第12話 誰かからのSOS

 場の空気が冷えきり、凍りつく。

 少女を省いたその場の全員が目を見開いたまま言葉を失っていた。

 この空間内に静寂が訪れ呆然と口をかっぴらいている中、少女だけが口元で弧を描き笑っている。

 しばらく続いた静寂。そこに終止符を打つように口を開いたのはひびき先輩だった。

「アンタ、子供だからとはいえ言い方は考えなさいよ」

 ひびき先輩の声からひしひしと伝わる怒りの感情。

 しかし、それでも少女は笑って答える。

「事実を言って何か悪いことでもあるのかい?ぼくは現実を突きつけただけさ」

 少女の言葉にひびき先輩は眉間に深いしわが刻まれる。

「だからって、本人の前で言うことじゃないでしょ」

 ひびき先輩は即座に反論するが、少女はその言葉を聞くと大きな声で笑い始めた。

 声変わりも始まっていない幼い笑い声が不気味にもその場によく響く。

「でも、ない希望を持っていたって無意味なだけだろう?」

 少女の背後に立っていた男性はその言葉に黙って俯いてしまった。

 A4紙がくしゃりと音を立て、わずかにしわができている。それを握りしめる彼の姿はどこか哀しさを感じた。

 ひびき先輩は苛立ちからかこぶしを握る力を強めた。

 私はもう一度、あの紙に貼ってある写真を見つめる。

 彼女のことは知らないはずなのに、もやもやする。妙な既視感が頭をよぎる。

『……けて、』

 誰かの声が聞こえる。

『たす……けて、』

 この声はどこからかだろう?辺りを見渡しても誰もいない。

『我の友達を……こころを、助けてくれ』

 ふと、持っていた鞄の方へ目をやるとキーホルダーの様につけていたステッキが白く光っていた。

 まさか、ここから?

「ねぇ、貴方は……」

 咄嗟にステッキへ声をかけてしまう。

 が、答えは返ってくることはなかった。

 すごく、悲痛な声だった。必死にひねり出したかの様な声で助けを求めていた。

 "こころ"この紙に書いてある名前と同じ名前だった。

 とても、偶然とは思えない。

 ステッキを通して来たってことは、彼女ももしかして魔法少女なのかな?

 どちらにせよ、助けを求められたからには助けなきゃ。

 それが、私の憧れた英雄だから。

 私は肩を落とし俯く男性に向けて言い放った。

「わ、私!この子のこと探します!」

 先程まで険悪ムードを漂わせていたひびき先輩と少女の視線が私の方へと移りゆく。

 男性は目を丸くしながら私の方へ駆け寄ってきた。

「本当にいいの?」

「はい、良ければ私にも手伝わせてください!」

 表情が徐々に明るくなってゆく男性を横切り、あの少女が私に歩み寄って来る。

「無駄だと思うけどな、ぼくは……だってどうせ見つからないんだもん」

 嘲笑を含んだ声で少女は言う。

 なぜ、彼女はここまで笑っていられるのだろうか。

 君は一体、どういう感情でこの言葉を吐いている?

 いや、それでも……。

「それでも、まだ見つからないって決まった訳ではないと思うんです!それに……助けが聞こえたんです」

「助け?」

 きょとんとした表情で彼女は私の瞳を見つめる。

 太陽のような神秘さに圧倒されつつも私は極力目を逸らしながら答える。

「はい、誰かはわかりませんが……助けてって言われたんです!そんなことを言われたら私は……見過ごせません!」

 少女に対して私は、はっきりと言葉を出す。

 すると、少女はわざとらしいぐらいの大きなため息をつく。

 やれやれと言わんばかり大げさに。

「まぁ、君がそう思うのならやればいいと思うよ。ご勝手に」

 少女はそう吐き捨てるとその場から立ち去って行った。

 彼女が背を向けようとした刹那の瞬間、どこか満足そうに笑っているような気がした。

 一体、あの子はなんだったのだろう。

「いなばちゃん!よく言ったわね、流石あーしの自慢の後輩!」

 ひびき先輩は満面の笑みで肩を組んで来る。

「ご、ごめんなさい。勝手なこと言って、魔法少女の戦いもあるのに……」

「いいのよ!人助けも魔法少女の活動の内!あーしも全面的に協力する!」

 ひびき先輩は私の不安を搔き消すかのように力強い声でそう言った。

「でも、探すにしてもまだ情報が足りないわよね……行方不明になる前日の話とか聞けたらいいのだけど」

 確かにひびき先輩の言う通りだ。

 容姿の特徴や住所が分かっても、どう居なくなったのかが分からないと探そうにも探せない。

 何かしら一つでも情報がほしい。そう思っていると男性が口を開いた。

「前日のことね、それは……現場を見てもらった方が早いかな」

 すると、彼はとある場所について私達に教えたのだった。

 それから翌日、私達はとあるアパートに足を踏み入れる。

『コーポシミズハイム』

 行方不明の少女、こころちゃんが住んでいたアパート。

 彼女はどうやら自宅の自室にいたところ、行方不明になったそうだ。

 103号室、彼女の住んでいた部屋のチャイムを鳴らす。

「はーい、」

 若い男性の声がスピーカー越しから聞こえる。

 次の瞬間、ガチャリと音を立てながら真っ白な扉が開いた。

 ドア越しから昨日の男性の姿が見える。

「本当に来てくれたんだね。入っていいよ、ここの部屋の主ではないけど……」

「お邪魔します」

 私とひびき先輩は部屋へと入っていく。

 内装はシンプルなものだが、所々に可愛らしい小物が置かれている。

 確かに、私達と同い年の子が住んでいたであろう形跡があった。

「アンタここの部屋の主じゃないって言ってたけど、どうやって入ったの?」

 ひびき先輩は男性に尋ねる。

「まずはそこから説明しなきゃだよね」

 そう言い、彼は自身のことやこころちゃんとの関係について語り始めた。

 男性の名は「瑠衣るい」この家には3年前から雇われていて親があまり帰って来ないこころちゃんの面倒を見ていたらしい。

 こころちゃんは元々活発で正義感の強い子だった。

 しかし、学校でのトラブルが原因である日から引きこもりになってしまったらしい。

 瑠衣さんはそんな彼女の為にご飯を作ってあげたり掃除している。

 事件発生当日も、瑠衣さんはいつものようにこころちゃんの為に作り置きご飯を作っていた。

 私も冷蔵庫を確認したら、確かにカレーやサラダの入ったタッパーが入っていた。

 こころちゃんはいつも通り部屋に居て、外に出る様子はなかった。

 窓も開いていないし、ベランダがあるわけでもない。

 本当に突然、神隠しにでも遭ったかのように居なくなっていた。

 こころちゃんのご両親は自分の娘だと言うのに無関心なのか動きが全くないらしい。

 だから、瑠衣さんは彼女を探そうと道端でビラ配りをしていたのだ。

「とは言っても、これだとそのこころ側の行動がよくわからないから探すにも探せないわよね……」

 ひびき先輩は瑠衣さんの話を聞き終えるとそう呟く。

 確かに、こころちゃんは部屋に居た。だけど実際のこころちゃんの行動が分からなければ探せない。

 どうすれば良いのだろうか……。

 結局、その日は何も情報を掴めず帰宅した。

 その日の夜、帰宅後も私はあの既視感と不可解さが収まることはなかった。

 気分を変えようとSNSのアプリを覗き、なんとなくトレンド一覧に目をやると、ふと一つのワードが目に入った。

「……グリッチ世界?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る