TSバンドボーイはモテロックを奏で続ける

Shutin

第1話 Boy wants meet Girl

 バンドをやったらモテる。


 インターネットで聞いたような、大晦日にたまに会う親戚から言われたような、それこそどこかのバンドの歌詞に入ってるようなこの一文に、俺は中学時代の全てを捧げた。


 全ては今現在、人生で一度きりの高校生活を充実させるために。


 


 ギターの練習は毎日最低四時間。


 小学生という人生の安寧期・・・そう懐かしき、思い出深く、もう二度と戻らないあの安寧期。俺にとっての黄金期だったあの頃から、現実というものをちょくちょく直面しないといけなくなった中学時代。そんな多忙な現代社会焦燥少年にとって日に四時間の練習は過酷なものだった。もちろん、世の中には俺よりも年下で俺よりも音楽の才能があって、俺よりも練習をしている奴だっているだろう。


 でもそんな才能とか情熱とかは気にせずに、俺は練習をした。


 


 ラブもエロもエモも、高校で待っている『青春』という教科で赤点を取らないために履修した。授業の間も、家に帰ってからも、その時に最もホットでロックでゴッドなバンドの曲を聞いて、音楽的感性を完成させた。妄想内歓声をかき鳴らしてモチベを上げながら。


 バンドマンになってモテたいっていう、このエゴのために。


 恋をしたい。

 モテてみたい。

 愛を知りたい。

 チューをしたい。

 ×××××してみたい

 手を繋ぎたい。

 身体を繋ぎたい。

 心を熱くしたい。

 青い春に絆されたい。

 赤い秋に結ばれたい。


 そのために俺達は、スポーツでも勉学でもルックスでも話術でも運命の魔法とやらでもなく、バンドを選んだ。


 なぜなら「バンドをやったらモテる」から。


 俺の名前は永井ナガイ美空ハルタカ

 東星高校 軽音部『TonsSight Boysタンサイボーイズ』のギターボーカル。


 高校一年生。軽音部。

 少し女の子っぽい名前がコンプレックスな、ただのちょっとイケてる感じのサブカル系男子高校生だ。


 紅になりかけの葉っぱがヒラヒラと舞い落ちる中庭の中心で、恥ずかしげもなく愛を歌う俺には、不思議かな、彼女がいない・・・まだ。


 俺はバンドを続ける。

 モテるために。


 そう、モテるために全力を費やすどこにでもいるなのだ。

 ただの、ちょっとイケてる感じの、恋に盲目的な全力だ。

 高校生なのだ・・・・

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