無名の兵士、実は世界最強 ~平凡な兵士でいたいのに、なぜか周囲から英雄扱いされて困るんだが~
WING/空埼 裕@書籍発売中
第1章
第1話:平凡なモブ兵士でいたい
新作どーん!
本作は「目立ちたくないのに、結局は周囲に優秀さを見せつけてしまう主人公の物語」です。
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――いつの世も、戦場は騒がしい。
「リク! 敵の増援が来てる! どうする!?」
俺――リクは、戦場の喧騒を背に振り返った。黒髪に黒目、特に目立つ要素もない普通の兵士だ。数多くの戦場を駆け抜けてきたが、俺にその気はまったくない。戦争で両親を失い、軍に拾われて育ったという、少々変わった経歴を持つが、俺が目指しているのは、ただ「平凡な兵士」として静かに生きることだけだった。
「どうするって、普通に戦えばいいだろ?」
周囲の仲間たちは次々に緊張した面持ちで俺の指示を仰ぐ。その中に、上官の姿がある。
あんた、この部隊の上官だろ⁉ なんで俺が指揮しないとなんだよ!
上官相手なので声には出さない。軍法会議で処刑になるのは嫌だ。
「なんで俺が指揮を取るんだ……ただのモブ兵士のはずだろ?」
俺は、過去の記憶をふと思い出す。実は俺、「転生者」なのである。この世界に来る前の記憶を持っており、戦術や戦闘の知識は多少持ち合わせている。それだけではなく、こと戦闘においては、天賦の才があったのか、次々と技などを吸収していった。
しかし、魔法の才がなかったのは残念だ。俺も火を出すといった魔法を使いたかった。
ただの兵士として生きたいのに、なぜか目立ってしまう。どれだけ目立たないように振る舞っても、なぜか「さすがリク!」と褒められてしまう。
「仕方ないな……」
俺はしぶしぶ周囲を見渡し、敵の配置と地形を瞬時に分析する。隣国ヴァルガン帝国の兵士たちがこちらに向かってくるが、すでに陣形の隙を見つけていた。
「右から回り込んで奇襲を仕掛ける。ここで踏ん張れば、敵は後退するはずだ。あとは崩れたところを正面から攻撃して終わりだ」
仲間たちは目を輝かせた。「さすがリク!」「お前がいてくれて助かる!」と称賛の声が上がる。
俺は顔をしかめ、内心で「また目立っちまうだろぉぉぉお⁉」と叫んだ。 だが、戦局は一刻を争う。俺の指揮で助かる命が多くあるなら、目立つとしてもそれを選択するしかない。
俺の計画通り、敵は混乱して退却を始めた。仲間たちは歓声を上げ、その中心にいる俺は、引き攣った笑みを浮かべていた。
「俺はただ、生きて帰って平和に暮らしたいだけなんだ……」
その後も俺は、最前線で戦い続けた。時には敵将と刃を交えて討ち取り、仲間を生かすために作戦を立案したりと、生きるために戦い続けた。
それから数年、ヴァルガン帝国との戦争は終結し、国土を防衛することに成功した。
◇ ◇ ◇
「なあ、リク。そろそろ昇格してもいいと思うんだ」
「……勘弁してくれません?」
開口一番、上司から昇進を望まれた。
彼女は第三騎士団の団長メイリス・アークリッド。
赤い瞳に赤い髪を持つ美貌の持ち主で、鋭い目つきが印象的だ。鎧をまとった姿は堂々としており、騎士団長としての威厳が常に漂いる。ストレートの赤髪は腰まで届き、戦場でも整然と揺れるその髪は、彼女の厳格さと美しさを際立たせていた。冷静で落ち着いた振る舞いながらも、その瞳には常に強い意志が宿り、部下たちを厳しくも正しく導く存在である。
そんな彼女の強さと美しさ、厳格さから、アルカディア王国のみならず、近隣職で【紅蓮の剣姫】という異名で呼ばれていた。
「先の戦争で、かなりの活躍をしている。君の配属先の部隊長が「リクがいなければ全滅していた」と報告も受けていた。当然私も、君の戦略だけではなく、その類まれなる圧倒的な戦闘センスを持ち合わせていることも知っている。その戦闘力は、私たち騎士団長クラスを優に超えていることも」
「さ、さすがにそこまでは……」
まずい。このままでは昇進してしまう。
昇進してしまえば、ずっと軍と関わることになる。俺はさっさと稼いでのんびり暮らしたいんだ!
「昇進の何が不満だ?」
「そもそもが、みんなの過剰評価ですよ。自分にそこまで実力があるわけないじゃないでか」
アハハッと誤魔化す俺だが、団長の目つきは変わらない。
「この私が力量を見誤ると?」
「そ、そうではなく……」
な、何か急いで言い訳を考えないと!
魔力で脳を活性化させ、高速で思考を巡らす。魔力による脳の活性化も、できる人が極わずかだったりする。
そして、言い訳を思いついた。
「正直に言いますと、俺なんて裏方の仕事で十分ですって。人前での責任ある役職なんて、胃が痛くなっちゃいますから」
「……ふむ。前々から昇進の話しが出る度に、目立ちたくないと言って拒否する」
「事実ですから。俺は目立つことなく、平穏無事に生きたいだけなんですよ」
「わかった。では今回は見送りとしよう」
「ありがとうございます!」
昇進が消えたことに喜び返事をした瞬間、団長がギロッと俺を睨み付けた。
しかし、俺は気付くことなく「失礼しました!」と部屋を後にした。
団長が何かを呟いていたが、俺は嬉しすぎて何も聞こえなかった。
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ストック尽きるまで毎日投稿。
とは言っても3万字くらいしかないっすぇ……
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