第7話 二兎の小説

「ただいまー、つっても誰もいないんだがな。」


二兎がそう言いながら玄関のドアを開ける。

二兎のご両親は彼が一生働かなくても暮らしていけるほどの莫大な資産と、一人で住むには大きすぎるこの家を残して二兎が18歳のときに亡くなった。

両親二人だけで旅行に行った先での不慮の事故。

もしかしたら二兎は18歳のままで時が止まってしまっているのかもしれない。


「誰もいないなんて言わないでよ...。」


私は二兎の家にある仏壇に向かう。


「二兎のパパ、二兎のママ、二兎は今日も元気でした。」



それから部屋の掃除。

二兎は一人暮らしを始めてからもう10年も経つのに、全然家事を覚える気がない。

私がこうやって手を出してしまうのも良くないのだろうけど、散乱しているゴミを目にするとどうしても放ってはおけないのだ。



「あんたって、なんでこんなに部屋を散らかせるの?」


ため息をつきながら掃除をする私なんてお構いなしに二兎はパソコンに向かっている。


「ちょっと聞いてる!?」


「ん?あぁ、ごめんごめん。そんなことより、さっき俺たちが行ってた世界の小説、これだと思うぞ。」



二兎が見せてきた画面を覗き込む。


【狙われない学園 VS セーラー服とマシンガン】


さっきまでいた学園が舞台の小説のタイトル、これ???

いや、さっきまで私セーラー服着てマシンガン持ってたけども。

私が主人公だったってこと???


理解が追いつかないけど、とりあえず小説を読んでみるか...。



<―――こうして二人は愛を誓い合いったのでした。>


さっきまでいた夢の世界は本当に二兎が書いた小説の中だったみたい。

あっ、続きが少しだけ書かれてる!


<ギルドマスターは二人に新婚生活の資金を稼がせるために薬草取りのクエストを与えました。>


ギルドマスター???

あ、案内してくれた女の子のことかな?二兎は団長って呼んでたけど...。

学園物のはずなのにギルドマスターとか薬草取りのクエストとか、世界観がよくわからない。

しかも小説はここで終わっている。なんだか嫌な予感がする。



「二兎、この話の続きは?」


「それ、続きが思い付かなくなって途中で書くのやめたっぽい。」


「なにそれ!?」


「そんな昔の作品じゃなくてさ、今書いてるやつも読んでくれよ!流行りのホラー物に挑戦してるんだぜ!」



【狙われない学園 VS セーラー服とマシンガン】の最終更新日は10年前の今日だった。


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