8.間章
私は、マルタン子爵家に生まれた唯一の女の子だった
上が男3人だったので、両親、兄妹、どちらの愛もたくさんに受けて育った
…私の成長が止まっていると気づくあの日までは
「ティは同い年の子に比べて小柄で可愛らしいな」
5歳の時、成長の遅い私に1番上の兄は優しくしてくれた
「ティ、流石に小さすぎないか?もっと食べろ!」
8歳の時、周りの子より小さい私に2番目の兄は優しくおやつを分けてくれた
「ティ?どうしてそんなにツノも、羽も、尻尾も小さいの?」
10歳の時、母が私の体を見ながら悲しそうな顔で質問してきた
「…テイラット、あまり話しかけてくるな」
12歳の時、1番歳の近かった3番目の兄が私との会話を拒絶した
「テイラット、お前はもう二度とマルタンの名を名乗るな」
15歳の時、学園の寮へ向かう私に父はそう言った
どんどん、家族との交流が減っていくのが分かった
私への感情が日に日に失望へと変わっていくのを肌で感じた
どれだけ食事を増やしても、どれだけ鍛えても、私の尻尾は短いままだった
クラス分け、もちろん私は黒組だった
学園でのクラスを表す黒色のチョーカー
学園に入っている限り外れないそうだ
人とすれ違うたび、首元を見られる
それでも、クラスメイトと協力しながら今日も強くなろうと頑張っている
けど、その日は違った
いつもと特別変わらない日だったが、彼女が来たことで空気が変わった
学園で何度か聞いた事のある名前
校内ですれ違ったら、もう一度見てしまうような美しい容姿
その人が、作り笑いでこちらを見てきた
キキョウの様な表情なのに、目が笑っていない
まるでこちらを観察するかのような中身のない笑顔
その笑顔を一瞬で止め、真顔になる
その変わり身の速さのせいか、会話に引き込まれる
その後は、トントン拍子で話が進み私が緑属性に適性があることが分かった
一度に情報が入りすぎて困ったが、ハルさんに簡単に説明してもらったおかげで
理解できた
彼女が帰ったあとショーさんに聞いたが、彼女は作り笑いをしない事で『感情が死んでいる。』と学園で噂されるほど表情が変わらないらしい
その彼女が作り笑いをしたり、実験を楽しそうに行なっていたのを見て考え直す
私たちを騙すための嘘か、本当に私たちに勉強を教えてくれるのか
この2つを天秤に掛け、私は信じることにした
「また明日」
と言った彼女の言葉を私は信じたい
「ティさんはどう思う?」
寮への帰り道、ショーさんに聞かれた
「…私は、信じてもいいって思います」
「その心は?」
茶化してくるが、彼女も同じように思っていたのだろう
信じたくて、でも怖くて、だから似た共通点を持つ私に聞いたのだろう
「ノアさんが、冗談を言っているとは思えなかったんだよね。だから私はノアさんを信じてみるよ。ショーさんも、信じたいんでしょ?」
そう聞くと、蚊が鳴くような声でうんと言った
「…ん!今度は、裏切られないといいね」
不安そうなショーさんの手を握ると、握り返される
「ティさん。フラグは立てないでよー!」
笑いながらショーさんは寮へと早歩きする
聞こえてくるのは元気そうな声、どうやら不安は拭えたようだ
先に行っているショーさんに手を引かれ、私も早歩きする
「あぁ。こんな日常が続けばいいのに」
友人と喋り、相談し合う
憧れている普通の学生生活
黒組…底辺だということを忘れる事のできる日常
そんな毎日を私は望んでいる
「何か言いました?」
小声で言ったせいで、ショーさんには聞こえてないようだ
「なんでもないですよ!早く帰りましょう」
誤魔化すように足を早める
明日がいい日になりますよう
その日は心の中でそう思いながら眠った
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