第三話 冒険者になりなさいっ!


「あなた――冒険者になりなさいっ!」


 ルーナリアにそういわれた僕は翌朝、冒険者ギルドを訪れていた。

 ん?昨夜?もちろん僕は床で寝ましたよ。


 彼女が言うには冒険者になれば国境を越えたり、街に入るときに制限が緩かったりと様々な特典があるらしい。

 下から〈D級〉〈C級〉〈B級〉〈A級〉と階級が分けられていて、それによって特典や受けられる依頼が変わると言う。

 〈C級〉になれば他国への越境がとても楽になるらしい。

 つまりは目的を達するためにも、お姫様の魔手から逃れるためには別の国へ渡りやすい手段が必要だ。

 それを用意するのが僕の役目になった。


 ギルドの内装は想像通りの酒場風。

 でも思っていたよりもアウトロー感というか、粗野な雰囲気はなく、ちょっと賑やかな量販店の一角みたいな感じだった。

 僕くらいの年齢の人から父親くらいの人まで幅広く集まっている。

 ちょっとした人垣をよけながら受け付けっぽいカウンターへと進んだ。


「えっと、冒険者の登録ってここでいいですか?」

「ええ!ええ!こちらでございますよ!初のご登録です??」

「はい。今回が初めてです」


 登録を担当している受付の女性に促されて、ステータスの登録を行う。

 黄ばんだ紙——羊皮紙というやつ。それに書いてある魔法陣に掌を当てることで登録するようだ。

 もちろん【隠ぺい】のスキルを使って平均値より低めのステータスを偽装した。

 ルーナリアの考えだ。

 目立ちすぎても良くないし、かと言って低すぎれば認定が下りないか舐められて余計なトラブルに巻き込まれるかもしれないってことらしい。


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 鳥田 賢生 年齢【17歳】 性別【男】 ※隠ぺい適用中

 ジョブ 【スカウト】

 ステータスレベル 12

 筋力 20(平均値30)

 体力 20 (平均値20)

 魔力 40 (平均値60)

 知性 30 (平均値20)

 総魔法力量 100 (平均値100)


 所持スキル 【合成】

 

※以下所持者のみ閲覧可能項目です

 【スキル奪取】【隠ぺい】【解析】


 【異世界召喚】【潜影】

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「はい。ええ、ええ。良いステータスですね!」


 ジョブを斥候職にして、レベルを実際の数字よりも+10増やした。

 ルーナリア曰く2レベルだけどステータスの数値的にはこのくらいらしい。

 受付の人の様子を見るにこれで正しかったみたい。


「では、こちらをお持ちください。このカードが証明書になりますので」


 そういって差し出されたのは1枚のカード。銅で作られたクレジットカードの様なものだ。

 それを受け取って登録完了だ。

 さっそく何かしらの依頼を受けてみようと思う。

 

 「何か初心者にお勧めな依頼とかありますか?」

 「はい、初めてならまずは薬草採取が定番ですね。地味な作業ですがそれなりにいい報酬がでますよ。薬草の買取はうちがやりますので」


 やっぱり定番なんだ。異世界召喚の初クエストといえば薬草摘みだよね。

 【解析】のスキルがあればきっと容易いはず。


「おいおい!そんななりで冒険者かよっ!」

「ぎゃはは!たよりねぇ格好だなあ!」

 

 不意に背後から男二人の声が聞こえた。

 どうやら僕に言っているらしい。声色はいつものいじめっ子三人組に似てる。

 振り返って見てみれば、案の定厳つい男二人がニヤニヤとした笑みを浮かべながら僕を見下ろしていた。

 左側の男はスキンヘッドに眼帯で筋骨隆々。右側の男は細いシルエットだけどすごく背が高い。

 絵にかいたような荒くれものっていう感じだった。

 

「あ、ルドさん!ドーマクさんも戻ってらしたんですね」


 受付の人が明るい笑みで二人に声をかけた。

 えっと、そんなにフレンドリーな反応なの?


「おう!今朝がたなぁ。それよりも、兄ちゃん!その服装で外出ようなんて甘いぞ!」

「そうそう!いっぱしの冒険をするならな、頼りになる装備ってもんが必要さ!」


 二人が僕の肩を掴みながらそう言った。

 ずいっと凄むような装いで言い寄られると正直怖い。

 僕が反応できずにあたふたしていると──

 

「ほら!二人とも!新人さんが怖がってますよ!特にルドさんは顔が怖いんですからっ」

「んん?……おっとすまんなぁ!」


 受付の人が助け船を出してくれた。その一声で二人は少し距離を放してくれた。


「ごめんなさいね。顔は怖いけどいい人たちなのよ?」


 この二人はB級冒険者パーティー〈キマイラ〉の一員でここのギルドのOBらしい。

 獅子頭のルドヴィッカさんと、蛇腹剣のドーマクさん。

 普段は各地の危険な魔物やダンジョン攻略などをやっているけど、時折帰ってきては様子を見に来ているという。

 見た目で人を判断しちゃあだめだよね。

 でもスキンヘッドのルドヴィッカさんが獅子頭とは?

 

 ともかく、二人は新人だと一目でわかった僕の姿を見て忠告しようとしたわけだ。

 ここの冒険者ギルドでは一定のランクになるまで装備の貸し出しを行っているらしい。

 先達たちの習慣みたいなものが定着した相互扶助というもので、これが新人たちの離職率を下げているという話。

 それを僕に教えようと声をかけたみたい。


 二人は脅かして悪いなぁ、と笑っていたけれど。

 そんなこんなで受付の人から説明を受けて、必要な道具を見繕って指定の森に向かおう。

 

 少しでも成長して自立しないとね。


 

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