第9話 ピンクの魔法少女
「やった……!成功した……!」
私は風穴の空いた人魚の尾ひれを見て心の中でガッツポーズをしていた。
しかし、歓喜していたのも束の間。
もう1匹の人魚が私の避けた方向へと先回りをしていたのだ。
人魚は銀色の輝きを放つトライデントを私に振り下ろす。
「きゃっ!?」
勢いよく迫ってくるトライデントに悲鳴をあげたその時、目の前に青い炎が広がった。
その青い炎は地面に乗り出した人魚のまわりを囲む様に燃え盛っている。
「ヘル・ファイア!」
聞き馴染みのある声と共にパチンッと軽快な音が鳴ると、炎は鳥籠の様な形状となり、中に居る人魚を塵も残さず焼き尽くした。
この声、この攻撃方法……まさか……。
「ふぅ、とりま1匹撃破ね」
上空から火炎放射器を持った無傷のひびき先輩がゆっくりと降りてきた。
「ひびき先輩!」
私はひびき先輩に飛びつく勢いで駆け寄った。
「あはは、ごめんねぇ……守るって言ったのにダウンしちゃって」
ひびき先輩は申し訳なさそうに笑みを浮かべながらそう言う。
「それは良いんです、怪我は大丈夫なんですか?」
私はひびき先輩の手足や翼の状態を確認してみる。
先程見た怪我は傷跡も残らず消えていて、欠損したはずの羽は修復されていた。
あそこまで満身創痍だったはずなのに、あの短時間でここまで回復するなんて有り得ない。
「なんか、あーしもよく分かってないんだけどさ……」
私が戦っていた僅かな間の出来事を教えてくれた。
あの時、ひびき先輩は敵が自分から去って行くのを見た。
この時、ひびき先輩は満身創痍であった故に私が変身をした事実に気づいていない上に身動きが取れない以上、確認しに行くこともできなかった。
全身の痛み、感覚の麻痺からひびき先輩を死を確信していた。
しかし、突然その痛みは噓のように消え去った。
意識がはっきりした頃には全身の傷や体力、何もかもが回復していたのだ。
感覚を探ってみると、自分の魔法をかけられた痕跡があり、それを辿ることで変身した私を発見し今に至ると言う。
「じゃあ、ひびき先輩の傷が治ったのは……私の力?」
「多分そだね。びっくりしたよホント……いなばちゃんがマジで魔法少女になるなんて」
私達が話しているにも関わらず、ひびき先輩の背後を横切り、トライデントが飛んできた。
トライデントは地面に深く刺さっており、白く発光している。
まずい、そう言えばもう1匹残ってたんだった!
ひびき先輩はトライデントの光を見ると、深刻そうに目を丸くした。
「いなばちゃん、それから離れて!」
「へ?」
よく分からないが、ひびき先輩の言われた通りに私は後ろへ飛び、トライデントと距離を置く。
刹那、トライデントは強い光を放ちながら大爆発を起こしたのだ。
それはもう、大きな轟音を響かせながら。
砂埃がひいていくと、そこには大きくえぐれた地面が残っていた。
ひびき先輩の指示がなかったら、私は今頃、地面と共にえぐりとられていただろう。
想像だけでも背筋が凍る。
着地を成功させ、顔を上げるとそこにはトライデントを持ち佇む1匹の人魚の姿が待ち受けていた。
「どうやら喋っている余裕はなさそうね」
ふわりと私の隣に降りてきたひびき先輩は険しい顔でそう言った。
相手はひびき先輩を一度ボロボロにした人魚……油断はできない。
ひびき先輩を守らないと、もうひびき先輩をあんな状態にはさせたくない!
そう強く思うと、なんだか体に力がみなぎってくる気がする。
「いなば……アンタもしかして……」
ひびき先輩が何かを言おうとしているのが分かったが、それは人魚達の攻撃で遮られてしまった。
人魚は私達に襲いかかり、水でできた球体を繰り出す。
その球体は静かに宙を漂うように見えるが、ほんの一瞬で周囲の空間を歪ませながらこちらに迫ってきた。
触れれば全てを呑み込む圧倒的な気配を感じる。
肌に感じる冷たさが、あの球体の危険性を如実に語っている。
「いなばちゃん気を付けて!あれは攻撃もおろか、体ごと水に取り込まれるわ!」
ひびき先輩の言う通り、逃げなければいけない。
そう頭では分かっているのに、私はなぜかその場を動けずにいた。
逃げなきゃ……でも、このままでは近くにいるひびき先輩に当たってしまうかもしれない。
そうしたらまたひびき先輩が……!
――いや違う、逃げるんじゃない。
この瞬間、私は何かに突き動かされている。
全身に走る鳥肌。
それと同時に、頭の中に鮮明に映し出されるのは、これまで見たこともない技のイメージ。
……いける。この攻撃を回避する為の技が浮かんでくる!
「"エクスプロージョン・オブ・アロー"!」
そのクロスボウの矢は球体を貫くことはなく、むしろ球体に飲み込まれて消えていってしまった。
一瞬、攻撃が無効化されたのかと思った――だが、次の瞬間。
――ドンッ!
水の球体の内部で、突如として激しい轟音と共に爆発が巻き起こった。
矢が消えたかに思えたのは、爆発のエネルギーが内部に蓄積されていたからだ。
内部から弾ける衝撃に耐えきれず、水の球体は激しく波打ち、やがて砕け散るように爆ぜた。
飛び散る水飛沫の中、私は息をのむ。まるでこの技が、最初からそういうものだと知っていたかのような感覚だった。
しかし、これで全て解決するわけではない。
あの人魚を撃退するにも、私のクロスボウ単体では攻撃力が足りない。
矢をちまちま撃っては、私が先に消耗する。
そうだ、ここには強力な攻撃を繰り出せるひびき先輩がいる。
前回ひびき先輩が使っていた大技が使えれば一気に決着がつけられる!
私はひびき先輩の元へ駆け寄った。
「ひびき先輩、『ブレイジングファイア』って撃てますか?」
そう言う私の言葉を聞いたひびき先輩の表情は少し曇る。
「撃てないわけじゃないけど……でも、あの水の球体、私の炎の火力を下げてくるのよ!」
少し焦った様な声色で言うひびき先輩。
なるほど、そう考えるとあの球体は厄介だ。
でもそれは、ひびき先輩単体の話、私が球体を全て破壊すれば火力が下がるのを防げる!
「私が水の球体を矢で破壊しながら隙をつかせます。地上で合図をするので、合図が出たらひびき先輩は上空からブレイクファイアを撃ってください!」
私は今までにないぐらいのはっきりと口調でそう言った。
作戦を聞いたひびき先輩は数秒程、迷いの表情を浮かべ口を噤んでいたが、決意を固めたのか目線を私の方へ合わせた。
「わかった。やってみよう」
ひびき先輩は頷くと、翼を広げ、空高く飛び上がる。
さて、ここからが私の仕事だ。
私は人魚の方へ矢を放ち、人魚の意識を私に向けさせようと試みる。
すると、狙い通り人魚はトライデントを振り回しながら水の球体を飛ばしながら私の方へ迫ってきた。
私は向かってくる球体達を破壊しながら付近をグルグルと走り回り続け誘導する。
きっと、普段の私であればきっとすぐに人魚達に追いつかれてしまうだろう。
だけど、今の私は身体能力には自信がある!
上空を見上げると、燃え上がる青い炎の玉ができている。
そろそろ決着だ。
矢を放ち、人魚の足元の地面を爆発で破壊し、隙を見て上空へ跳ね上がる。
人魚は割れた地面に躓き、バランスを崩した。
「ひびき先輩!やっちゃってください!」
私は声を高らかにあげると、ひびき先輩は炎の玉を人魚に向けて放った。
「OK!任せなさいっ!ブレイジングっファイアぁぁぁ!」
人魚はなにか行動をしようとしていたが、その頃には炎の飲まれ、人魚達は火花と共に姿を消したのであった。
それを見届けた私は朦朧としていく意識の中、呟く。
やった……いままで何もできなかった無力だった私が、こうやって街を脅かす化け物を倒したんだ……。
少しだけど、変われたんだ……私は。
心の底から安心した私は瞼を閉じ、そのまま意識を落としたのだった。
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