第11話 縁を結びしは


――――何の縁か、しかし見比べるその顔立ちはどことなく面影がある。


「俺がじいちゃんから聞いた話だと、ある日跡形もなく消えた大叔父は右目が黒で左目が紫だったそうです。あと単純に祖父の若い頃の写真にそっくりだったんで。これでもおじいちゃん子でしたから覚えていたんです」

は……はい!?ひとまず地球とこの世界の時間軸や流れは違うと言うことは確実だ。

しかしこの勇者の大叔父が……まさかのヨルうぅぅっ!?


「ゆ、勇者。ところであなたの名前は!」

「え、知らなかったんですか!?」


「いやぁ……その。この世界の人間にとって、日本名は覚えづらいと思うし、その頃はまだ記憶が戻ってなかったの!」

「聖女さんは生まれながらの転生者ではなく、途中で蘇った系なんですね。まぁ、そうですね。俺は東堂とうどうアカルと言います」

ヨルの対極みたいな名前してるわね、農夫にチェンジ勇者。


「じゃぁヨルの苗字も同じだったのかしら。東堂……?」

「さぁ……?」

ほんっと……。闇落ちならぬ病み落ちした時に大切なものポロッと落っことしたのか、こやつっ!!


「あなたの名前は、東堂とうどう和親かずちか。うちのじいちゃんから聞きました」

「それが……ヨルの本名……っ!」

「知らない。俺の今の名前は……ヨルだから。イェディカがつけてくれた、名前がいい」

「そう。ヨルが言うなら」

私もすっかりヨルで定着してしまったし。


「でも……和親かずちかさんにじいちゃんから伝言があって。それだけは伝えていいですか?たとえあなたがもう和親かずちかさんではなくても、今なら聞いてくれそうな気がします」

ううんと……言い方が気になるわね?ヨルったら、アカルくんを見付けて問答無用で連れてきたのかしら?


「お前の祖父……」

ヨルが何だか迷惑そうに顔を背けるが。

「あなたの実の兄です」

そう、なるわよね。勇者……いやアカルくんの大叔父ならそのおじいちゃんの兄弟ってなるわね。


「『助けてやれなくて、すまん。どこかで生きているのなら、幸せになってくれ』って」

幸せであることを願うのではなく『なってくれ』。アカルくんのおじいさまは、ヨルが違う世界で今ここで生きていることを分かっていたようだ。それにその言葉は過去のもののはず。


「祖父は目の色が両方黒でしたが、双子だったそうです」

そりゃぁそっくりだわ。まぁ似てない双子ももしかしたらいるかもだけど。まさか双子のシンパシーで何かを悟ったのかしら。


「あなたは……ヨルさんは多分、色素が左目だけ薄く偶然紫になったのだと。日本人のアルビノは、よく知られる赤よりも青や紫がかった色が多いそうです。じいちゃんの子どもの頃はあまり知られていなかった。だからこそ……」

まさか、その『助けてやれなくて』ってのは。


和親かずちかさんは暗い座敷牢に閉じ込められて育ったそうです。そのまま逃げ出した形跡もなく、跡形もなく消えてしまったのだと」

ヨルは日本でもこの世界でも封じられたような生活を送ってたんだ。

――――けれど。


ヨルがこうして封印から解放されて、結婚して病みながらも、幸せになることが分かっていたような伝言だった。しかもその封印を破るきっかけとなったのもアカルくんである。

そのアカルくんを生かして連れてきたのも、やはり浅からぬ縁だわ。


「知らない」

よるはぷいと顔を背けたけれど。

でも……。


何もない場所を見上げて何だか考え込んでいたのか。それともヨルも何かを感じていたのか。それは何も語らないので謎であるが。


「そうだ、アカルくん。おじいさまの名前を聞いてみてもいい?」

「じいちゃんのですか?じいちゃんは『史親ふみちか』ですよ」


「……そう」

やっぱりそうだったのね。これも史親さんが結んでくれた縁なのかしらね?


「そうだ……聖女さまも野菜、どうですか?ここは箱庭だからか、育つのも早いんですよ」

「……そうねぇ。何かもらって行こうかしら」

アカルくんから野菜が盛られたざるを受け取ってヨルに持たせれば。どこか満足そうな表情をしていた。


不意に吹き抜けたのは、懐かしい花びらを纏った風だ。何かを教えてくれたような気がしたのは……気のせいだろうか。



【完】

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夜の勇者と星の聖女~封印から目覚めた勇者が病み落ち魔王と化していたんだけども~ 瓊紗 @nisha_nyan_

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