第二話 旅は道連れ、二人旅2

 

 

 ◇ルヴィエッタ西門宿場通り 宿屋シルバの憩い




 いくつかの宿を梯子してようやく見つけた宿の一室で、僕たちは漸くの休息を味わっていた。

 表通りはどこの宿もいっぱいで1つ中道に入った、ちょっと言い方は悪いけど――古めの宿をようやくの思い出見つけたんだ。

 チェックインはルーナリアがやってくれた。正直情けない気持ちになってくる。

 僕も何かやれるようにならないとね。


 案内された部屋は割と広くてしばらく生活するのに申し分ない。とれたのは一室なんだけどね。

 ルーナリアと同じ部屋でしばらく生活するってこと。精神がいろんな意味でやばいよね。

 なんてこと、部屋を用意してくれた彼女に言えるわけもなく今に至る。


 「これからの事、なのだけど。ケンセイ、あなたはどうしたい?」

 

 ルーナリアはベッドに腰かけ、問いを投げかけた。

 どうしたいか、と言われたらやることは1つなのだけど。

 あの悪神様——公正を司るノーノリカ様に与えられた使命を全うする。

 今の僕にはこれしか目標はない。このために呼ばれたってことだし。


 ただ彼女にそれを告げるべきなのか迷っていた。

 成り行きで一緒に逃げる事になっただけだし、って考えてそこで思った。

 どのみち彼女はあの城で命を狙われていた。

 このままこの先別々に進むとしても、今このあとにサヨナラって言うのは無責任だよね。


 僕が言ったんだ。一緒に逃げようって。

 ならまずは彼女が安全な場所に逃げられるように僕も努力しないと。

 


 「神様に課せられた使命も大事だけど、まずは追われている状況を何とかしたいな。きっと追ってくるよね?」

 「ええ、間違いなく追ってくるわね。あの子がお抱えの暗殺ギルドを動かしたのなら面子があるもの、何らかの手段で仕掛けてくるわ」

 

 だよね。あれでおしまいってことは絶対にないって思っていた。それは今後も続くということ。


「それに、あなたの【スキル奪取】ね。それで奪った【異世界召喚】は彼女のよりどころよ。それを持っている限り狙われ続けるわね」

「うーん。どうしようね」

「その神様のご神託とか、ないの?」


 そう問われてふと思い出した。


 ————『「それじゃあ、よろしく。チキン君!目的とかそういうのは分かりやすくクエスト一覧で見られるからさー!」』


 クエスト一覧!そういえばそんなこと言っていたや。

 あの時はすでに体が落ち始めていたから、意識がすぐどっかにいっちゃってたんだ。


「えっと、ステータスオープン」

 

 つぶやけば目の前にステータスウィンドウが開いた。 

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 鳥田 賢生 年齢【17歳】 性別【男】

 適正ジョブ 【公正と均衡の神ノーノリカの使徒】

 ステータスレベル 1→2

 筋力 12→20(平均値30)

 体力 20→40 (平均値20)

 魔力 12→20 (平均値60)

 知性 20→40 (平均値20)

 総魔法力量 300→600 (平均値100)


 所持スキル

 【合成】EX

 【スキル奪取】G

 【隠ぺい】S

 【解析】S

 【異世界召喚】W

 【潜影】EX

 

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 ん?レベルが上がって成長してる??

 ローハンと戦って経験を得たからかな。

 この画面で……


「クエスト一覧」


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 『ワールドクエスト』

 ☆ノーノリカの試練:【スキル奪取】を用いて以下のスキルを回収せよ


 Ⅰ ワールドスキル【万華鏡】


 Ⅱ ワールドスキル【死の拒絶】

 

 Ⅲ ワールドスキル【大英雄】


 Ⅳ ワールドスキル【異世界召喚】※達成済み


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 おお。出てきた。

 4つ目の異世界召喚は意図せず達成できたけど後の3つはさっぱりだなぁ。

 というかどのスキルもやばそうなんだけど。

 これ、僕でなんとかできるやつなの??

 特に大英雄とかさ。僕に想像できないほどの強さでしょ。


「ねえ、あなた」

「あ!はい!」


 不意に声をかけられて思わず声がはねた。

 視線を向ければそこにはこちらを見つめるルーナリア。心なしかじっとりした目だ。

 思わず画面に見入ってしまっていた。


「あのね、あなた。ステータスの開示魔法なんて人目のあるところで使っちゃだめよ」

「え、でもルーナリアさんしかいないし」

「私も他人でしょう。言いふらしたりしたらどうするのよ。あなた、とんでもないステータスしてるんだからね?」


 僕は彼女がそんなことするとは思えないけれど、でも言わんとすることは分かる。

 気を使ってくれたわけだ。やっぱり彼女はいい子だ。


「ありがとう。でも、君には一緒に見てほしいんだ。ほら、僕の知識じゃどうしていいのかわからないし」

「ふうん、まあ。それはそうね、ちょっとよく見せなさい」


 そう言って彼女は僕の隣に座って、ステータスウィンドウを覗き込んだ。

 ってこれでも一般的な男子高校生なんですけど??思春期の男の子なんだけど???


「うげ、このくえすと?って言うのが公正神様(※ノーノリカを呼ぶ際の呼称)のご神託なのよね」

「う、うん。1つは終わってるけど後はさっぱり」


 うーん、と唸りながらルーナリアが考える。

 しばらくして彼女は1つため息をついて口を開いた。


「これね、今のあなたじゃ無理よ」

「だよねー」

「説明——してほしい?」


 よいしょっと僕の隣から立ち上がって対面に椅子を持ってきて座る。

 ちょっと得意げな顔をする彼女に僕はただうなずいた。


 まず、このすべてのスキルはこの大陸にある各国家の主柱といえる立場の人間が持っているという。


 【万華鏡】はシャァーリン・ツァイ聖王国の聖主。


 【死の拒絶】はセリト・アウフ魔王国の魔王。


 【大英雄】はガインハルト帝国の皇帝。

 

 それを聞いただけで今は無理だというのがわかった。

 そしてその誰もが街中でばったり会えるような相手ではない。

 つまりは潜入なりなんなりで近づいて奪い取る必要があるわけだ。うん、無理だよね。


「というわけで現状はご神託の通りに行動することは無理ってわけ。ここまではいい?」

「うん」


 指を立てよし、と腕を組むルーナリア。


「そしてこれからの事なのだけど――まずは身の回りを固めることに専念した方がいいって思う。私はここで身を隠しつつ後ろ盾になってくれそうな貴族の伝手を探すわ」


 まずは準備ってことだね。あのお姫様からの追手のこともあるけれど、それに備えるためにも準備が必要だ。

 ルーナリアは王族でもあるわけだし、密かに彼女の信奉者や手を組みたい貴族、権力者もいるかもしれない。

 そういう人に手を貸してもらえたら身の回りが安全になるかもしれない。

 でも――

 

「じゃあ僕は……」

 

 結局彼女に、任せっきりにしちゃうことにならないかな?

 そんな僕の心情を知ってかはわからないが、ルーナリアが僕に指さしながら不敵な笑みを浮かべた。


 

「あなた――冒険者になりなさいっ!」

 

 

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