……早速か,悪ぃ,ちょっと行ってくる」


「お前の言う事は分かる,だがこれだけは言っておくぞ,何でもかんでも一人でやろうとすんな,死ぬぞ」


「…あぁ,分かってる」

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