歌舞伎町のゴースト
たなしゅう
第1話 イヤフォンから好きな言葉だけ摂取しないと、平衡感覚すらままならない
街には文字が溢れている。
新宿歌舞伎町を少し歩けば、うるさいぐらいに言葉や文字が身体に飛び込んでくる。
歌舞伎町にある看板も、標識も、メニュー表も、チラシも何もかも、誰かが何かを伝えるために必要として書いている。
沢山の感情や欲望。
どの言葉もいずれ、雨に流されたり、時代に飲み込まれたりして、綺麗サッパリなくなってしまう。
言葉は消耗品だ。
形がないくせに器用に消耗されて、なくなっていく。
文字というのは多分、潔い奴なんだと私は思う。
歌舞伎町を散歩していると、人がこんなにいるのに何故か一人ぼっちだと感じてしまう。それがかえって心地よい。
当たり前だけれど書いた人と読んだ人がいて初めて言葉は意味を成す。
新宿歌舞伎町には沢山の感情が粘っこく、ドロッと浮遊している。
言葉をちゃんと使わない人達の感情と混ざって離れられなくなり、ただ街を漂っている。
街に或る言葉達のほとんどは視界に入りつつも、意味までは身体に入り込んでこない。
Bluetoothイヤフォンから好きな言葉だけ摂取して自分のリズムを作っていないと、平衡感覚すらままならず立ち上がれない。
私は野々村のぞみ。27歳。
私の仕事は物書き…ゴーストライターだ。
人の為に何かを書くことで生活をしている。
書いてほしいニュアンスや、何となくのパーツやフレーズを預かって、なんとか形にする。
相手の脳ミソに入っていって、その人の価値観やルールを私の身体にインストールして言葉にする。
《ゴースト》とは良くいったものだ。幽霊だから相手の身体にも取り憑いて、入っていける。
私自体に言いたいことはない、けれども文章を書くのは好きだ。
最近…ふと、気がついたことがある。
私はここ最近、私語を話していない。
私はここ最近、私語を書いていない。
私はここ最近、私を見かけていない。
そして…歌舞伎町の喧騒を、まだ言葉として私は捉えられていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます