超訳御伽草子『竜宮伝』

日ノ輪

序章 昔々


昔々のそのまた昔。

丹後国たんごのくにの海沿いに丹海郷おおしあまごうという郷があった。

郷の人々は海で漁をしたり、山で狩りをしたりして暮らしていた。


その近海の底深くに、人知れず築かれた巨大な海底都市があるのだった。


──────綿津見国ワタツミノクニ


その国には、人間とは全く文化の異なる種族が暮らしていた。

彼らは様々な海洋生物の特徴と、人間の特徴とを持ちあわせたような姿をしていた。


「竜王様がお亡くなりになったって本当か?」

「ああ…本当に急だったらしい…。」

「となると、次の王はどうなるんだ?」

「鮫族のホオジロ様か?」

「いや、鯱族のサカマタ様じゃないのか?」

「竜王の一人娘の乙姫様はどうなるんだ?」

「この国は実力主義だからなぁ。乙姫様には悪いが…女王になるなんてことはないだろうなぁ。」

「あぁ、せめて次の王のお世継ぎを産んで頂く他ないだろうよ。」


綿津見国の王都、不知火シラヌイでは次期竜王が誰になるのかという話題でもちきりだった。


そんな綿津見国の民の盛り上がりとは裏腹に、王宮では一触即発の事態となっていた。


次期竜王の候補として鮫族のホオジロと、鯱族のサカマタが頭角を現し、両陣営に分かれて内乱が起きようとしていたのだった。


そんな中、王宮の隠し通路を泳ぐ若い女の姿があった。


「お父様…。私が、この国を守ります。」


そう呟きながら乙姫は王宮を後にするのだった。


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