第11話:キラッキラ
劇的な再会を果たした天才魔法研究者二人――。
「ほ、本物だ……本物の先輩だぁ!」
セレスさんは小さな子どものように抱き着き、
「うんうん、よしよし、本物の先輩だよー」
借金馬女は
フィオナさんは『高等課程』を終えて、15歳で魔法省へ入局。
一方のセレスさんは『魔法大学院』を卒業後、24歳で入った。
年の差はあるけれど、馬カスの方が一年先輩なのだ。
(二人が同僚だったのは知っているけど、まさかこんなに仲良しだとは……)
おそらく過去に、フィオナさんとセレスさんの間で、なんらかの『友情イベント』が発生したのだろう。
(面白いエピソードがありそうだし、今度それとなく聞いてみようかな)
とにもかくにも、相性がよさそうで何よりだ。
職場の人間関係って、とても大切だしね。
ボクがそんなことを考えている間、二人は旧交を温め合う。
「久しぶり、元気してた?」
「もう、それはこっちの台詞です! 何の連絡もなく、急に魔法省を辞めちゃうから、とっても心配したんですよ? いったい何があったんですか?」
「ふっ、大人の女性には、『いろいろな事情』があるんだよ……」
「さ、さすがは先輩、相変わらず『ミステリアス』ですね!」
魔法省に5000万の横領がバレて、闇金に借りた金を馬で溶かし、吊るされる一歩手前だった。
それを『いろいろな事情』で片付けるなんて……モノは言いようだね。
「そういうセレスちゃんこそ、どうしてハイゼンベルク家に……はっ!? もしかしてあなたも、闇金に手を出して……」
「闇金? なんのことです?」
「うぅん、こっちの話」
自分とは全く別の理由だと悟り、瞬時に切り替えた。
(知力だけは高いから、無駄に要領がいいね……)
ボクが呆れ返っていると、セレスさんがチラリとこちらへ視線を向けてきた。
自分の事情を明かしてもよいか、許可を求めているっぽい。
「フィオナは、俺がボイドだと知る数少ない人間だ。好きに話すといい」
「あっ、そうだったんですね」
セレスさんは驚きと喜びの混ざった表情を浮かべた。
仲よしの先輩が似たような境遇にあると知り、いくらか緊張が
もしかしたら、今後も自由にお喋りできることが嬉しかったのかもしれない。
セレスさんはコホンと咳払いをして、自分がハイゼンベルク家にいる理由を語る。
「実は私……ホロウ様に保護していただいたんです」
「保護?」
「はい。魔法省は信用できません、あそこはもう『真っ黒』です」
彼女は真剣な表情で語り始めた。
「魔法省ではここ十年の間に、たくさんの『不祥事』がありました。
「い、いや、
まぁフィオナさんを別にしても、魔法省は腐っているんだけどね。
「私の働く第三魔法研究室は、大魔教団の下部組織となっていたんです。そうとも知らずに騙された私は、『原初の回復因子』だと渡されたモノを精錬し、高純度の『魔王の血』を作りあげ……奴等に狙われるようになりました」
「原初の回復因子を見つけて、『万能薬』を発明するのが、セレスちゃんの夢なのに……それを利用するなんて酷い奴等だね」
借金馬女はそう言って、後輩の気持ちを
まだ人の心が残っていたとは驚きだ。
「いろいろと大変だったみたいだけど、ホロウ様に目を掛けてもらえたなら、もう大丈夫! この人は大魔教団なんかよりも、遥かに強くて悪いから、向こうも手出しできないよ!」
「強くて……悪い……?」
「そっ、あの『厄災』ゼノと同じ<虚空>を使いこなす化物でね。そのうえ固有魔法に
「――『無期限・無利子の借金』というのは、
「いい、セレスちゃん? ホロウ様は『神』なの。この御方ほど慈愛に満ちた人はいない。いつもどんなときも、感謝を忘れないようにね?」
馬カスはそう言って、『超高速手のひら返し』を見せた。
「はぁ、まったく……」
ボクがやれやれとため息を零すと、
「ふふっ、お二人は仲がよろしいんですね」
セレスさんはクスリと微笑んだ。
(まぁ……なんだかんだで、それなりに長い付き合いだからね)
彼女との腐れ縁も既に4年目へ突入、それなりに知った間柄になっている。
いい具合に場の空気も温まったし、そろそろ仕事の話へ入ろうかな。
「――さて、この研究所は今後、フィオナとセレスで回してもらう」
「はい」
「かしこまりました」
二人はコクリと頷く。
「ひとまずフィオナは、今手掛けている
「了解です」
「それからセレスは、虚空界で『魔力の精錬』に当たってもらう」
「……虚空界……?」
セレスさんが小首を傾げると同時、フィオナさんが異議申し立てを行った。
「ちょっ、ズルいですよ、ホロウ様っ! なんでセレスちゃんは、いきなり虚空界なんですか!? 私だって、まだ一度も入ったことがないのにッ!」
「あ゛ー……悪いな、こっちにもいろいろと事情があるんだ」
現在、ボクが保有する研究職は、フィオナさん・ゾーヴァ・セレスさんの三人。
ケルビー
フィオナさんとゾーヴァには引き続き、それぞれ表と裏の世界で研究を進めてもらう。
そして今回、新たに手駒となったセレスさんには、表と裏を行き来してもらうつもりだ。
『黒い研究』はフィオナさんとゾーヴァ、お金さえ手に入ればなんでもいい借金馬女と魔法の深淵を覗ければなんでもいい
一方のセレスさんは英雄の血を引いており、『強い正義の心』があるため、『白い研究』だけを手掛けてもらう。
そうして担当分野を分けた方が、効率的だと思ったんだけど……。
「ズルいズルいズルい! セレスちゃんだけズルいです! 私も連れて行ってください! こーくーうーかーいーっ!」
思わぬところで、トラブルが発生した。
(フィオナさんは昔から、ずっと虚空界へ来たがっているけど……。彼女をボイドタウンへ招いたら、表の研究職がゼロになっちゃうんだよなぁ……)
だからこれまで、適当な理由を付けて
「フィオナ、お前は虚空界に幻想を抱いている。あそこはとても危険な場所だ。何せ住人は全員、凶悪な犯罪者だからな」
「私だって犯罪者ですよ!」
「……だな」
なんて説得力だ。
(彼女は業務上
どこに出しても恥ずかしくない立派な『A級犯罪者』だ。
(新入りのセレスさんは連れて行くのに、フィオナさんだけお留守番ってのは……さすがに可哀想だよね)
面倒だけど、仕方ない。
「はぁ……ちょっとだけだぞ?」
「ぃやった! ありがとうございます!」
フィオナさんはそう言って、満面の笑みを浮かべた。
(……こうしていると普通に可愛いんだよなぁ……)
愛嬌のある綺麗な顔、バランスのよいプロポーション、基本スペックは最高クラスのヒロインなんだけど……やっぱり『中身』がね。
『残念美人』とは、彼女のためにあるような言葉だ。
「では、行こうか」
「夢にまで見た虚空界……ふふふっ、楽しみだなぁ!」
「虚空界、いったいどんなところなのでしょう……」
<虚空渡り>を使い、三人揃ってボイドタウンへ飛ぶ。
「うわぁ、これが厄災ゼノの聖域『虚空界』! 凄い凄い凄いっ! 希少な虚空因子が、あっちにも、こっちにもッ!」
フィオナさんは子どものようにはしゃぎ、
「す、凄い、こんなに大きな街が……っ」
セレスさんは驚愕に息を呑み、せわしなく周囲を見回した。
(ふふっ、素晴らしいリアクションだね!)
街の開発者として、実に気分がいいよ。
(このままボイドタウンの名所を案内して、いろいろ自慢したいところなんだけど……。それはまた別の機会に取っておこう)
今はまだ、やるべきことがたくさんあるからね。
「確かこの辺りに魔力反応が……っと、あそこか」
目の前のそば屋から、『
ちょうどお昼ごはんを取り終えたところっぽいね。
「――久しいな、元気にしていたか?」
「おぉ、これはこれはボイド様、おかげさまでなんとかやっております」
深々と頭を下げた彼が、穏やかな笑みを浮かべると、
「あれ、このお爺さん……(凄い目がキラッキラしてる……)」
フィオナさんは小首を傾げ、
「もしかして、ゾーヴァ様……!?(凄く目がキラッキラしていらっしゃる……)」
セレスさんはハッと息を呑み、
「おや、そちらのお嬢様方は……フィオナ
ゾーヴァは驚きながら、立派な白い髭を揉む。
やっぱり研究職同士、お互いのことは知っているようだ。
(それにしても、ロンゾルキアを代表する天才魔法研究者が、三人も揃い踏みだなんて……)
これは中々に『面白いイベント』が起きそうだね!
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