第7話:帝国の半分+【祝】連載0.5周年(ハーフアニバーサリー)!

【祝】ハーフアニバーサリー!

実は今日のこの更新で、ホロウの物語は0.5周年記念――所謂いわゆる『ハーフアニバーサリー』を迎えます!

連載開始から早6か月、本作の文字数はついに『60万』を突破(市販のライトノベル6冊分……!)

この短い期間にたくさん書いたなぁ、としみじみ思います。

書き溜め=ストックもなくなり、かなり疲労も溜まっているのですが……。

なんとか必死に書き続けて、今後も更新を頑張りたいなと思っております!

読者の皆様におかれましては、今後とも引き続き、応援してもらえると嬉しいです!

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 午後となり、制服に着替えたボク・ニア・エリザ・アレンは、オーガストの中心街へ繰り出した。

 ホテルの受付嬢から、「今日は『感謝祭』が開かれている」と聞き、ちょっと覗いてみることになったのだ。


(うんうん、街並みも構造も、原作と一緒だね)


 オーガストの中心街は、煉瓦れんがの建物が並ぶ商業エリア。

 感謝祭の間は通りの両端に出店が開かれ、人の往来もかなり活発になっている。


「へぇ、これが帝国のお祭りかぁ」


 ニアは興味深そうに目を動かし、


「ふむ、中々ににぎわっているな」


 エリザは感心した様子で頷き、


「みんな楽しそうで、幸せな気分になるね」


 アレンは相変わらず純粋な奴だった。


(出店の売りモノは、けっこう特徴的だな)


 ステーキ肉・エール・果実パイなど、洋風テイストが強い。

 王国は和風文化が濃いので、ちょっと新鮮な感じがした。


「さて、適当に回るか」


「賛成!」


「あぁ、そうしよう」


「ふふっ、楽しみだなぁ!」


 ボクたちは人の流れに沿って歩き、パッと目に付いた射的の店に立ち寄る。

 ルールは簡単。

 魔力で作った小さな弾丸を発射し、前方の陳列棚にある景品を撃ち落とす、というとてもシンプルなモノだ。

 100ゴルドで5回もチャレンジできるのは、お財布に優しい料金設定だね。


「ちょっとしたミニゲームだな」


 ボクは1000ゴルド払い、50回の挑戦権を購入。

 50発の弾丸を生み出し、陳列棚の景品を一気に全て撃ち落とした。


「ほんと精密な魔力操作ね」


「相変わらず、無茶苦茶だな」


「す、凄い……っ」


 ニア・エリザ・アレンが賞賛の言葉を述べる中、


「……そん、な……」


 店主は驚愕に目を見開き、静かにその場で崩れ落ちた。


 少し可哀想だったので、景品を返してあげると、


「あ、ありがとうございます……っ」 


 めちゃくちゃ感謝されたうえ、3000ゴルドの金券をもらった。

 感謝祭でも使えるみたいだし、ちょっと得しちゃったね。


 それからほどなくして、ニアが動きを見せる。


「すみません、『魔女の果実パイ』三個いただけますか?」


「あいよ!」


「えーっと、牛串ぎゅうくしを五本お願いします!」


「まいどあり!」


「あっ、揚げドーナツください! とりあえず七個で!」


「おぅ、ちょっと待ちな!」


 彼女は出店の食べ物を片っ端から買い漁り、なんの苦もなくペロリと平らげていった。


「……さすがに食べ過ぎじゃないか?」


 ボクが心配して声を掛けると、ニアは首を横へ振った。


「平気平気、特に今日なんていっぱい遊んだもん」


「油断していると太るぞ」


「だ、大丈夫……なはず……っ」


 青い顔のニアは「これあげる」と言って、牛串をこちらへ渡してきた。


(一本減らしたところで、変わるとは思えないけど……ありがたく頂戴しておこう)


 二人でそんなやり取りを交わしていると、


「ほぅ、珍しい剣だな」


 エリザが古物商こぶつしょうの出店に食い付いた。


「お嬢さん、お目が高いね。これは龍崩刀りゅうほうとうと言ってのぅ。霊国れいこくの有名な刀鍛冶かたなかじが――」


 店主らしき髭面ひげづら老爺ろうやが、つらつらと説明を始めるが……そこに『強烈な違和感』を覚えた。


(おかしいな、龍崩刀はもっと後のイベントで手に入るはず……)


 不審に思ったボクが、ブツを遠目に確認すると……予想通りだった。


「なんだ、贋作がんさくか」


「な、何を言うか貴様っ! 証拠もなしに偽物呼ばわりとは、営業妨害で訴えるぞ馬鹿者めッ!」


 この過剰な反応が、もう答えなんだけど……まぁいいや。


「よく出来ているが……。つば色味いろみが微妙に違う。これは発色が良過ぎる。現物はもっとくすんでいるぞ?」


「ば、馬鹿言え! こんな暗い場所で、正確な色味なぞわかるか!(このガキ、素人じゃないな!?)」


「なるほど。しかし、つかもおかしいな。本物は唐草模様からくさもようだが、これはただの蔦模様つたもようだ」


「ぅ、ぐ……っ(くそ、よく知っておる……ッ)」


 言葉に詰まった店主は、ドスを利かせた低い声を発する。


「おい小僧、儂のバックはあの・・『ウロボロス』じゃ。ふざけた真似をしておると痛い目に遭うぞ?」


「ふふっ、それは・・・楽しみだ・・・・


「た、楽しみぃ……?(こいつ、気が狂っておるの……あ゛っ!?)」


 突然、老爺の顔がピシりと固まった。


「その顔……新聞で見たことがある。もしやお主、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクか?」


「あぁ、それがどうした」


四災獣しさいじゅう天喰そらぐいを討った、極悪貴族の新当主……?」


「よく知っているじゃないか」


「し、ししし……失礼しましたぁ……っ」


 店主は贋作の剣を置いたまま、脱兎だっとの如く駆け出した。

 うーん、『The小物』だね


「感謝するぞホロウ、危うく騙されるところだった」


「気にするな」


 またしばらくして、とあるくじ屋で、


「――おめでとうございます! 特賞の大当たりが出ましたー!」


「うわぁ、ありがとうございます」


 アレンは簡単に特賞を、『魔女のワイン』を引き当てた。

 さすがは主人公、世界の寵愛ちょうあいを一身に受けた存在だ。

幸運値ステータス』を超越した、『神の祝福』的なモノを感じるね。


 そんな風に感謝祭を楽しんでいると――ニアが素朴な疑問を口にする。


「さっきから、『魔女』をあしらったモノが多くない?」


「あぁ、私もちょうど同じことを考えていたところだ」


「『魔女パイ』・『魔女アメ』・『魔女ワイン』、この地域の伝統なのかな?」


 アレンがコテンと小首を傾げる。


 どうやらこの三人は、帝国の歴史を知らないらしい。

 雑談の一つとして、解説することにした。


「このアルヴァラ帝国は、『魔女』が作った国だからな」


「魔女って……歴史書に出てくる、『七欲しちよくの魔女』?」


 ニアの問いに対し、コクリと頷いてこたえる。


「あぁ、そうだ。遥か原初の時代、厄災ゼノが滅びた後、『色欲の魔女』は歓喜の涙を流し――その聖なる雫は、千のいかづちとなって、荒野に降り注いだ。聖なる雷撃らいげきはやがて命を芽吹き、黄金の時計塔が聖なる福音ふくいんさずけ、帝国のいしずえが築かれたそうだ」


「どうして千の雷で命が芽吹くの?」


 ニアは頭上に「?」を浮かべ、


「黄金の時計塔は、いったいどこから?」


 エリザはコテンと小首を傾げ、


「なんだか、ロマンチックなお話だね」


 アレンは純粋な感想を述べた。 


「話半分で聞いておけ。古今東西、神話というのは無茶をはらむモノだからな」


 ボクはそう言いつつ、話をまとめに掛かる。


「この奇妙な言い伝えが、千年前から現代まで伝わった結果、色欲の魔女は信仰の対象となっている。今日の感謝祭は、帝国の建国を祝い、魔女に祈りを捧げる祭り。畢竟ひっきょう、魔女関連のモノが多くなるというわけだ」


「なるほど……ほんとなんでも知ってるわね」


「まさに文武両道、実に見事なモノだ」


「さすがはハイゼンベルク家の当主様だね!」


「ふん、世辞せじなどいらん」


 自分のキャラを守るため、そっけない返答をしつつ、思考の海にひたる。


(この色欲の魔女が、めちゃくちゃ強いんだよねぇ……)


 何を隠そう彼女こそが、第五章の大ボスであり、『負けイベントの敵』として設定デザインされた超常の存在だ。


(メインルートの最終盤ラストでは、勇者因子に興味を示した色欲の魔女が、主人公を『味見あじみ』しにくるんだよな)


 彼女は理不尽な固有を使い、アレンを蹂躙じゅうりんした後、「あなたはもっと強くなれるわ」と言って消え去る。

 そこで第五章は終了、第六章へ移るのだ。


(なんの工夫もなくストーリーを進めると、色欲の魔女はアレンと戦い、予定調和のエンディングを迎える……)


 その場合、主人公に大量の経験値が入るうえ、大ボスを取り逃がすことになってしまう。


(これを防ぐには、彼女と戦うには――アレンよりも、ボクに興味を持たせなくちゃいけない!)


 そのためには、とにかく目立つ必要がある。

 主人公の勇者因子がかすむほどの『大暴れ』が必要だ。


(第一章から第四章まで、ずっと裏で暗躍してきたから、とても『新鮮な気分』だね!)


 そうしてボクが三秒ほど考え込んでいると、ドンッという腹の底に響く音が鳴った。


『魔法の花火』が次々にはじけ、火の魔力・水の魔力・雷の魔力、色とりどりの光が夜空をいろどる。


「ほぅ、見事なものだな」


 ボクが感嘆の声を零すと、


「うわぁ、綺麗……っ」


「ふふっ、みやびじゃないか」


「ボク、花火を見たの初めてかも……!」


 ニア・エリザ・アレンも、思い思いの感想を口にした。


(夏祭りの夜、友達と一緒に見る花火は――まぁ、悪いモノじゃないね)


 その後、集合時間の10分前にホテルへ戻り、正面玄関の横スペースでしばし待

機。


「……29・30・31。よし、みんなちゃんと揃っていますね」


 全生徒の帰りを確認したフィオナさんが、今後の予定を説明する。


「これから一時間は休憩。19時にメインホールで夕食を取った後、21時までに入浴を済ませ、24時にそれぞれの部屋で就寝。先生は晩酌ばんしゃくたのし――ゴホン、明日の準備があるので、見回りには行けません。レドリックの生徒にふさわしい規律と自尊心を持って、きちんとルールを守ってください。以上、解散!」


 自室に戻ったボクは、どっかりと椅子に腰掛け、グーッと体を伸ばす。


「ふぅ……楽しかったな」


 こういうのを『青春』って言うのだろうか?

『死亡フラグ』に満ちた毎日の中で、ほんのちょっとだけ息抜きができた。


(でも、第五章の『日常パート』は、ゆっくりできる時間は――もう終わりだ)


 この後は『表』と『裏』で大忙し。

 今回も『最高のエンディング』を迎えられるように頑張らなきゃね!


 ボクは早速、引率いんそつの馬カスへ<交信コール>を飛ばす。


(――フィオナ)


(はい、なんでしょう)


(俺は今から『仕事』に出る。不在の間は、適当に誤魔化しておけ)


(はっ、承知しました)


 晩御飯や休憩時間など、何かの拍子でボクがいないとわかったら、ニアたちが騒ぎ出すかもしれない。

 でも、こうして馬カスに言い含めておけば、上手くさばいてくれるだろう。

 彼女の人間性は終わっているけど、知力だけは素晴らしいからね。


「さて、と……」


 黒い渦に右手を突っ込み、いつもの衣装を回収。

 漆黒のローブと仮面をまとって、うつろの統治者ボイドとなった。


(さて、ここから先は楽しい楽しい侵略の時間だ!)


 まずは『帝国の半分』を、『邪悪な裏側』を――犯罪結社ウロボロスを支配するとしよう!

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