二章 グリッチの支配者編

第11話 行方不明の少女

 時が経ち、満開だった桜は散って青々とした若葉が太陽に照らされている。

 じんわりと気温が上がっていくのを感じ、本格的な夏の訪れを感じさせた。

 風が私の背中を押すかの様に吹き抜け、頬から滴る汗を冷やしていく。

 遠のいてゆくひびき先輩の背中は既に豆粒サイズ程に小さくなっていた。

「ひ、ひびきせんふぁ……待ってくらさ……」

 重い足を持ち上げ、乾いた喉に生温い唾液が通る。

「いなばちゃん、もしかして体力ない系?」

 ゆっくりと立ち止まり、私の方を振り向いたひびき先輩は引きつった様な笑みを浮かべている。

 私は息を整えながらもゆっくりと立ち止まる。

「変身してる時は……はぁ、平気なんですけどっ……通常だとすぐにっ、息が……上がっちゃって」

「いなばちゃん、声死にかけてるねぇ!?ちょっと休憩しよっか!」

「は……はいぃ……」

 私達は近くのベンチに腰をかけ、しばし休憩を図ることにした。

 ペットボトルの蓋を開け、スポーツドリンクを一気に飲み込む。

 乾いた喉に冷たい液体が注ぎ込まれ、潤いが与えられる感覚。

「ふわぁぁ……生き返る~……」

 生き返る様な心地に感動し、思わず一人呟いてしまう。

「そういや、いなばちゃんは基本バフガン積みの戦法だったわね。忘れたわ」

「うっ……その発言は心に深く刺さります……」

 でも、ひびき先輩の言う通り私は普段の戦闘は魔法に頼りきりだ。

 無いに等しい基礎体力をバフ魔法で誤魔化しているだけ。

 バフ魔法では便利だ、体力や筋力が平均以下の私でも戦場で十分通用するレベルに引き上げることができる。

 しかし、バフ魔法は便利な反面致命的なデメリットも存在する。

 それは魔力の消費が激しいことだ。

 魔力はRPGの「MP」を想像すると分かりやすいだろう、簡単に言えば魔法を使うためのエネルギーだ。

 魔力の量は体力と比例の関係にあり、体力の高い魔法少女は必然的に魔力の量が多い。

 だから、魔力が枯渇すると私達魔法少女は一気に動けなくなる。

 ここで問題なのが、私が使う魔法の燃費の悪さだ。

 バフ系は1分使うだけでも魔力の消費量が多く、更に使っている時間で消費量が増えていってしまう。

 例えば、私の魔力の上限が100として、そして1分間使うごとに20消費すると考えよう。

 するとバフが使える時間はおよそ5分。

 5分以下の短期戦ならまだしも、5分以上の長期戦に持ち込まれたらこちらが先にダウンしてしまう。

 ただでさえ一日に一回しか自然回復されない貴重な魔力だ。

 使い切って動けなくなってしまえばきっと一日中寝たきりは避けられない。

 一応、『練度』と言う魔力の消費を抑える為の技術もあるが、そちらは『精神力』が重要になってくる。

 強い魔法少女は特に練度が高く、魔力の節約ができクオリティの高い魔法を繰り出すことがのだが……。

 精神力はそう簡単に養われるものではない、それこそ経験や元々のメンタルの強さが要となってくる。

 そのため、初心者の私はまず先に魔力量を上げた方が手っ取り早いのだ。

 しかも、体力を上げればバフで上乗せされた時の体力量も多くなる。良い事尽くしだ。

 だから、私の今の課題は体力を上げてもっともっと強くなることなのだ。

 その為に、ひびき先輩の提案でランニングを始めたのだ。

「私、この魔法合ってないのですかねぇ……」

 自身の不甲斐なさに乾いた笑いしか出てこない。

 それでも、ひびき先輩は笑顔で私の肩を叩く。

「魔法少女の魔法ガチャは時に理不尽だからね……ま、大丈夫よ!元気出してこ!」

 と、親指を立てながら言った。

 この人はいつも元気だなぁ、としみじみ思う。

 明るすぎてもはや太陽だ、元テニス選手の様な後光を感じる。

「おねーさん、」

 突如、どこからか中性的な幼い声が聞こえる。

 声の方を向くとそこには、どこか儚げな雰囲気を持つボーイッシュな少女が立っていた。

 彼女の髪やまつ毛は雪の様に真っ白で、どこか異質さを醸し出していた。

「ん?どしたの?」

 ひびき先輩は少女に声を掛ける。

 少女はにこりと微笑みかける。しかし私はその表情を見て背筋に悪寒が走ったのだ。

 なんで?ただの子供の笑顔のはずなのに……。

 少女は口を開く。

「帽子が木に引っかかって取れなくなってしまったんだ。良ければ手伝ってはくれないかい?」

 小学生ぐらい子供の口から出る言葉とは思えない口調だった。

 言っていることは普通のはずなのに、なんだか気持ち悪い。

「いなばちゃん、ちょっと手伝ってくれない?」

 ひびき先輩のどこか安心感のある声にさっきの不快感が噓の様に消え去っていく。

「え?あ、はい!分かりました」

 私は咄嗟に返事をし、何をやればいいのかも分からず少女の帽子がかかってしまった木の方へ向かったのだった。

 それからしばらくして、私達は少女の帽子を取ることに成功した。

「ふぅ、助かったよ。ありがとう、優しいお姉さん達」

 帽子を受け取った少女はぺこりと深くお辞儀をする。

「いいのよ、困った時はお互い様なんだから!」

 ひびき先輩は笑顔で少女に言う。私はその光景をただただ見ていた。

「あの……すみません」

 背後から若い男性の声が聞こえる。

 振り返ると、何重にも重なった紙の束を持っている男性の姿がわかった。

 男性は一枚の紙を差し出してくる。

「この子に見覚えがありませんかね?探しているんです」

 探し人だろうかと、私は紙を受け取り書かれている文章や写真に目を通す。

 写真はモノクロで分かりづらいが、ツインテールの幼い少女が写っていた。

 私はその少女を初めて見た気はしなく、どこか既視感を覚えた。

 名前は『狼谷こころ』、歳は私と同じ『13歳』。

 特徴は茶髪で黄眼。目の下に隈があってジャージを着ている小柄な子。

 うちの学校の同級生にこんな子はいなかった。でも、既視感だけは感じる。

「どしたの?いなばちゃん、険しい顔してさ……なんこれ?」

 ひびき先輩は私の隣に入ってくるなり、渡された紙を見てくる。

「ひびき先輩、知ってますかね?」

 私はひびき先輩に問いてみるが、ひびき先輩は写真をじっと見つめると首を横に振っていた。

「いや、知らない。うちの中学の二年にもいないから……恐らく、マツキョの生徒ではなさそう」

「魔使共同学園じゃないって事は、公立の子かな……」

 私達が首を傾げていると、さっきの少女が私達と男性の間に割って入ってきた。

 その少女の表情はどこか不敵な笑みを浮かべている。

「あぁ、最近多いですよねぇ……魔使市内での行方不明事件。いやぁ、心中お察しします。でも、多分この子見つからないと思いますよ?」

 その場の空気が凍りつく。

 少女を省いたその場の全員が目を見開いたまま言葉を失ってしまった。

 この空間内に静寂が訪れ呆然と口をかっぴらいている中、少女だけが口元で弧を描き笑っていた。

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