第72話「水着取りの猿」

 なんでも、この温泉街には『水着取りの猿』と言う野生の猿が住み着いてるらしいです。


 地元の猟師達と連携して駆除に対応してますが、その猿は銃弾を回避するわ、トラップすら回避するなど、猟師達を悩ませています。


 その猿の目的が謎なのですが、特に女性客の水着ばかり狙うらしく、水着を奪って吟味した後に水着をポイ捨てすると言う。


 幸い、傷害事件にまでは発展してませんが、この猿のせいで女性客が減ってしまったと温泉の経営者が嘆いていまして。


 ここの温泉街の経営者とアルセーヌのファントム様は古い知人関係で、ファントム様は友人が困ってるから猿を退治してくれないかと、ワタクシがおとりになって猿を倒す事になったのです。


♡♤♧♢


「そうか、頑張れよ」


 僕はシロルを無視して露天風呂に戻ろうとしたら、シロルに呼び止められた。


「えぇ!? 星音様は手伝ってくれないのですか!?」


「いやぁ、僕達には無関係だし、てかそろそろ様付けやめて良いよ? 僕達は同い年だし」


「……じゃあ、ほ、星音くん……っっっっっ!」


 なーにを顔を真っ赤にしてんだ、このイルカは。


「冷静に考えたら、星音くんの家族達も狙われますよ? 良いのですか?」


「たかが変態の野生猿だろ? ウチにはイエネコの四人と元赤龍の戦闘員だったパンダが居るし、この人員で一匹の猿に遅れを取るとは思えないし」


 とか考えていたら、露天風呂の方が騒がしくなっていた。


 僕とシロルが露天風呂に戻ると、パンダがタオルを胸に巻いていた。


「どうしたのパンダ?」


「お、星音! さっき露天風呂に来たお猿さんと一緒に柿を食べてたら水着を取られたぞ!」


 えぇ?


 僕が驚いていると、キジトラとラグドールが必死にパンダの胸を隠そうとしていた。


「パンダちゃん! 男性の人も居るのですから、胸を隠してください!」


 僕が目線を月音姉さんの方に向けると、姉さんが首まで温泉の中に浸かっていた。


 ……まさか!?


「お、お姉ちゃん、もしかして……」


「はい、謎の猿に水着取られました」


 な、なんてこった。水着が無くなったせいか、なんか月音姉さんの顔が菩薩ぼさつみたいな悟りを開いた顔になってる。


 無関係じゃなくなってしまった。


 くっ、その猿はどこに行った!?


 僕の中にある告死蝶のメンバーの能力で猿を見つけられないか!?


 僕が事の重大さに戸惑っていると、シロルが僕の肩をつついた。


「星音くん、今こそワタクシの能力の出番です! しっかり見ててくださいね!」


 シロルが深呼吸すると、人間の声ではないが、かと言って不快ではない謎の音を口から出した。


「見つけました。猿は露天風呂の茂みに隠れてます」


「え? 何今の?」


「ふふふ、これがワタクシの能力『反響定位(エコーロケーション)』です! 伊達にシロイルカのコードネームを持ってるわけじゃないですよ!」


 そんなこんなで、僕達は水着取りの猿と戦う事になった。

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