第4話.親友は転性者?

 「ただいまー」

 「お邪魔しまーす」

 「お、お邪魔、します」


 落ち着ける場所と言っても、話の内容はイディアノイアがらみであることは間違いなく、たとえばマックの片隅などで話すわけにもいくまい。

 仕方なく、源内はふたりを自宅へと連れてくることにしたのだが……。


 「あら、可愛らしいお嬢さん達ね。源内のガールフレンドかしら?」


 さりげなく自室に連れ込む前に母親の遥香に見つかってしまったのは、源内一生の不覚だった。


 「あ、いえ、その……えっと」


 遥香の好奇心に満ちた追及にシドロモドロになるシャルル(?)。

 ちなみに、年の功かダーナの方は、上手くかわしている。

 苦労の末、なんとか母を引っぺがした源内は、自分の部屋にふたりを連れて行き、現状に至る成行きを聞くことができたのだった。


 * * * 


 一言で言うなら、事の起こりは「事故」だったらしい。

 3月の半ば、学院卒業を間近に控えたシャルルたち3年生男子4人が、久々に近くの森へピクニックに出かけた際、偶然空を通りがかった野生のワイバーン(それも、幼竜であるフローラよりふた回り以上大きい成竜)に運悪く目をつけられてしまったのだ。


 既述のとおりイディアノイアにおける魔法使いは、女性に比べて男性は戦闘力が格段に低い。

 剣術を極めたうえで剣に属性魔法を付与することで飛躍的に戦闘力を高め、魔法騎士隊の副隊長にまでのし上がったルビカンテ卿(レミリアの義兄だ)のような強者も稀にいるにはいるが、それこそ例外中の例外だ。


 その点、この4人──シャルル、マンカイン、ギムレット、レオナルドは、本当にごく普通の男性魔法使いだった。

 いや、ワイバーンが相手では、メイジレベルに達していない女性魔法使いでも、追い払うことは難しかったたろう。


 それでも、彼らは頑張ったのだ。

 幸いここはそれほど魔法少女学院から離れているわけではない。誰か学院の実力者が気づいて来てくれれば、助かる見込みは十分あるはずだ。


 2年前、彼らが1年生の頭のころなら、きっと簡単にあきらめてしまっただろう。2年分の成長、そしてなにより源内たちと過ごした激動の1年間が、彼らにいい意味での“あきらめの悪さ”と“しぶとさ”を与えていた。


 シャルルがワイバーンの頭上に【創像】で生み出した青銅の武器を落とし、マンカインが胡椒を巻き上げたつむじ風で目潰しを試み、ギムレットが熱した石を【念動】で浮かせて投げつける。魔法の発動体として長柄武器の槍を用いているレオナルドは、3人の護衛を兼ねた牽制役だ。


 もちろん、彼らの随伴者たちも主を守ろうと必死だった。しかし、相手は空を飛ぶワイバーン。ダーナの丈夫な爪も、ヘラジカのルーガ(ギムレットの随伴者)の大きな角も届かない。

 マンカインのミネルバはフクロウで戦闘向きではないし、レオナルドのミランダ(紫極楽鳥)も同じ。それでも、2匹は少しでもかく乱になればと懸命にワイバーンの周囲を飛び回ってはみたのだが、さしたる効果はなかった。

 ダーナが退避壕でも掘れればよかったのだが、あいにくと泉の近くは岩場となっており、時間をかければともかく簡単には穴をあけられそうになかった。


 全員の魔力も気力も尽きかけ、もはやこれまでか──と思った時、マンカインが先日下町で手に入れたあるポーションの小瓶のことを思い出したのだ。

 なんでも、これを一滴飲めば一時的に潜在能力が覚醒するが、死ぬほどマズいうえ、寿命が幾許か縮んでしまうとのこと。


 眉唾な話だが、寿命が縮むと聞いて、さすがに一瞬躊躇する少年たちだったが、シャルルは悲壮な顔をして薬瓶を手に取った。


 「たぶん、いまのところ、僕の武器を落とす攻撃が、アイツにいちばん利いてると思う。だから、僕が覚醒するのが一番効果的なはずだ」


 グラフィアス家を盛りたてるため、そして異世界へと帰った親友といつの日にか再会するという誓いのためにも、こんなところで自分は死ぬわけにはいかない。

 そう覚悟したシャルルは、間違いなく“漢”と言えるだろう。


 ただ、やはりテンパっていたのだろう。一滴でよいところを彼はググーーッとひと瓶丸ごと飲み干してしまったのだ!


 途端に、それまでとは桁違いの膨大な魔力が彼の体からあふれ出す。

 熱に浮かされたような目になった(実際、ひどく発熱していた)シャルルは、先ほどまでの短剣や包丁、彫金用ハンマーなどではなく、身の丈を超える長さの槍や、肉厚のマサカリ、巨大な分銅などを次々に錬金。


 さらに、それらを一斉に【念動】で浮き上がらせ、人が投げるよりも速いスピードでワイバーンに投げつけ始めた。

 おかげで、先ほどまでとは段違いの危険な攻撃にワイバーンは閉口し、ついにはもっと食べやすい獲物を求めて、彼らの前から去って行ったのだ。


 「た……助かった、のか?」


 ホッと一息ついた少年たちをしり目に、ドサリと崩れ落ちるシャルル。

 ちょうどそこへおっとり刀で駆けつけて来た教師のケリュケイオン(元軍人)と学院長秘書のミス・ウェルズ(元魔法少女)は、彼が危険な状態と判断し、すぐさま学院の医務室へと運んだ。


 半日後、入念な検査の末に診断結果が下されたのだが……。

 それは、「シャルルに魔法少女の資質あり」という予想外のものだった。


 精密検査の結果判明したのたが、本来、シャルルは女性としてこの世に生を受けるはずだったのだが、男系の強いグラフィアス家の血の影響か、なぜか男性として生まれてしまう。

 それ故、本来の女性である時のような強い力は発現しなかったが、魔力自体は多少残ったため、珍しい男性の魔法使いになれたらしい。


 現在、例の薬によって、本来シャルルが女であれば発現したはずの膨大な魔力が彼の体内で荒れ狂っているのだと言う。

 当然、体──とくに今の男性の体にとっては悪影響をもたらし、このままでは衰弱して最悪死ぬことも考えられる。


 解決する方法はふたつ。


 ひとつは、ケリュケイオンが教え子のナンシーと協力して開発した「消魔薬」を服用すること。その名のとおり服用者の体内から魔力を消し去るこの薬を何回か飲むことで、シャルルの体内から魔力が消え、命は助かる。

 ただし、おそらくはシャルルは魔法使いとしての力まで失くしてしまうだろう。運よく魔力が残ったとしても、以前の1割あるかないかだろうとのこと。


 もうひとつは、学院の宝物庫にしまわれた“ケタン・テンハーツ・ベーゼ”と呼ばれる秘薬を使うこと。男性を女性に、女性を男性に変えるその秘薬の使用を学院長は、特別に許可してくれると言う。

 これを飲んで女性になれば、体内の魔力を制御することが、シャルルにも可能となるだろう。


 もちろん、シャルルは悩んだ。

 いくら、本来は女性として生まれるはずだったと言われても、今まで15年間、男と信じ、暮らして来た日々を消せるわけも、消したくもない。


 しかし、同様に“魔法使いとしての自分”も様々な面で大切なものだ。


 とくにグラフィアス家は、久方ぶりに一族に出た“魔法使い”に期待している。

 先ほどもチラと述べたとおり、グラフィアス家は男系な家系であり、生まれる子はほとんどが男性だ。ゆえに、由緒ある貴族ながら魔法使いはめったに出ないし、女性の魔法使いがいた記録などは、少なくとも100年以上遡らなければならない。


 そのうえで、自分が魔法使いどころか魔法少女(メイジ)に届く素質があると知れたら、両親や兄たちはどう思うだろう?

 否が応でも期待するだろう。無論、最終的な判断は自分に任せてくれるとは思うが、それでも無意識に期待してしまうに違いない。


 そういえば、他家から嫁いできた母も「あと僅かの差で正規の魔法少女になれなかった」と悔しい想いをしたと聞いている。

 女友達のレミリアを例にとるまでもなく、メイジになれなかった母や姉が、自分の娘や妹にかける期待の大きさは、想像がつくつもりだ。


 半刻あまりの苦悩の末、ついにシャルルは決断を下した。


 「マーリン学院長、お願いします」


 * * * 


 「──で、結局、女になることを選んだんだな?」

 「うん、色々考え併せると、それが最良の選択だと思ったしね」


 とは言え、女性化してからもひと波乱あったんだよ、と笑うシャルル。


 家族に関しては、シャルルが女になることを驚くほどアッサリ受け入れた。むしろ、父母には「実は娘もひとりくらい欲しかった」と喜ばれ、兄達も「こんな可愛い妹ができてむしろ鼻が高い」と大乗り気。


 学院もできる限りの助力バックアップを約束してはくれたのだが、その際問題になったのは、「彼女の生徒としての扱いをどうするか」という点だ。


 男性魔法使いとしてのシャルルは、中の上程度の成績で卒業が決まっていたが、魔法少女を目指すなら、そのまま卒業させるわけにはいかない。

 しかし、ここでさらに2年生から再度在籍させるのは無駄も多いし、時間がもったいない。


 なにせ、魔法少女は20歳頃から徐々に力が衰え始め、20代半ば、もしくは結婚した時点で魔力が最盛期の10分の1程度に落ち込むため、普通はそこで引退するのだ──まぁそれでも、男性魔法使いの平均的な魔力よりはまだ高いのだが。


 そこで、前代未聞だが「ブッつけ本番で地球で実習」という処置がとられるコトになったらしい。


 「ヲイヲイ、それってかなり無茶じゃねーか?」

 「そうだね。とは言え、一応1ヵ月近くかけて最低限の“魔法少女見習い”としての常識は叩き込まれたし、ダーナは魔法少女の随伴者としてもかなり強力な部類に入るからね」


 確かに、ジャイアントモール形態時のダーナは地上での白兵戦に限れば、非常に心強い味方だ。


 土精霊の加護を受けているため、体表は極めて頑丈。また、その強靭な前肢と鋭い爪は、普通の野犬くらいなら一撃で絶命させる。その上、土が露出した地面なら、地中からの奇襲という手も使えるのだ。


 逆に人間形態の時は、その豊富な知識と落ち着いた思慮深い性格が助言者として頼りになる。


 「とは言え──ボクもうっかりしてたんだけど、地球の都会は、たいていアスファルトかコンクリートに地表を覆われているんだよね」


 先ほども、無理やりアスファルトの道路を掘りぬいたところで疲労困憊し、なんとか人間形態になって地上に逃れたという経緯らしい。


 「地球では、イディアノイアの土精霊の加護も弱まりますし……。主殿、あまりお役に立てなくて申し訳ありません」


 すまなさそうにダーナは頭を下げた。


 「ううん、これはボクのミスだよ。それに、キミには戦い以外でも本当にいろいろな面でお世話になってるしね」


 随伴者パートナー思いな主は、あわてて首を振る。

 微笑ましい主従関係というべきだろう。だが……。


 「でも、そうかぁ。うーん、ちょっと心配だなぁ」


 お人好しな源内は、腕組みして、首をひねっている。

 自分も1年間、レミリアの随伴者をしていただけあって、“魔法少女見習い”という立場が、華やかな外見に比して実はかなり危険なものであることを熟知しているのだ。


 「そのコトなんですけど……」


 チラと源内の方に意味深な視線を向けるダーナ。


 「じつは、学院長先生が、主殿のために、わざわざこの地を担当地区として斡旋してくださったんです。いざとなったら、強力な助っ人がいるからとのことで……」

 「こ、こら、ダーナ!」

 「ん? もしかして、それって俺のコトか?」


 鈍い源内でも、ふたりの様子から、さすがにその意味に気がつく。


 「な、何言ってるんだよ、ダーナ。ゲンくんは、せっかく故郷に帰って平和な暮らしを営んでいるんだから…「いいぜ」…え?」


 途中で源内に遮られて驚くシャルル。


 「シャルルは(親友として)かけがえのない存在だからな。及ばずながら、俺が守ってやるよ」

 「(か、かけがえのない存在だなんて……ポッ)ゲンくん……本当にいいのかい?」


 源内の言葉に、ちょっと目を潤ませる少女。元々感激屋なタチだったのに加えて、女性になったことでさらに感受性豊かかつ涙もろくなったようだ。


 「あ、ああ、任せろよ。それに、ほら、可愛い娘が困ってたら、手を貸すのが男の義務ってヤツだろ?」

 「か、可愛いだなんて、そんな♪」


 綺麗な瞳をウルウルさせた少女に見つめられて、ちょっと照れた源内が柄にもなくキザな台詞を吐いてしまったのだが、それがまた、部屋に微妙な沈黙をもたらしてしまう。


 「……」

 「……」


 (よしよし、これでゲンさんの協力は確保できましたし、主殿にゲンさんを意識してもらうことも、その逆も上手くいってるようですね)


 その一方で、内心何気に黒いダーナさん。いや、私利私欲ではなく、すべては主のためなのだろうが。


 「そ、そうだ! たださ、俺があの姿に変身できる時間って、結構限られてるんだよ。なにせ、今の俺はただの高校生にしか過ぎないからな」


 居心地の悪いようなさほど悪くないような不思議な空気を破って、源内が自分の現状を説明する。


 「(キタ~!)ああ、それでしたら、ゲンさん。いつでも魔力を補給できる状態になればよろしいんじゃ、ないでしょうか?」


 パンと手を打ち合わせて、ニコニコと何げないフリを装って、ダーナは告げる。


 「魔力を補給?」


 聞き返す源内。シャルルも首をかしげている。


 「ええ、おふたりともご存じなはずですよ。随伴者の共闘契約コントラクトです」

 「「!」」


 確かに、主と随伴者のあいだには、その不思議な繋がりによる共感や魔力のやりとりが存在する。しかし、それを可能とするためには……。


 「お、俺とシャルルが、その……コントラクト、するのか?」


 随伴者になるということ自体には、現在の源内にさほど抵抗はない。

 “主”と“随伴者”とは言え、実質的には相棒、パートナーに近い関係であることは、すでに身をもって知ってるからだ。


 しかし──その方法が問題だった。


 源内はチラと横に目をやると、バッチリ、少女と目が合ってしまう。

 真っ赤になって俯く少女。


 「(か、かわえぇ~…………ハッ! 何馬鹿なこと言ってるんだ。シャルルは大事な友達なんだぞ! それに、元は男なんだし)しゃ、シャルル、えっと、まぁ、その、なんだ」

 「あ、あの──ボクの今の名前は、「シャーロット」っていうんだ。なんでも、母上が、もし女の子が生まれたらつけるつもりだった名前だそうで」


 おずおずとシャルル改めシャーロットが口を挟む。


 そう、「元は」男。言い換えれば、今はれっきとした女の子ということだ。


 つい、シャーロットの(何気にグラビアアイドルに近いレベルで“ある”)胸の膨らみの辺りをチラ見してしまい、何とも言い難い罪悪感に囚われる源内。

 正直、今のシャーロットの容姿は、相当なレベルの美少女だと言ってよい。


 肩を覆うくらいの長さで、緩やかなウェーブのかかったセミロングの金髪。

 以前から、男には見えないほど整った目鼻立ちをしていたが、女になったことで、ペールブルーの瞳はより優しく、薄紅色の唇は少し小さくなり、さらに可憐さを増している。

 スタイルについては、前述のとおり源内のストライクゾーンにばっちり入っている。


 ちなみに、実年齢は15歳なのだが、例の薬で寿命が2、3年減った分急速に成長したため、今の彼女は肉体的には17、8歳に相当するのだとか。


 性格については言わずもがな。1年間、(男子寮の)ひとつ屋根の下で暮らしてきたのだ。いいところも悪いところも、十分に心得ている。そのうえで、互いに親友と呼ぶに足る堅い絆を育んできたのだ。


 (──あれ? もしかして、シャーロットって、何気に俺の好みにピッタリマッチング?)


 危険な方向に思考が突っ走りそうだったので、頭を振り、あえて戦いのことに目を向ける源内。


 「そうだな。シャルル、いやシャーロットに異論がないなら、俺はコントラクトしてもいいぜ。大事な友達を護る手立てがあるのに、それをやらないなんて俺としては我慢できねーし」

 「う、うん……(友達、かぁ)」


 嬉しいような落胆したような複雑な表情を浮かべる主の耳に、こっそりと悪魔の囁きを漏らす随伴者。


 (主殿、今は友達でもいいじゃないですか。「まずはお友達から」という言葉もあることですし、焦らなくても1年間ありますよ)

 (な、何を言ってるんだい、ダーナ?)


 「コホン! それ、じゃあ……お願いしようかな。本当にいいんだね?」

 「おぅ! パパーッとヤってくんねぃ!」


 ワザとおどけて江戸っ子みたいな口ぶりでそう言うと、源内は腕組みしながら目を閉じた。


 「じゃあ……」


 シャーロットは口中で呪文を紡ぐと、源内の唇にチュッと口づけ、魔力の経路パスを繋ぐ。


 (──これは儀式、単なる儀式、そもそも欧米ならキスなんて挨拶代わりだから……)


 唇から伝わる柔らかな感触に煩悩を刺激されつつも、必死で邪な想いを抱かないよう努める源内。

 以前のレミリアとの契約は子犬状態で行ったため、ここまで意識しなかったのだ。


 「おろ? 前と違って左手に何か“魔力”が収束してる感じがするな」

 「あ、ホントだね。以前、ゲンくんが持ってた右手の力とはまた違うのかな?」

 「うーん、どうだろう。ま、何はともあれ、これからよろしくな、シャル……シャーロット」


 そう言って笑う源内を眩しそうに見つめるシャーロットだが、傍らのダーナがニコニコ(ニヤニヤ?)しているのに気がつくと、「コホンッ!」と咳払する。


 「う、うん、じゃあ、これから大変だろうけど、よろしくね、ゲンくん」


 ──と、そこで終わっておけば綺麗に話が収まったのだが。

 間の悪い(?)ことに、お茶を持ってきた源内の母親が、ふたりがキスしているシーンを目撃してしまったのだ!


 すっかりシャーロットを源内の恋人だと勘違いした母親は、好奇心全開でシャーロットとダーナに色々問い詰め始める。

 どうやら先ほどの玄関での問答は、序の口、軽いジャブ程度だったらしい。


 とりあえず源内は、彼女達は自分がフランスにいたころ働いてた先の娘さんで、自分の話から日本に興味を持って留学しに来たのだ、と告げた。


 ちなみに、源内の2年間の失踪は、「海外の人身売買組織に誘拐されたものの、その先で逃げ出し、ヨーロッパ方面を転々として旅費を稼いで、裏ルートで日本に帰って来た」……という(かなり無理のある)設定ことにしてある。


 そのせいか、「フランスでは、彼女達にすごく世話になったんだ」という源内の言葉に、彼の母は大変感激した様子だ。


 そして、彼女たちがまだ落ち着く下宿先が決まってないと知ると、無類のお人よしっぷりを発揮して「ウチに住みなさいよ」と熱心に薦めてきた。


 シャーロットは遠慮したのだが、(シャーロットの姉ということにしてある)ダーナが妙に乗り気なのと、源内もそれを控えめながら支持したことで、結局彼女達は杉田家の世話になることになったのだった。

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