アーティフィシャル・マジカルガール

チェリミ🍒

一章 魔法少女いなば編

第0話 英雄

あれは、蒸し暑い夏の日だった。

私は放課後、いつものように校舎裏でクラスの女子グループに殴られていた。

世間ではこれを「いじめ」と言うらしい。

いじめられている理由。それは、至って単純で私からしたら心底どうでもいい事だった。

私の容姿は、普通の人とは違うとても珍しいものだった。

白い髪に白い肌、そして不意に光る鮮やかな桃色の瞳。

アルビノ……と言われたこともあるが、どうやらそれとはまた違ったものらしい。

原因はよくわかんないけど、とにかく私の見た目は普通の人から見たら異端で、目立つものだった。

最悪な事に、私は昔から引っ込み思案で人見知り。

おまけに変にお人好しで頼まれた事は断れない弱虫だ。

この2つの要素が嫌な風に発揮して今のに至る。

最近は痛覚が鈍ってきたのか、殴られてもあまり痛みは感じない。

が、微かにでも痛みは感じるし、傷跡も残るから正直やめてもらいたい。

しかし、そんなことを言えば何をされるかわからない。

あまり考えたくはないが、刃物を出されたらと思うと震えが止まらない。

だから、私は誰にも相談できず、抵抗もせずに今日もあの人達のストレスの捌け口になっている。

「あーあ、なんかつまらなくなっちゃった」

私をいじめている1人の少女がそう呟く。

「だね、前よりも反応鈍くなった感じ」

と、もう一人の少女も言う。

私の頭上にあった拳が戻って行くのを見て、私は心底ホッとした。

今日はいつもより早めに解放されそうだ。

上がりっぱなしだった肩が脱力し、ゆっくりと下がっていく。

だが、そのひと時の安堵はある一言によって一瞬にして消え去った。

「頼まれてたやつ、取ってきたよ~」

遠くの方から、誰かが手を振りながら走ってくる。

その手には太陽の光を反射させて光る銀色のハサミが握られていた。

本来、ハサミは工作や何かを切り取る時に使うのだが、多分それとは違う。

嫌な想像が頭をよぎる。嫌な予感しかしない。

ハサミを持った人物は先程まで私を殴っていた人達と話している。

逃げるなら今だと、私は気づかれぬよう足音を立てずにその場から離れることにした。

「もう少ししたら、ランドセルが取れる。ランドセルを持ったらそのまま走って逃げよう」

そう思いながら手を伸ばした。

その次の瞬間、私は首元を掴まれ、校舎の外壁に背中を叩き付けられる。

顔を上げると、そこには不敵な笑みの表情を浮かべた女子が立っていた。

悪寒が走り、歯と足がガタガタと小刻みに震える。

「あーあ、逃げても無駄なのになぁ」

そう言って、目の前の彼女はハサミの刃を私に向ける。

やっぱり予想通り、碌でもないことだった。

しかし、逃げようにも周りは囲まれていて動けない。

「私、綺麗好きだからさ、汚いものは処分したくなるの」

周りに居た女子達は動けないように私の腕と足を力強く押さえる。

振り払う力も勇気もない私は本格的に逃げられなくなってしまった。

ハサミの刃は髪の毛を結っているリボンにそっと触れる。

そのリボンはボロボロで、糸も解れて色褪せている。

でも、私にとってこのリボンは大事な物で初めて友達から貰った贈り物。

「いや……いやっ!」

足をばたつかせ、必死にもがくが拘束する手は一切離れる気配はない。

そんな私には目もくれず、目の前の彼女は言葉を続ける

「アンタのその紐、汚いじゃん?私ってば優しいからさ……そのゴミ処分してあげるよ」

その言葉に続く様に周りからは「流石__だねぇ~」、「こいつも泣いて喜んでるよ」

と、言う言葉が笑い声と共に鳴り響いた。

目が熱い、喉が苦しい、怖い、怖い、怖い。

2つの刃がリボンを挟み込んでいき、巻き込まれた髪が何本も切れる。

「……けて、……助けて」

期待はしていないが、私は周りに助けを求めてしまう。

「助けなんて、来るはずないのに。」

嘲笑う様な甲高い声が頭の中で鳴り響いた。

あぁ、あの時と同じだ。

大切な物が奪われようとしているのに、私は何もできない。

私は、弱虫だ。

「ちょっとまったぁ!」

突然、向こうの方から少女声が聞こえる。

あの女子達の仲間?いや、でもこの声に聞き覚えはない。

おそるおそる、私は声の方へ視線を移す。

そこには、黄色と白が基調の手の指が見えないほど長い袖のセーラー服を着た、茶髪ツインテールの少女が立っていた。

袖で見えない右手には玩具の黄色いハートのステッキを持っている。

「なに?アンタ」

私の手足を拘束していた手は乱暴に離れていく。

拘束が解けた私はバランスが取れず、力なく地面に座り込んでしまった。

「あ、あの子……だ、大丈夫な、のかな……」

女子達は新たなターゲットを発見したのか、不機嫌そうな顔をしているが、どこか嬉しそうに笑みを浮かべていた。

恐らく、背が小さく弱そうな茶色ツインテールの少女を見て、あわよくば次のターゲットにしようとでも思っているのだろう。

正直、こんな人達の相手なんかしない方がいい。

あの女子達のバックには男子がいる。

ターゲットにされたら、ただじゃ済まない。

私は止めに入ろうと上手く動かない身体で立ち上がろうとした次の瞬間。

「えいっ、」

彼女は右手に持っていたステッキで近くにあった木をなぎ倒したのだった。

その突然の出来事に、私は腰を抜かしてしまう。

「なに……あれ、」

当の彼女はなぎ倒した木を見つめると視線を女子達に移し、にこりと無邪気な笑みを浮かべてこう言った。

「さ、どうする?この子ともう関わらないようにするか……それとも」

私をいじめていた女子達はすぐさま顔色が青色に染まる。

中には、私同様しゃがみ込んで動けなくなっている人だっていた。

だって、誰も想像つかないだろう。

小学生低学年ぐらいにも見える少女が、玩具のステッキ一本で決して細いわけでもない木を

一瞬にしてなぎ倒してしまったのだから。

女子達は恐怖に染まった表情でランドセルを持って、仲間達を連れて逃げる様に走り去っていった。

ツインテールの少女は女子達の遠くなっていく背後を見ると、こちらの方へ近づいてきた。

「ひ、ひぃ!?」

私は小さく悲鳴をあげ、身を守るように頭を抱えた。

「え、ちょ、助けてあげたのになんで怯えるの!?」

ツインテールの少女は困った様な表情を浮かべる。

彼女の表情に悪意や汚い感情がないことに気がついた私は腕を下ろした。

「え、あ、その、ご、ごめんなさい。えっと、さっきは助けてくださりありがとうございます。」

と、私は深々と頭を下げる。

目に映る、黄色のパンプスは彼女が歩み寄る度に軽快な音色を奏でていた。

「ふん、礼を言われる程の事などしていない。だってアタシは正義の英雄ヒーローだからな!」

顔を上げると、そこには茜色をバックに黄金色の光に照らされる笑顔の彼女が映っていた。

まるでヒーローアニメの主人公みたいな決め台詞を言う彼女を、普通なら、「」で片付けてしまうだろう。

それでも私は、その時の彼女が”英雄ヒーロー”に見えて、眩しかったんだ。

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