第21話:『最高の結果』と『最悪の結果』
ボクが右腕を引き抜くと、
「ぁ、ぅ……ッ」
胸に風穴を開けたザラドゥームは、ゆっくりと前のめりに倒れ伏す。
(よしよし、
一日も欠かすことなく、地道な
ボクの基礎ステータスはいい具合に仕上がっており、『数値の暴力』で死亡フラグをへし折ることができた。
(さて、皇帝に強い
チラリと横目を流し、ルインの表情を
(ば、馬鹿な……っ。ザラドゥームは『
顔面蒼白になった彼は、驚愕に瞳を震わせ、言葉を失っている。
(ふふっ、
きっと皇帝の
(帝国の大貴族たちとも縁を繋げたし、皇帝とも素晴らしい出会い方ができた……魔女の舞踏会における目的は、全て完璧に達成されたね!)
後はそうそう、『イベント報酬』を手早く回収しなきゃだ。
ボクは回復魔法を使い、ザラドゥームの心臓を半分だけ治してあげる。
「ぅ、うぅ……っ」
暴れられても困るので、生かさず殺さず、生命維持ギリギリのラインで留めた。
続けて<
(――アクア、お願いできる?)
(はい、もちろんですっ!)
元気のいい声が脳内に響くと同時、黒い液体がズプヌプゴプと湧きあがり、ザラドゥームの体を呑み込んでいった。
その異様な光景を前にして、
「「「な……っ」」」
皇帝や大貴族たちが息を呑んだ。
そして
「なっ、なんと
「このどす黒い水は、あんにゃろうの固有か?」
「……いや、違う」
「彼のは
それぞれ驚愕の表情を浮かべている。
(いつもなら、自分でヌポンするところなんだけど……)
今のボクはボイドじゃなくて、ハイゼンベルク公爵として動いている。
虚空を使ったらすぐに正体がバレてしまうので、
(虚空が
ぼんやりそんなことを考えていると、
(んっ?)
漆黒の液体がヌチャりと体に
どうやらアクアが、お掃除してくれたみたいだ。
(ありがとう、気が利くね)
(とんでもございません!(はぁ、はぁ、はぁ……ボイド様の汗、ボイド様の細胞、ボイド様の筋線維……っ))
(それじゃ、ザラドゥームはポイント
(はぃ、承知しましたっ!)
<
(なんか念波に乗って、
最近はイベント続きで、ずっと忙しかったからね。
幻聴の一つや二つ、あって
(とにかく――これでまた一人、新しい家族が増えたぞ!)
ザラドゥームを温かく迎え入れ、死亡フラグをへし折ったボクが、
「お怪我はございませんか、陛下……?」
『本件の首謀者』へ心配そうに声を掛けると、
「あ、あぁ、感謝するよホロウ殿(こいつ……っ。俺がこの一件を仕込んだと知って、全て承知のうえで心配したフリを!? この皇帝ルインに対して、『心配風煽り』とはイイ度胸だ……ッ)」
彼は瞳の奥をギラつかせた後、穏やかな笑みを浮かべ、なんとか平静を維持した。
必死に外面を
「それはそれは、御無事で何よりです」
ボクが柔らかい貴族スマイルを見せると、皇帝は不快気に眉を
「舞踏会の主催者として、申し訳なく思っている。このダリオス宮殿の外周には、多くの憲兵を配置したのだが……。敵の実力は、こちらの想定を遥かに――」
「――お気になさらないでください。たとえどれだけ厳重な警備網を敷いたとしても、『
「そ、その通りだ! さすがはホロウ殿、モノの道理をよくわかっておられる!(
重く長い息を吐いた皇帝は、血だらけの
「ときにホロウ殿、先の
「当家の使用人に引き取らせました。羽虫と
「なる、ほど……(どうせ拷問して背後関係を洗うつもりだろうが、甘いな! ザラドゥームとは既に<
ボクと皇帝がそれぞれの想いが交錯する中、周囲の貴族たちが徐々に再起動を果たす。
(先の
(もはや疑いの余地はない! 来たる王選の『大本命』はホロウ殿だ!)
(くそっ、初動を
彼ら彼女らの瞳には、ドス黒い『欲望』が浮かんでいた。
(ふふっ、イイね! 欲に目の
ボクは邪悪に微笑み、
(この大馬鹿者どもめ……っ。何故ホロウの
皇帝はグッと奥歯を噛み締めた。
(さすがはルイン、素晴らしい頭脳と観察眼だ。この僅かな時間で、ボクの『裏』に気付いている)
彼をフリーにして、妙なことをされても厄介だ。
もう『出会いイベント』は終わったし、速やかに『おかえり』願うとしよう。
「そう言えば陛下、公務はよろしかったのですか?」
「あ、あぁ、そうだったな。後は楽しくやってくれ(なるほど、俺は既に用済みということか……っ。
皇帝はクルリと
それと同時、
「さすがはホロウ殿! 見事な御手前でした!(この武力、なんとしても欲しい!)」
「暴漢に
「いやぁ、まだお若いのに立派なモノだ。ハイゼンベルク家の未来は、
ボクに『巨大な利用価値』を
(これから
(それにしても、本当に上手く行ったなぁ……!)
魔女の舞踏会へ臨むにあたって、いろいろな『ルート
(ありがとう、皇帝陛下!)
キミのおかげで、ボクの武力を自然に見せ付けることができた。
(後はそうそう、ザラドゥームにも感謝しなきゃだね!)
キミは『踏み台』として、本当に素晴らしい活躍をしてくれた。
こうして魔女の舞踏会は、
(くくっ、この勢いに乗って、帝国の支配を一気に進めようか!)
ボクにとって『最高の結果』に、
(……マズい、マズいぞ。ホロウのことを
皇帝にとって『最悪の結果』に終わるのだった。
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