第39話

「おまじないものろいも実のところ同じって知ってた?」

「全然違うって!」

 元気さが取り柄の青年がそう否定した。

「特定の誰かの不幸を願い自己満足するのが呪い、自己の幸福のために不特定多数の不幸が犠牲になるのがおまじない。存外本質、根源は同じどちらも誰かを犠牲に払うという点においては。それにどちらも何かを願っている」

 そういう意味ではおまじないも、ある意味悪質だ。まあ不特定多数の誰かに集中して不幸が起きるのか不特定多数に分散されるのか、それによっては変わってくるかもしれない。試しようがないけれど。

「いやいや、それは見方としてひねくれすぎでしょ」

 大袈裟な。

「それは否定できない気がする」

「おまじないってもっとこう」

 もっとから先に続く言葉は思いつかなかったらしい。手を頭の上で上げてわけのわからない挙動をしていた。

「幼稚」

「なんで?!」

 オーバーリアクションだ、と思った。

「でおまじないが、何? 本題はね?」

 結局何を言いたかったのかと問うた。

「最近ほら流行ってるってよく来る子達が言ってて」

「いつでも流行ってるけどな。吉岡はあれか?ガキのお守りで仕事サボってますという自白か」

 何故だか老若男女問わず彼の周りにポップアップするというか、慕われている。だからかそういう話も回ってくる。

「違う違う、自白なんて横暴な。おまじないって可愛いですよね。そんな時期があったなぁって」

「いや知らんわ、ねぇよそんな時期。誰もが通った時期だと思うなよ」

 売られた喧嘩は買えって教わってんだよこちとら。

「そういう話は胡内さんの方が得意だろ、聞いて損したわ! 返せ時間をよぉ」



 いつだったかそんな話をした記憶がある。ほんとにどうでもいいけれど。呪いという話題がリンクしたからだろう。もっとも今は口にするだけでただ不謹慎なだけの話。

 吉岡という青年を表すなら、人に慕われて老若男女問わずが彼を好いていた。知る限り手の届く人にできる範囲で手を差しのべる。平等に誰にでも優しく接する好青年。そんな人物だったと記憶している。


 とは言っても相容れない人間が彼にもあったそれは田口連夜、田口が意味もなく人を小馬鹿にした態度がどうも許せなかったらしい。仲が険悪というのではなかったが。


 まぁどうでもいい話だろ。


 人数合わせ的な側面が強く、吉岡と胡内さんは調査員として当時配属されて来た。危険性の少ない情報収集のための本屋という場所ではそれはさして問題にはならなかったというのも大きく影響していた。とはいえ彼らは人数合わせとしての性質上実地には向いてはいなかった。調査員といっても調査員と調査員の二種類が明確にはある。そこには大きな差異がある。それは覆りはしない事実。つまり人事部の浅はかな、身勝手な采配によるしわ寄せが招いた。


 中々言って抗議したところで聞く耳を持たない。そう、散々私達が上申していたのにだ。


 もちろん結果としては私にも非がある。


 ほんとはもう一つ助けられる手段はあった。他を優先したから。鑑みれば私が殺した。


 

 

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