第46話「皇帝の闇」

 なんと嘆かわしい。


 この国だけでない、世界は平和になったはずなのに、何故この世界から戦争が完全に消えない?


 何故、人々は戦乱を求める。


 嘆かわしい。


 時代は変化し、かつては国の為、正義の為に戦っていた人類が、今では戦争そのものがビジネスと化してしまった。


 軍事産業が普及し、金で人々が争い、血を流し、多くの悲劇が起こる。


 時代が求めた結果とは言え、朕は、この世界が許せない。


 人々が憎いのではない。人々を金で動かす世界が許せない。


 だから朕は求めたのだ。黒翡翠と言う、かつて世界を混沌に陥れた石を手にし、その力で、この世界から戦乱を完全に消し去ろうとした。


 だが、結果はどうだ? 朕が黒翡翠を求めるたびに我が子達が血を流し、涙を流す。


 朕は悟った。朕の妄想が我が子達を戦乱に巻き込んでいると言う事実に。


 だから、朕を止めてはくれないか?


♡♤♧♢


 ビルの崩落で瓦礫の山と化したビルの一室で、星音は黄龍の心の闇と葛藤を見てしまった。


「黄龍さん……アナタは本気で世界を救おうとしてたのですか?」


「朕の闇を見たか、そうだ。だが朕の妄想を今夜で終わらせたい。上に立つ者の妄想で下の者達を振り回す。闇の皇帝としての責務に疲れた。だから若き蛾よ、朕を止めてくれ」


「……自分で止める事ができないのですか?」


「一度始まった皇帝の妄想は、死ななければ止まらぬ!」


 黄龍の両手両足に四つの異なる闘気が浮かび上がった。


「さぁ、若き蛾よ。朕をほふって、時代の覇者となるのじゃ!」


「悪いけど、僕は自殺の手伝いはできない。アナタには生きたまま罪を償ってもらう」


 星音は、ケルベロスを倒した必殺技『混沌破壊カオスインパクト』を使う事にした。


 改めて、混沌破壊の能力を説明すると。


 星音の流星万華鏡は、本来は四つの能力を同時に発動しないと一つの能力にならない能力だが、星音は、まだ二つしか同時に発動できない。


 この空白を埋める方法を秤蜘蛛と相談して生まれたのが混沌破壊と言う技である。


 二つの異なる能力を両手に合わせて対消滅を発生させ、そこから発生した力を相手に叩き込む技だが。


 実は、混沌破壊の欠点として、使う度に威力がランダムに発生してしまうと言うリスクがある。


 つまり、星音はまだ混沌破壊の力すらもコントロールできていない。


 まさにギャンブルじみた技である。


 なので、もしも威力が弱かったら黄龍に負けるし、強すぎたら黄龍を殺害してしまう。


 だが、星音は信じていた。


 半人前の自分ごときで、黄龍が死ぬような男ではない事を!


「行きます黄龍さん! 『混沌破壊カオスインパクト』!!」


「受け取るが良い、若き蛾よ! 『四帝天撃フォーススパイラル』!!」


 黄龍の四つの闘気が混ざった極大な光線の中を、星音は肉体が焼けただれる痛みに耐えながら突き進んで、混沌破壊の一撃を黄龍に直撃させた。


「おおおおおお!!」


 その一撃が、時代の覇者を決める瞬間であった。

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