お姫様は俺の前でだけ様子がおかしい
@YukiiroKotoha
第1話:多分これが運命の出会い
「今の、一体なんだったんだ…」
俺、
俺が入学した岡ノ上高校の一年生には、学年一の美少女とも言われる女の子、篠原花恋がいた。
そのセミロングでピンクブラウンの髪は手入れが行き届いていて、その髪質は変化することのないようにまで思える。そして、気持ち幼さの残った顔は、そうであるが故の可愛らしさと、同年齢とは思えないくらいの大人らしさが同居したものとなっており、人の目を奪ってしまうほどだった。そして、髪をハーフツインテールにしていることがそのどこか感じる幼さを加速させているようにも思えた。そして、長いまつ毛を携えた垂れ目気味の茶色の瞳は、どこか宝石のようにも見えた。
スタイルについても出るところは出て、引っこむところは引っこんでいて、メリハリはありながらも、バランスの取れたものとなっている。肌についても、こちらも髪と同じように手入れを丁寧にしているのか、色白に保たれている。
また、才色兼備の名が最も似合うのではないかと言われていて、実際入試成績が最もよかった新入生がやると言われている新入生挨拶を入学式で行っていたし、その証明と言わんばかりに一学期中間、期末と成績はトップだったらしい。それに、体育祭でも、一年生ながら三年生のエース張りの活躍をして団を総合優勝へと導いていた。
性格や雰囲気についても、あくまで噂で聞いた程度の部分もあるが、容姿から感じる幼さとは対照的に、どこか大人っぽく、お淑やかでそれこそ清楚という言葉がぴったりというレベルらしい。入学式の新入生挨拶のときの言葉、語り方からもそれが伝わってきた。また、そんな彼女の微笑みに恋した男子は多いとも聞く。
それらの材料から総合して考えると、それこそ、文武両道、容姿端麗、品行方正の三拍子が全て揃った完璧美少女と言っても過言ではないかもしれない。誰が呼び始めたのか、そんな彼女のことを一部の人間はお姫様と呼ぶようになっていた。
俺としては、クラスが違うということもあって関わり合いはほとんどなかったが、噂に違わぬ美少女だということは認めざるを得ない。それに、人とのコミュニケーションに関しても、愛想よくこなしていて、彼女の周りには常に誰かしらいることが多いのも時たま見かけている。ただ、何故か彼女にはどこか近親感を抱いてしまう。その理由はさっぱりわからないのだけど、いくら考えてもわからないものはわからないから、置いておくしかない。積極的に関わろうとも思っていなかった、というのもある。
で、何故俺がそんな彼女のことを思い出しているのかというと、ついさっきまで目の前に広がっていた光景に原因がある。
今日は十月の半ば、二学期中間考査の最終日だった。中間考査のある日、ということで学校も半日で終わって、部活のある人は部活へ、そうではない人は友人と帰宅したりと思い思いの時間を過ごしていた、そんな午後だった。
そんな中、俺はどうにかして今日考査のあった科目の課題を迷子になりそうな校舎の中で職員室まで運んだ後、図書室で少し調べものにいそしんでいた。
そうしているうちに、大体四時くらいになってしまっていた。もうそろそろ家に帰るか、と思って教室に戻ろうとした時、歌声が聞こえた。それはそれはまあ、澄んだ美しい声だった。気づけば自然に足がその歌の聞こえてくる方へと進んでいた。
そうして、図書室から出てすぐの空の見える渡り廊下へと向かうと、そこには件の女子、篠原花恋がいた。彼女はピンクブラウンの髪を風にたなびかせ、どこか触れてはいけない、幻想的な雰囲気を漂わせて佇んでいた。
そんな彼女の歌声と、そうして歌う彼女の姿はあまりにも完成されたもので、俺は完全に目を奪われてしまっていた。
ただ、しばらく歌声を聞いていて、あることに気づいた。気づいてしまった。
あれ?歌ってるのアニソンじゃないか?
その事実に気づいてしまうと、その歌のうまさ以上に、その歌の中身がノイズとなってそっちの方へと思考が引っ張られてしまう。何曲か連続で歌っているようだったけれど、どれもアニソンやボカロなどで、しかも何故か最新のものはあまりなく、少し昔に流行ったものだった。
「ふう」
そんな思考に囚われていたところ、彼女はひとしきり歌いきって満足したのか、一息ついた。それと同時に今まで纏っていたどこか幻想的な雰囲気はどこかに吹き飛んでしまって、代わりにどこか天真爛漫さを感じさせるものが見え隠れするようになった。
俺がボーっとそんな彼女を見ていたせいなのか、彼女と目が合ってしまった。
「!?!??!??!」
俺の存在を認識して声にならない叫びをあげた彼女は顔をみるみるうちに赤くしてしまった。そして、手で顔を覆って、それでいて、目だけは俺の方を見てこう聞いてきた。
「…いつから見てました?」
「歌っている途中からずっと。ええと、上手だったと、思う?」
俺がフォローになっているともいえないような微妙な言葉を返すと、彼女は慌てたかのようにこう言いながら近づこうと試みた。
「今すぐ!忘れてくださ、へぶちっ!」
が、近づいてくることはなかった。理由は単純、彼女が言いながら近づいてくる途中でコケたからである。それはまあ見事なコケ方だった。段差のないところで綺麗につまづいてコケたのだ。
「…大丈夫ですか?」
目の前で起きたことに一瞬思考停止していたが、すぐに再起動して俺は彼女を起こすために手を伸ばした。
「い」
「い?」
「い、いらないです~~~~~!!」
しかし、彼女は俺の手を取ることなく立ち上がった。そして、そのまま俺の横を走ってそう言い残して走り去って行った。そんな彼女の姿は図書室横の階段を下りて行ったところで見えなくなったが、その途中でドタッという何かが落ちるような音がしたあたり、多分もう一回転んだんだろう。
「今の、一体何だったんだ…」
そして、その場に取り残されてしまった俺は、さっきまで起きていたことが夢なのか確かめるために、頬をつねるのであった。ちなみに普通に痛かった。
結局この出来事はおそらく、夢ではなかったことが証明されてしまったわけだけども、篠原花恋という少女とのやり取りはこれが最後になると思っていた。だけども、現実はそうでもなく、どうしようもなく深く関わっていくことになるとは、このときは一切思っていなかった。
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カクヨムコン参加作品です!
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あと、今日もう一話上がります!
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