第2話 崩壊寸前

 日々、美穂の心は小さな亀裂きれつからじわじわと崩れ、今にも壊れそうだった。


 学校にいる時、彼女はほとんど声を発することなく、ただ時間が過ぎるのを待つだけだったが、心の中では絶えず悲鳴が激しく響いている。


 昼休み、美穂が教室にいる時、遥香が友人と一緒に近づいてきた。


 彼女の顔には、無邪気さとは程遠い表情が浮かんでいる。



「美穂、お前とは誰も一緒に居たがらない訳、分かる?お前の居場所はココに無いんだって」



 その言葉は、美穂の精神が崩れ落ちる音が聞こえた。


 しかし、彼女はその痛みに反応することもなく、ただ口を閉ざす。


 そんな美穂に救いの手を差し伸べるべき大人たちも、彼女の苦しみを見落としていた。


 教室の隅で一人縮こまる美穂の姿を、教師たちは見て見ぬふりをしている。


 休み時間には、生徒たちの無邪気な笑い声と、教師の会話が教室を満たし、美穂の存在は完全に忘れ去られ、葬られた。


 放課後、教師が教室を出る直前にふと美穂の方を見て



「美穂、ちゃんと勉強についていけてるか?」



 と尋ねた。


 その問いかけは、彼女の心にほんの僅かでも希望に触れることを期待させたが、美穂はすぐに期待することすら無意味だと悟った。



「あ…はい、大丈夫です」



 彼女はただ無表情で返事をする。


 教師の視線がすぐに逸れ、その背中が去っていくのを見送りながら、美穂の心はさらに深い孤独に包まれていった。


 その夜、美穂は部屋の薄暗い照明の下で考えに耽る。


 誰にも助けを求められない、自分だけの世界に閉じ込められ、絶望の中で彼女の思考は極端に危うい方向へと向かい始めた。



「もし…復讐できたら、少しは楽になれるかな?」



 その考えは、最初は一瞬のものだったが、じわじわと心の中で形を帯び、やがて彼女の意識を支配していく。


 自分をここまで傷つけた奴らに、同じ痛みを返せるとしたら――


 そんな危険な想いは一筋の救いのように感じ、希望が見えた。


 次の日、帰り道に寄った〇△書店で、美穂は何気なく一冊の本を手に取る。


 タイトルには「心理的操作による人間関係の構築」とだけ記され、表紙には渦巻きの様な模様が描かれていた。


 その本はまるで彼女を誘うように見つめ返し、彼女の指が自然とページをパラパラとめくる。



「これが…使えるかも」



 どこかそうで囁く声が聞こえ、美穂はその本を手放せなくなった。


 冷たい表紙の重みが彼女の手のひらにしっかりと馴染むと、復讐が現実味を帯びる。


 この本に書かれている方法を試せば、もしかすると復讐への一歩を踏み出せるかもしれない――

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