第22話:手のひらの上
魔女の舞踏会を立ち去った皇帝ルインは、
「……」
無言のままどっかりと椅子に座ると、正面に
重々しい空気が漂う中、皇帝の
「――クソ、こんな屈辱を味わったのは初めてだ……っ。人を小馬鹿にした
ホロウの目的は見事に達成されており、皇帝の
「俺が
皇帝は凄まじい怒りを振り
大いに乱心する主人を見て、
(何かおかしいと思えば……やはりさっきの
(まったく、ヒヤヒヤさせてくれんぜ)
(……相談ぐらいしてくれてもいいのに)
(『敵を
そんな折、
「はぁはぁ……おい、ホロウのプロフィールをもう一度読み上げろ」
皇帝から命令が飛び、
「はっ」
「ホロウ・フォン・ハイゼンベルクは、『
ホロウの来歴が共有される中、ルインは自身の
「
平時の冷静な思考を取り戻した皇帝が問い、断剣のロディが一番手に口を開く。
「品のある言葉と落ち着いた
次に
「あの野郎は化物だ、強いなんてモンじゃねぇ。ザラドゥームを倒したときの
続いて
「……本能的にわかった。いや、無理矢理にわからせられた。ホロウは生物的に格が違う。絶対に戦いたくない。なんなら二度と顔も見たくない。あの男はお腹の底から、魂の根っこから腐っている」
最後に黒縁メガネを掛けた細身の男、『
「
四人がそれぞれの意見を述べたところで、皇帝が
「つまり、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクは、帝国の障害となる極めて厄介な存在――これがお前たちの総意だな?」
「はい、仰る通りです」
「まっ、そんな感じだ」
「……アレは危険過ぎる」
「実に適確なまとめかと」
四人はコクリと頷いた。
そしてリーダーのロディが問う。
「皇帝陛下は、どのように見られたのですか?」
「ふむ、そうだな……。圧倒的な武力を持ち、非常に高い知性を誇り、邪悪な野心を秘めた男。これでまだ十五歳というのだから、末恐ろしい男だ。我が覇道の前に立つ、極めて厄介な存在であり、将来の『国難』となるだろう。……いや、既に問題を起こしているやもしれん。こいつには『レバンテの悲劇』を引き起こした疑いがある」
レバンテの悲劇、それは先月の上旬に発生した、
聖暦1015年6月5日、皇帝はホロウを抹殺するため、ウロボロスへ依頼を出し――最高幹部ティアラ・ミネーロが刺客として放たれた。しかし彼女は、任務に失敗。その
帝国の憲兵たちが本件を調査したところ、ハイゼンベルク家による復讐・謎の組織『
「陛下、ホロウは危険な男です。何かしらの対策を早急に講じる必要があるかと」
「いっそのこと、うちに勧誘しちまうのはどうですかぃ?」
「……別になんでもいいけど、アレとまともに構えるのは
「召し抱えるのでもなく、敵対するのでもなく、親しき友として迎える――というのは、いかがでしょう?」
「ギオルグの案は、帝国に抱き込むのはなしだ。あんな猛毒を中に入れては腹を下してしまう。またマーズの言う通り、真っ正面からぶつかり合うのもナンセンスだ。いったいどれだけの被害を受けるかわからん。それからジェノンの策も却下。アイツと
皇帝は適確に判断を下し、最後は吐き捨てるように言った。
「では、いったいどうなさるおつもりで……?」
ロディの問いを受け、ルインは右手を
「……正直なところ、俺も『最善手』を測りかねている。だが、いざというときは、
「奴……まさか!?」
「あぁ、そのまさかだ。『帝国最強の暗殺者』ドラン・バザールを出す!」
ドランは犯罪結社ウロボロスの頭領であり、癖の強い暗殺部門の面々を
「あいつの強さは『異色』、戦うためではなく殺すために磨かれたモノ、『武力』とは無縁の『殺傷力』! あらゆる殺人術に精通した『殺しの
皇帝はホロウの
「ホロウ・フォン・ハイゼンベルクは強い。真っ正面からの戦闘では、天魔十傑の第五天でさえ、羽虫の如く払われてしまう。であればどうするか? 答えは簡単だ! 眼には眼を、歯には歯を! 『王国最強の暗殺者』には、『帝国最強の暗殺者』をぶつければいい!」
皇帝の
「さすがは陛下です!」
「あぁ、見事な案だ!」
「……イイ感じかも?」
「ホロウの<
四人から称賛を受け、
「ふっ、そういうことだ」
皇帝は満足気に頷く。
「では陛下、すぐにドランへ連絡を――」
急ぐロディに対し、ルインは「待った」を掛けた。
「魔女の舞踏会で騒ぎがあった後、すぐにホロウが殺されたとなれば、
皇帝は机の引き出しから、分厚い書類の束を取り出す。
「明日の夜、例の
「「「「はっ!」」」」
この作戦会議は深夜遅くまで続き、
(おっと、また素晴らしい案を
哀れな
全て、極悪貴族の手のひらの上だとも知らずに――。
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