褒めていただけなのに世界も彼も手に入ってしまいそうです
@yyunsuke
安らぐ香と暖かさ
「許(しゅー)、眠れない」
色白で痩せ細り、年の割には身長もない男の子が入ってくる。
「凱(かい)太子。夜に女人の部屋に入るのは駄目と言われたでしょ」
唇はへの字に曲がっているが、黄水晶の瞳は全く怒ってる様子はなかった。
「一人で寝るのは嫌なんだ」
言い終わる前には、許の布団に潜りこむ。
「五歳にもなって一人で寝むれないなんて凱太子は、赤ん坊ですわ」
「なら、許の赤ん坊になる」
凱太子の満面の笑みに、許は胸が高鳴る。
まだこの頃は、この胸の高鳴りが何かは、許には分からなかった。
「好き嫌いが多い、赤ん坊は嫌です」
照れた顔を見られまいと、許は顔を背ける。
そして、凱太子の身体から薬湯の香りがすると思った。
今日も、あの痛くて匂いのきつい薬湯に頑張って入ったのだと思うと、許は心を痛めた。
凱太子は、赤ん坊じゃない。
とても強くて、聡明な子。
央国に生まれなければもっと、幸せに暮らせたのかも知れない。
少し憂い顔の許に気付いたのか、凱太子は許の袖を引っ張る。
「許の部屋はいい匂いがするな」
「新作の香を炊いておりますの。気に入ったなら明日、凱太子のお部屋にも届けますわ」
憂い顔は無くなり、今度は許が満面の笑顔で自信満々に言う。
「楽しみにしてる。許は昔から、何かを作るのが得意だな…」
そして、許の腕に自分の腕を絡ませ、少しでも隙間があるのが嫌という感じで引っ付く。
「そんなに引っ付かれると、寝にくいですわ」
許より細い、凱太子の腕を引き剥がすではなく優しく撫でた。
「許は暖かいから」
凱太子が冷た過ぎるだと思いながらも、口には出さない。
「それは、好き嫌いせずしっかりご飯を食べて…」
もう隣で寝息が聞こえてきた。
「凱太子。病に負けないでね。私がなんとかするまで」
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