第25話 私以外の女性と夜を共に過ごしましたか?
私以外の女性と夜を共に過ごしましたか?
「私以外の女性と夜を共に過ごしましたか?」
グユウがゼンシとの打ち合わせに行ってから、ずっと胸に抱えていた疑問をシリはぶつけた。
シリの問いにグユウは目を見開いていた。
驚いているらしい。
グユウが何も答えないので追い討ちをかけるようにシリは質問をする。
「兄上はグユウさんの部屋に女の人を呼んだはずです」
ここまで話してシリは唾をのみこむ。
「グユウさん、その方と一緒に夜を共に過ごしましたか?」
シリから見てグユウは動揺していた。
「その…部屋には来た」
(やっぱり。グユウさんは喜んで接待を受けたのだろうか)
指先がすぅっと冷たくなる。
頬が赤くなり泣きそうになった。
シリは慌てて下をむいて
「そうですか。きれいな人だったでしょうね」
「酒を勧められた」
シリは黙って聞いている。
以前、グユウはシリに嘘をつかないと話してくれた。
正直に話すのだろう。
「翌朝、鍛錬があると断って帰らした」
「何もしなかったのですか?」
驚いたシリは顔を上げる。
「あぁ」
「どうして・・・」
シリが答えると、グユウは黙ってシリを見つめた。
思えば愛情表現はいつもシリからだった。
初めてグユウと結ばれた時も、シリの方から口づけをした。
想いを告げるのも。
手を握るのも。
全てシリからだった。
グユウに「こうしてほしい」とお願いすれば、
優しい目をして応えてくれる。
「私のこと好きですか?」と問えば「あぁ」と答えてくれる。
ハッキリと気持ちを伝えてくれたのはチク島の時だけ。
グユウは自ら進んで行動してくれたことは一度もなかった。
グユウの思いは言葉ではなく瞳で訴えることが多かった。
けれど、今夜のシリはグユウの言葉が聞きたかった。
「どうしましたか・・・?」
「シリ・・・」
「なんですか」
グユウが何をしたいか。何を求めているのか。
シリはわかっていた。
(それは私も望んでいること)
青い瞳が潤む。
顔が赤くなるけれどシリは何も言わずにグユウを見つめる。
グユウは何か言いたげだった。
いつものシリならグユウの気持ちを察して、先回りをして行動をしていた。
(今夜はグユウさんの口から気持ちを聞きたい)
不安や嫉妬心を抱えて6日間過ごしていた。
ありもしないことを想像して気持ちが揺れて塞ぐ。
こんな気持ちは初めてだった。
愛されていると自覚はあるけれど、その言葉を耳にしたい。
何も言わず、グユウを見つめ続ける。
グユウはシリの顔を見つめ唇を強く噛んだあと、小さく息を吐いた。
「シリ・・・逢いたかった…その…抱いてもいいか」
控えめに掠れた声でそっと囁いた。
痛いほどの緊張がひしひしと伝わってきた。
口下手なグユウが熱烈に言葉にしてくれた、ら
誠実な気持ちに心を砕かれ、胸に迫る。
「グユウさん 寂しかったです」
シリは両手を伸ばした。
「シリより・・・美しい女性は・・・いない」
耳にする言葉は、他の人から何度も言われたことがある。
けれど、端正な顔をしたグユウが一生懸命、言葉を紡ぐ姿は胸に迫った。
「シリ」
名前を呼ばれるたびに砂糖のように胸の中が甘くなり、身体に熱が灯る。
いつも、何を考えているのかわからない。
無表情のグユウが辛そうな顔をしている。
(グユウさんのこんな顔を見れるのは私だけ。そして、私も・・・)
シリはグユウをギュッと抱きしめた。
翌朝、晴れわたった真珠のような暁がおとずれ素晴らしい1日が始まった。
窓の外ではグユウが鍛錬をしている。
今日は暑くなりそうだ。
城のあちこちには涼しい木陰があり、黄金色の光がゆらゆらと揺れていた。
幸福に胸をときめかせたシリは窓の外をうっとりと眺めていた。
グユウ宛に一通の手紙が届いた。
宛名はゼンシからだった。
手紙を読んだ後に淡々と伝えた。
「ゼンシ様が2〜3日中にレーク城に訪問するそうだ」
それは、静かなレーク城に一大センセーションを巻き起こした。
家臣、侍女、女中たちは失礼のないように準備に追われていた。
レーク城は、元々片付けられていたが、
あのゼンシの訪問を受けるのにチリ一つでも落ちていたら失礼になると思っているようだった。
女中達は厨房の戸棚まで掃除をした。
ゼンシがその中を見る機会などあるはずないのに。
グユウと家臣たちは会議を重ねていた。
周囲の喧騒の中、シリはただ1人冷静だった。
(兄上が来る・・・)
憂鬱な気持ちになり物思いに沈んでいた。
エマが近づいてきた。
唇をギュッと噛み締めて真剣な眼差しをしている。
どうしたのだろうか。
意を決したようにエマは口を開いた。
「シリ様。ご結婚以来、月のものがありません」
そう告げたのだ。
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